顔の見えない母親
公開日: 不思議な体験 | 死ぬ程洒落にならない怖い話
あれはまだ自分が4歳の頃、明け方の4時ぐらいの出来事。
明け方と言ってもまだ辺りは暗く、周りはぼんやりとしか見えない。
ふと気付くと俺はベッドの上に立たされていて、母親に怒られていた。
「何であんな事したのっ!」
と怒られているのだが、自分が何をしたのかさっぱり解らない。
それはそうだ。今起きたばかりなんだから。
自分が何をしたのか聞きたいのだが、相手は怒っているし、聞いたら聞いたで更に逆鱗に触れそうだったので、訳も解らず
「ごめんなさい」
と謝っていた。
※
ひたすら謝っていたのだが、なかなか許してくれない。
嫌な時間というのは長く感じると言うが、流石に子供ながらに1時間ぐらい延々と、
「何であんな事をしたのか?」「どうしてなのか?」「今、何時だと思ってるのか?」
と同じような事で問い詰められるのは辛い。
まあ普段から、うちの母親は怒ると異様にしつこかったりしたので、謝るだけ無駄。
どうせ謝ったって延々と怒るし、謝らなかったら謝らなかったで延々と怒る。
そう言った意識があったので、
『ああ、今日はまた特別機嫌が悪いんだな』
もしくは、
『ああ、俺はそんなに大層な事をしでかしたんだな』
ぐらいにしか思っていなかった。
※
ところがよくよく考えてみたら、この明け方の4時~5時ぐらいにかけて、延々と母親が怒鳴り散らしているにも関わらず、隣の部屋で寝ているはずの親父が起きて来ない。
それはまあ良いとして、二段ベッドの自分の下で寝ているはずの、2歳の妹が起きて来ない。
起きて来ないはずがないと言うか、寝ていられるはずがないほど俺は怒られているのに、物音一つしない。
そういった事に気付いたら、全てがおかしく思えて来た。
周りの音が無いのだ。
いつもなら気になる時計の音も、そろそろ走り出すであろう車の音も、一切が無い。
あまりにも静か過ぎるのだ。
そして一番納得が行かないのが、母親の異常なしつこさ。
謝っても謝っても許してくれない。
普段であれば、幾らしつこくてもそろそろやめてくれる時間のはずだ。
※
ここで一番怖い事に気が付いた。
母親の顔を見ていないのだ。
正確には、暗くて見えないのだ。真っ暗の中で怒られてる。
気配と声で母親だと認識していたのだが、確認してはいない。
「何でこんな事したの?」「何時だと思っているの?」「悪いと思ってるの?」
同じような事で延々と怒鳴っている。
この人は本当に母親なのだろうか?
そう思った瞬間、手が飛んで来た。
「ばちっ!」
と叩かれた。
が、その手がおかしい。爪が異様に長いのだ。触られた感触もかなり冷たい。
『母親じゃないっ!』
そう直感した。
母親は爪が薄く弱いため、いつも割れてしまうからという理由から爪は伸ばさない。
当時、まだ若かったであろう母親だが、その理由から爪を伸ばした事は無い。
『誰だ?』と疑問に思ったその時、今まで怒鳴り散らしていた声の質が、伸びたテープのようにいきなりトーンダウンした。
この世のものとは思えない、響くような低い声に変わり、段々言う事もおかしくなって来た。
「何で殺したの?」「どうして殺したの?」「どうして死んだの?」
に変わった。
『やばい、逃げなきゃ』と思ったが、ここは二段ベッドの二階。
相手は二段ベッドの階段付近に立って怒鳴っている。
いや、今は泣きながら訴えている。
今まで怒られていたから動かなかったと思っていた体は、動かそうとしても動かない金縛りに変わっている。
やばい、体が動かないと気付いた時、一段と大きな声ではっきりと、
「悪いと思ってるの?」
と顔を近付けて来た。
その顔は、髪の毛はバサバサで肌は青白く、そして両目が無かった。
そこから俺は、意識が無くなった。
※
そして気が付いたら昼になっており、同じ状況でベッドの上に立たされ、母親に怒られている。
今回違うのは、ちゃんと周りの音は聞こえているし、何より明るい。
顔がちゃんと見えるのだ。間違い無く怒っているのは母親。
「どうしてあんな事したの?」「何してたの?」「どこ行ってたの?」
と問い詰められている。
今回も今回で、何で怒られてるのか解らなかったが、ちゃんと聞いてみた。俺は何をしたのだと。
そうしたら、
「あんた寝ぼけてたの?」
と話をしてくれた。
※
昨日の夜中2時頃、まだ起きてリビングに居た両親の前を、すっと俺が通ったらしい。
その時、両親は『トイレに行くのかな?』くらいに思っていたらしいのだが、俺は
「遊びに行って来る」
と、そのまま玄関から出て行ったらしい。
まさか出て行くとは思っていなかったから止める暇が無く、慌てて玄関から出てその辺を探したが見つからなかった。
諦めて家に帰って来て、警察に電話する前に俺のベッドを見たら、俺が寝ていたらしい。
そのまま起こして事情を聞こうとしたが、俺が起きなかったのと、スヤスヤ寝ているし自分たちも疲れていたので、気が付いたら寝ていた。
そのまま朝を迎えたところで、俺の叫び声で起こされたらしい。
訳が解らなかったので結局、
「俺は寝ぼけていたから、何をしていたのか分からない」
と言い訳し、この話は誰にもしていなかったのだが、ここに書いてみた。
やばいのかな? この話。