迎えに来たのは、誰だったのか

洞窟と天使

登山サークルに所属していた三人の青年が、冬休みを利用してある山に登ることを決めた。

それは彼らにとって憧れの山だったが、経験者からは「まだそのレベルじゃ早い」と止められていた。

しかし、若さと無謀さが勝った。
「大丈夫だよ」「行けるって」――そんな言葉に背中を押されるように、彼らは決行した。

登山の序盤は順調だった。
雪を踏みしめながら笑い合い、写真を撮り、まるで冒険の映画のようだった。

しかし、天候はあっという間に豹変した。

突風と雪が視界を奪い、気温は急激に下がった。
やがて、進むことも戻ることもできなくなり、彼らは完全に遭難してしまう。

悪天候の中を必死にさまよい、やっとの思いで見つけた洞窟に避難した。

洞窟の中は暗く湿っていたが、外の吹雪よりはましだった。
彼らは震える手で火を熾し、少しでも寒さを和らげようとした。
「助けが来るまで、ここで耐えよう」――そう決めた。

数日が経った。
手持ちの食料は底を尽き、ライターのガスも切れて火も消えた。

洞窟の中は氷のように冷たく、息をするたび白い煙が揺れた。

三人のうち一人が体調を崩し、動けなくなった。
残る二人も衰弱していたが、仲間を見捨てることはできなかった。

「このままじゃ…やばいな」
「でも、動けねえよ」

会話も途切れがちになり、静寂の中に風の唸りだけが響いた。

それからさらに数日後。
極限状態の中で、三人は交代で洞窟の入口に立ち、救助を待った。

そのとき、見張りに立っていた一人が突然叫んだ。

「迎えが来たぞ! 助かったんだ!」

その声に、洞窟内で横たわっていた仲間も、最後の力を振り絞って立ち上がった。
三人は雪を踏みしめ、ふらつきながら洞窟の外へと出た。

そこには――確かに“人の影”があった。
救助隊のように見えた。
彼らは何も言わずに手を差し伸べてきた。

三人はその手に導かれるようにして、下山の道を歩き出した。

後日。

入院していた三人のうち、体調を崩していた一人が回復し、残る二人が見舞いに来た。

「よく、救助隊を見つけられたな」
「暗くて、道なんて見えなかったのに」

そう言うと、あの日“迎えが来た”と叫んだ彼は、少し首を傾げた。

「え? 俺はちゃんと見えたよ。明るかったし、人がいたじゃん」

「でも、あの崖の方角から来たって言ってたろ? あそこは人が登れるような場所じゃない」

三人は地図を開き、当時の位置を確認した。

確かに、彼が指差した方向には断崖絶壁が広がっている。
どんな救助隊でも、あの地形からは来られない。

実際の救助隊が到着したのは、全く反対側の斜面だった。

彼らを導いた“迎え”は、果たして何者だったのか。

あの手が人間の手だったのか、
それとも――山そのものが差し伸べた、別の世界への“手”だったのか。

三人のうち、今もその話をすると黙り込む者がいる。

彼はあの日、確かにこう言った。

「俺はあの時、暖かい光の中に立ってた気がする」

その言葉を聞くたびに、二人は互いに視線を交わし、黙って頷くのだ。

――あれは救助ではなく、“お迎え”だったのかもしれない。

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