おかんの夢

椅子(フリー写真)

おかんが癌で亡くなって6年になる。

癌を見つけた時にはもう余命一年の宣告。

親父と相談の上、おかんには告知しなかった。一年間、騙し続けた。

私はその時、二番目の子供を妊娠中。大きな腹でおかんの病室に通った。

ある日、おかんが私の腹を撫でて、まだ見ぬ孫の名をつけて呼んだ。

※

おかんの死後、ちょうど一ヶ月の日に娘は生まれた。

母がが呼んでくれた名前を娘につけた。凄く愛しそうに呼んでくれた名前だから、迷わなかった。

母は夢に出て来ることも姿を見せることもなかった。妹のところにも。

私は母を騙し続けたことに、とても罪悪感を感じていた。

例えモルヒネが処方されて、

「お姉ちゃん(母は私をこう呼んでた)、この薬は何?」

と聞かれても、

「ただの鎮痛剤じゃない?」

と言って誤魔化していた。

一日ずつ命が減って行く母に、それを悟られまいと必死で嘘をついていた。

母は私を恨んでいる。何の心の準備も出来ず、亡くなったのは私のせいだ。

親父は母の闘病中から娘より若い愛人を作って母のことは全部私に任せていたので、余計責任を感じていた。

私のところに出て来なくても当たり前だよな、そう思っていた。

※

先週、娘とお風呂に入っていると、娘がこう言った。

「ママ、私の名前はママのおばあちゃんがつけたんだよね」

ああ、話したことあったかな…と思って、

「そうだよ」

と答えた。

「私、この名前大好きって言ったら、おばあちゃんが嬉しいって言ってたよ」

驚いた。

「いつおばあちゃんに会ったの?」

と聞くと、

「いっつもいるよ。ミルちゃんって白いネコさんとお庭とかに」

ミルちゃんは母の死後すぐに死んだ、母の可愛がっていた飼い猫。

写真も家には残っていないし、娘が知る筈もない。

思わず娘に聞いてしまった。

「おばあちゃん、ママのこと怒ってるでしょ」

そしたら娘は、

「明日聞いてあげるね」

と答えた。

娘には見えるけど、私に見えないのが何よりの証拠。

娘のところには出て、私のところには夢にすら出ない。

嬉しいけど、悲しかった。

※

でもその夜、夢を見た。おかんだった。

実家の両親の部屋で、生前使っていた椅子に座っていた。膝にはミルちゃん。

夢の中で、私は母に謝った。

ごめん。騙しててごめん。号泣した。

「……ごめんねぇ、お姉ちゃんつらかったよねぇ。

お母さん怒ったりしてないよ? 毎日病室で色々笑わせてくれて、楽しかったよ」

母が手を握ってくれた。温かかった。一層泣けてきて、自分の泣き声で目が覚めた。

起きても母の手の感触が、体温が手に残っていた。

※

朝起きて来た娘が言った。

「おばあちゃん、ママとお話したんでしょ? おばあちゃんが言ってたよ。良かったねママ」

今も娘は母が見えるらしいけど、私には見えないまま。

でもそれでもいい。母が傍にいることが解ったから。

もうすぐ母の命日が来る。

お墓と仏壇を掃除して、母が大好きだった作家の新刊でも供えてあげようと思う。

怖い話・不思議な体験・都市伝説まとめ|ミステリー

最後まで読んでくださって、ありがとうございます

この話が少しでも心に残ったなら、それだけで書いた甲斐がありました。
当サイトは個人で運営しており、いただいたご支援はサーバー代やドメインの維持費に大切に使わせていただきます。

¥240 の一度きりのお支払いで応援いただけます。
お礼として、以後ずっと広告を非表示にいたします(継続課金はありません)。

くわしく見る →

メンバーなのに広告が表示される方

ブラウザを変えた・Cookieを削除した場合は、登録のメールアドレスを入力してください。