箱根の旅館にて

旅館

会社のK子さんから聞いた不思議な体験をお話しします。この話は彼女が妹さんと経験した実際の出来事です。

先月の末、K子さんと妹さんは箱根にある古い温泉旅館へと足を運びました。この旅館は文豪も愛した由緒正しい場所で、静寂に包まれた雰囲気がありました。

温泉と食事を堪能した後、二人は少し外に出ることにしました。ロビー階に降りる途中、仲居さんたちを何人もすれ違い、宴会が行われている広間の賑やかな声も聞こえてきました。

しかし、外の散歩から戻り部屋へと戻る途中、何故か自分たちの部屋が見つからなくなりました。旅館はそれほど大きくないにも関わらず、二人は部屋への道を見失ってしまったのです。

廊下を行ったり来たりするうちに、周囲がどんどん静かになり、先ほどまで聞こえていた宴会の声も消えてしまいました。次第に迷子の恐怖が二人を襲います。

不安を感じ始めたとき、茄子紺色の丹前を羽織った初老の女性が現れ、「どうかなさいました?」と尋ねました。K子さんたちは安堵し、自分たちが部屋を見つけられないことを伝えました。しかし、女性はカラカラと笑ってその場を去り、二人は再び道を探し始めました。

不思議なことに、その女性が去った直後、部屋がすぐに見つかりました。妹さんは、その女性が何者かの係で、彼女の去る際に空気が変わったと感じたと言いました。

翌日、二人は不安から早々に宿泊をキャンセルしました。地元のタクシー運転手からは、その地域で同様の迷いが起こることがあると聞かされました。外でも宿内でも、迷った人々が最終的に元の場所へ戻る直前に、いつもその初老の女性と出会うというのです。

この話を聞いて、箱根の自然が織り成す不思議な力や、もしかすると旅館に宿る何かが関係しているのかもしれないと思いました。

関連記事

枕(フリー写真)

槍を持った小人

最近の話。 俺の家は四人家族で、いつもカミさんと上の子、一歳の下の子と俺が一緒に寝ているのだけど、この下の子がよくベッドから落ちる。 俺も気を付けて抱っこしながら寝たりする…

抽象的(フリー素材)

親父の予言

数年前、親父が死んだ。食道静脈瘤破裂で血を吐いて。 最後の数日は血を止めるため、チューブ付きのゴム風船を鼻から食道まで通して膨らませていた。 親父は意識が朦朧としていたが、…

葛籠(つづら)

俺は幼稚園児だった頃、かなりボーッとした子供だったんで、母親は俺をアパートの留守番に置いて、買い物に行ったり小さな仕事を取りに行ったりと出かけていた。 ある日、いつものように一人…

裏世界

裏世界への通路

これは、私が小学5年生だった頃に体験した、今でも忘れられない奇妙な記憶である。 夏休みのある日、私は自宅の裏にある大きなグラウンドで、自由研究として「身近にいる昆虫リスト」を作…

夜の山と月(フリー写真)

夜の山は人を飲み込む

十代最後の思い出に、心霊スポットとして有名なトンネルがある山に行った時の話。 俺と友人三人は金も車も無かったので、バスを乗り継いで現地に向かい、夜に歩いて帰宅するという、今考えた…

未来の自分から

今から20年くらい前の出来事。 一人っ子だった俺は、幼稚園から帰ってくるとファミコンをするか家の目の前の公園で一人で遊ぶのが日課だった。 最初はどんな出会いだったかは憶えて…

タイムスリップ(フリー素材)

時を隔てた憑依

最近ちょっと思い出した話がある。 霊媒体質の人には意識が入れ替わることがあるらしいけど、これは意識がタイムスリップして入れ替わったとしか思えない話。 ※ 数年前、ある人に連れ…

消えた数時間

今日、変な体験をした。 早目に仕事が終わったから、行きつけのスナックで一杯飲んで行くかと思い、スナックが入ってる雑居ビルのエレベーターに乗った。 俺は飲む時に使う金を決め、…

ねぇ、どこ?

ある夜、ふと気配を感じて目が覚めた。天井近くに、白くぼんやり光るものが浮かんでいた。目を凝らして見てみると、白い顔をした女の頭だけが浮いていた。 驚いて体を起こそうとするが動かな…

眼鏡

眼鏡の思い出

祖父が生前、私たち家族には常に厳しい人でありながら、時折見せる優しさとともに存在感を放っていました。 彼が亡くなった後、家族として彼を失った悲しみが心の隅に深く残っていました。…