キャンプ場の怪異 ― 果物を投げた女の霊

果実を投げた女の霊

この話は、私がまだ中学生だった頃のことです。友人の家に泊まりに行った夜、友人の父親が怪談を語り始めました。

「お前たち、幽霊の存在を信じるか? 俺も若い頃に一度だけ、不思議な体験をしたことがある」

そう言って、ゆっくりとした口調で語ってくれたのです。

それは、彼が22歳の頃の出来事でした。

高校時代の陸上部の仲間たちと、久しぶりに集まってキャンプへ行くことになりました。場所は静岡県の山奥にあるキャンプ場。電車とバスを乗り継ぎ、さらにバス停から1時間ほど歩かなければ辿り着けない場所でした。

3人で歩いていると、道の脇に新しい花束が供えられているのを見つけました。全員、意味を悟りながらも無言で通り過ぎようとした時、仲間の一人が口を開きました。

「なあ、この花束…。きっと最近、ここで事故にあった人のものだよな」

気になった私たちは、持ってきたお菓子や果物を供え、合掌してからキャンプ場へと向かったのです。

キャンプ場は天候が悪かったせいか、他には2組しか来ていませんでした。私たちは河原にテントを張り、キャンプファイヤーを囲んで昔話に花を咲かせました。やがて夜が更け、雨が降り出したのでテントへ入りました。

ところが雨脚は強まり、川の増水が心配になった他の2組は、テントを山の方へ移動していました。私たちも同じようにテントを移しました。

移動後、横になると雷まで鳴り始めました。眠ろうと目を閉じたその時です。

「ボン…ボン…」

何かがテントに当たる音が聞こえてきました。雨粒ではありません。石を投げつけられているような音でした。

「隣のテントの悪戯だろう」

そう思って外に出ましたが、誰もいません。隣のテントを覗くと、仲間たちはぐっすり眠っており、もう1組も同じでした。

安堵して戻ろうとしたその時、再び音が響きました。

「ボンッ! ボンッ!」

先程よりも力強く、明らかに投げつけられている音でした。仲間の一人が恐る恐る外を覗くと叫びました。

「あっ! 女だ! 白いワンピースの女が何か投げてる!」

私たちは全員で飛び出し、女を追いかけました。女はキャンプ場を抜け、バス停へと続く道を駆け下りていきます。

元陸上部の私たちならすぐに追いつけるはずでした。しかし、女との距離はみるみる広がり、時折振り返る余裕すら見せるのです。全速力で走っても追いつけず、やがて体力が尽きて立ち止まりました。

その時、脇に花束が見えました。来る途中で合掌し、供え物をしたあの場所です。

「まさか…さっきの女、あの花束の幽霊じゃないのか?」

「でも、俺たちは手を合わせただけだろう…」

そう言い合いながら、強まる雨の中をキャンプ場へ引き返しました。

戻ってきた私たちが目にしたのは、土砂崩れで跡形もなく押し潰された自分たちのテントでした。もしあのまま眠っていたら、確実に命を落としていたでしょう。

慌てて公衆電話から警察に連絡し、駆けつけた自衛隊と共に救助を試みましたが、隣の2組は生き埋めとなり、多くが命を落としていました。

やがて作業中、私たちのテントがあった場所から果物がいくつも見つかりました。それは、行きがけに花束へ供えた果物と全く同じものでした。

警察に送ってもらう途中、花束の場所に立ち寄ると、供えたお菓子は残っていましたが、果物だけが消えていました。

「やっぱりあの女が…俺たちを助けてくれたんだ」

そう言って、再び深く合掌したのです。

警察官はその後、静かに語ってくれました。

「一週間ほど前、この場所でキャンプ帰りの女の子3人が事故に遭い、そのうち1人が亡くなっている。その子は、白いワンピースを着ていたらしい」

あの夜、白いワンピースの女が果物を投げて知らせてくれなければ、私たちは生きてはいなかった。

彼女は恨みの霊ではなく、命を救うために現れたのだと、今でも信じています。

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