
登山サークルに所属していた三人の青年が、冬休みを利用してある山に登ることを決めた。
それは彼らにとって憧れの山だったが、経験者からは「まだそのレベルじゃ早い」と止められていた。
しかし、若さと無謀さが勝った。
「大丈夫だよ」「行けるって」――そんな言葉に背中を押されるように、彼らは決行した。
※
登山の序盤は順調だった。
雪を踏みしめながら笑い合い、写真を撮り、まるで冒険の映画のようだった。
しかし、天候はあっという間に豹変した。
突風と雪が視界を奪い、気温は急激に下がった。
やがて、進むことも戻ることもできなくなり、彼らは完全に遭難してしまう。
悪天候の中を必死にさまよい、やっとの思いで見つけた洞窟に避難した。
洞窟の中は暗く湿っていたが、外の吹雪よりはましだった。
彼らは震える手で火を熾し、少しでも寒さを和らげようとした。
「助けが来るまで、ここで耐えよう」――そう決めた。
※
数日が経った。
手持ちの食料は底を尽き、ライターのガスも切れて火も消えた。
洞窟の中は氷のように冷たく、息をするたび白い煙が揺れた。
三人のうち一人が体調を崩し、動けなくなった。
残る二人も衰弱していたが、仲間を見捨てることはできなかった。
「このままじゃ…やばいな」
「でも、動けねえよ」
会話も途切れがちになり、静寂の中に風の唸りだけが響いた。
※
それからさらに数日後。
極限状態の中で、三人は交代で洞窟の入口に立ち、救助を待った。
そのとき、見張りに立っていた一人が突然叫んだ。
「迎えが来たぞ! 助かったんだ!」
その声に、洞窟内で横たわっていた仲間も、最後の力を振り絞って立ち上がった。
三人は雪を踏みしめ、ふらつきながら洞窟の外へと出た。
そこには――確かに“人の影”があった。
救助隊のように見えた。
彼らは何も言わずに手を差し伸べてきた。
三人はその手に導かれるようにして、下山の道を歩き出した。
※
後日。
入院していた三人のうち、体調を崩していた一人が回復し、残る二人が見舞いに来た。
「よく、救助隊を見つけられたな」
「暗くて、道なんて見えなかったのに」
そう言うと、あの日“迎えが来た”と叫んだ彼は、少し首を傾げた。
「え? 俺はちゃんと見えたよ。明るかったし、人がいたじゃん」
「でも、あの崖の方角から来たって言ってたろ? あそこは人が登れるような場所じゃない」
三人は地図を開き、当時の位置を確認した。
確かに、彼が指差した方向には断崖絶壁が広がっている。
どんな救助隊でも、あの地形からは来られない。
実際の救助隊が到着したのは、全く反対側の斜面だった。
※
彼らを導いた“迎え”は、果たして何者だったのか。
あの手が人間の手だったのか、
それとも――山そのものが差し伸べた、別の世界への“手”だったのか。
三人のうち、今もその話をすると黙り込む者がいる。
彼はあの日、確かにこう言った。
「俺はあの時、暖かい光の中に立ってた気がする」
その言葉を聞くたびに、二人は互いに視線を交わし、黙って頷くのだ。
――あれは救助ではなく、“お迎え”だったのかもしれない。