記憶の中の友人

ホテル(フリー素材)

結婚式の衣装合わせで、某有名ホテルに行った時の事。

ロビーで偶然、中学時代の同級生に会った。

昔は凄く痩せていて病弱で、暗い女の子という印象だったが、今ではふっくらと普通の人になっている。

何よりよく笑い、よく喋る。

もっと驚いたのは、ホテルのスイートに泊まっていると聞いた事。

「上でお茶でも飲もうよ」

と言われるままに上階へ。

凄く良い部屋だったから最初はかなりビビったけど、落ち着いてよく見ると何か生活臭らしきものを感じた。

「え…まさかここに住んでるの?」

恐る恐る聞いてみても、彼女は笑っているばかりで何も答えない。

そう言えば、彼女は高級ホテルらしからぬ普段着を着ている。

とても浮いた感じがして、ロビーで見た時から違和感があった。

ルームサービスでお茶とケーキを頂き、そろそろ帰ろうという時、

「あ!そうそう、いいもの見せてあげる」

彼女は突然そう言うと、嬉しそうに奥のベッドルームに向かい部屋の鍵を開けた。

部屋の中は薄暗く、窓には厚手のカーテンが引いてある。

「ごめんね、電気点けない方がいいと思って…」

部屋の真ん中にベッドがあり、周りには医療器具のカートみたいなものが置いてある。

部屋中に汚れた脱脂綿みたいなものが散らばっていた。

ベッドには髪の長い裸の女の人がピクリとも動かず、背を向けて座っていた。

今だに混乱していて記憶が曖昧なのだが、大きなオムツをしていたような気がする。

その女性には腕が片方しか無いように見えた。

非現実的な光景を前に呆然と立っていると、すぐに部屋から押し出された。

「あの人は誰?」

率直にそう尋ねてみたが、

「うん、知り合いなの」

と彼女は笑うばかり。

急に自分が彼女の事を全く知らない事に気が付いて、凄く怖くなってしまった。

しどろもどろに別れの挨拶をして、逃げるように帰った。

彼女はあたふたする私を楽しんでいるような感じだった。

その後、何度もそのホテルに行かなければならなかったが、もう一度彼女を訪ねる勇気はとても無かった。

あれから色々考えたが、もし彼女が何かの犯罪に関わっていたなら、わざわざ私に知らせる訳は無いし、何かの事情があったのだと思う。

確か中学時代の彼女は、高齢の母親との母子家庭だった。

老いた母親の介護かとも思ったが、ベッドルームに居た女の人はどう見ても若い女の人だった。

関連記事

猿夢

私は、夢をみていました。 昔から夢をみているとき「私は今夢をみているんだ」と自覚することがあり、この時もそうでした。 なぜか私は一人薄暗い無人駅にいました。ずいぶん陰気臭い…

奇声を発するおっさん

俺はあるマンションに住んでいるんだが、2ヵ月くらい前、真上の部屋に人の善さそうな初老のおっさんが引っ越してきた。 朝にゴミ出しをしていると「おはようございます」と笑顔で挨拶してく…

山道(フリー写真)

掛け声の正体

無名に近い芸能人の方がテレビで語っていた怖い話。 その方の実家近くに、子供の頃から絶対に登ってはいけないと言われていた山があった。 高校時代のある日、仲間数人と連れ立って、…

山

ヤマノタミ

俺の父方の祖先は九州の山奥の領主だった。 これは父が自分の祖父から聞いた話(つまり俺にとっての曽祖父。以下曽祖父)。 ※ 曽祖父の両親は田舎の名家ということもあって、かなり厳…

廃墟

記憶の村の変貌

ある日、男性は突然、過去に訪れた村を思い出した。 それは数年前、一人旅をしていたときに偶然立ち寄った、小さな宿がある村だった。 その村では心温まるおもてなしを受け、強く印…

犯罪者に縁のある私

今から書く事はすべて実話なんですが、心霊話ではありません。 私が9歳の時、父の仕事(自営)の取引先の人が初めて私の家に来た時、私が案内のために迎えに行きました。 その人は優…

殺人ビデオ

このビデオを私が実際見たことがある訳ではないので、あまり多くは語りません。 ただ、私の友人Yは今から半年程前に見たそうなので、その聞いた話をお伝えします。 私の友人Yは、全…

磨りガラス(フリー素材)

ガラス戸の向こう

この事件が起きるまで、俺は心霊現象肯定派だった。でも今は肯定も否定もしない。 今から十二年前、俺は仕事の都合で部屋を引っ越すことになった。 その部屋は会社が用意したもので、…

マンション(フリー写真)

縦に並んだ顔

自動車事故に遭い鞭打ち症になったAさんは、仕事も出来なさそうなので会社を一週間ほど休むことにした。 Aさんは結婚しているが、奥さんは働いているため昼間は一人だった。 最初の…

為松の竹林

昔、うちの近くの山の麓に「為松の竹林」と呼ばれていた場所があった。 文字通り竹林だったらしいが、戦後は住宅地になり、それを知る年寄りももう殆どいない。 竹林になる前、明治・…