異国の像

公開日: 心霊体験 | 本当にあった怖い話

gothic_dark_face_eyes_babies_children_1920x1200

中学校2年の時の話。俺の家は漁師ではなかったが海辺に住んでいた。

というか前の浜から背後の山まで狭くて細長い土地の町だったので、殆どの人が海辺に住んでいると言えるのだけど。

それで今で言うビーチ・コーミングを趣味としていた。当時はそんな言葉はなかったけど、簡単に言えば漂着物の収集のこと。

日本海側の北の方だったから、熱帯の貝やヤシの実なんてのはまず見られなくて、日本にない漢字やハングルが書かれた浮きなんかが多かったが、時折変わった物もあった。

ビーチグラスはもちろん、古い陶器の破片や変な形の魚の骨とかルアーとか。あと流木はあまり興味はなかったんだが、大きいのを家に持って帰ると、当時まだ生きていた爺さんが、皮を剥いで磨き上げ置物にした。

中学校の仲間や小学生でもやってる奴がいたので、そいつらより先にと思って、朝の6時頃には浜に居て見て回ったりもした。

11月頃だったと思うけど、海が荒れた翌日で何か収穫があるかと浜に出てみたら、テトラポットの隙間に何か赤茶色の大きな物が引っ掛かっているのが見えた。

近付いて行くと何かの像のようなもので、自分の背丈よりも大きく見えた。顔の方を下に沈めて背中が出ているんだけど、お寺で見る仏像とは全く違って頭が大きく、歪な形をしている。

木目が出ている部分があるので木彫りだと思った。

一人ではどうにもできないので、家に戻って爺さんを呼んできた。

爺さんも初めて見るらしく、首をひねりながら人を集めて引き上げてみると言った。俺はもう学校にいく時間になっていたので、家に戻った。

…どうなったか気にしながら学校から帰ると爺さんが待っていて、像を引き上げて町の神社脇の、御神輿などを閉まってある倉庫に取り敢えず入れたとのこと。

神主にも見せたけど何とも判らなくて、県都の大学の先生に連絡したらしい。

気になるだろうから今から見に行ってみないかと言われた。

爺さんと連れ立って行ってみると、倉庫の鍵は開いていて、御神輿や消防団のポンプ車がある奥に、今朝の像が立てかけてあった。

像は貝や海藻などをこすりとって綺麗になっていたが、改めて見るとやはり奇妙な形をしてる。

頭が大きいと思ったのは、兜でのたくったような飾りが付いていて、その下には目が落ち窪んで長い顔がある。

日本の物ではないのかもしれないと思った。胴の真ん中辺りがぐるりと何かで擦れたようにささくれだっている。凄い物を見つけたのかもしれないと思い、少し心が踊った。

その夜、像を置いた倉庫から道を挟んだ向かいの家が火事になった。狭い町なので、消防車が走れば町の人はみんな外に出てくる。

気付くのが早かったせいか、火事はボヤ程度で済んだけれど原因は不明。検証では外から火が広がっているとのことだったので、放火が疑われているという話だった。

たまたま消防ポンプにも貯水池にも近かったので他に延焼はなかった。

数日後、火事を出した家の奥さんと高校の同期だった母親が、奇妙な話を聞いてきた。

火事になった夜に洗濯物を居間に干していると、コツコツと縁側のガラス戸を叩く音がする。

何かと思って見に行ってみると、暗闇の中からぬっと顔が出てきてサッシに外から張り付いた。

顔は日本人には見えず、両目はぜんぶ白目だった。その時に北国の厚いサッシ越しなのに「さむい、さむい」という声が聞こえてきたそうだ。

あっと驚いて後ろに倒れた時に、車庫の前から火の手が上がっているのが見え、なんとか叫び声をあげて家族を呼び、119番通報をした。

消防にこの話をしたら、放火犯かもしれないからと、警察も交えて色々聞かれたそうだ。

ただ奥さんは、あれは絶対生きた人間じゃなかったと強調していたという。

それから数日が経ち、初雪が降った日の夜に変な夢を見た。

腹の辺りがすごく痛くて、下を見るとぐるぐる縄で柱か何かに縛られていて身動きが取れない。

疾走感があって潮風が顔に当たるので、前を見ると荒れた海がある。船の舳先(へさき)に縛り付けられているのだと分かった。

両手は縛られていないんだけど、拝むように手を合わせた形になっていて動かせない。なんとか手のひらを離そうともがいている内にも、波がどんどん通り過ぎて行く。

背後で「ジーサイ、ジーサイ」と何人か叫んでいる太い声が聞こえる。

かなりの時間暴れていた気がするが、やっと手のひらが外れて、その拍子に目が覚めたと思った。

目を開けるとすぐ前に顔があった。小さい電球しか点けていないのにはっきりと見えた。

顔はつるっとした坊主頭で、濡れており、大きな目はどちらも白目。片方がぷちゅっと弾けて、中からフナムシが這い出してきた。

顔は段々下がって俺の肩の辺りに来て、耳元に口を近づけて「…さむい、さむい」と言った。

その時、サイレンの音がして今度は本当に目が覚めた。部屋を見回しても何も居なかった。夜中の3時過ぎだった。

自分の部屋から下に降りると、家族も起き出してきていた。

俺はさっきの夢の話をする間もなく、防寒をして一緒に外に出た。この前のボヤのときより騒然としていて、相当一大事のような感じがした。

家族と気配がする方に歩いて行くと、通りにはぞろぞろ人が出ていて、火事は神社だということを聞いた。

人の流れに付いて行ったら、高く煙が上がっているようだ。更に近付いたら火がちらっと見えたが、それ以上は規制されていて進めなかった。

後日判ったところでは、神社は全焼。それからあの像を置いていた倉庫にも燃え移り、近くの家にも被害があったが、幸いなことに死傷者はなかった。

倉庫は完全に焼けていて、あの像も燃えてなくなってしまったのだと思う。

今回も放火の疑いが強いということで、長い間捜査があったらしいけど、未だに犯人は捕まってないんだ。

関連記事

夜のアパート(フリー素材)

古戦場の近くにある寮

今から八年前の五月に体験した話。 当時は大学の寮に住んでいたのだけど、その寮は凄かった。 古戦場の近くで、その霊を供養するお寺が近所にあり、更に寮の隣の竹林には首塚があっ…

10円おじさん

10年程前に会った10円おじさんの話をします。 当時、高校を卒業したばかりで、仲間とカラオケに行きました。 一両や二両しかない電車の通る無人駅の傍にある小さなカラオケ店です…

夜の森(フリー写真)

塀の向こう側

私が十数年前、下○市に住んでいた頃の出来事です。 当時は新聞配達のバイトをしていたのですが、一軒だけとても妙なお客さんが居りました。 通常の配達順路を大きく外れている上、鬱…

林(フリー写真)

墓地に居た女性

霊感ゼロのはずの嫁が、5歳の頃に体験した話。 嫁の実家の墓はえらい沢山ある上に、あまり区画整理がされておらず、古い墓が寺の本堂側や林の中などにもある。 今は多少綺麗に並んで…

兄妹(フリー写真)

視える弟

最初に気が付いたのは、私が小学4年生で、弟が小学2年生の時。 一緒にガンダムを見ていたら、普段滅多に口を開かない大人しい弟が不意に後ろを振り返り、 「聞こえない」 と…

生き霊

母の会社の同僚の話。仮に村上さんとします。 村上さんはいつからか、肩こりのようなものに悩まされていた。それまでは、そういった事に悩むような事は全く無かったそうです。 若い時…

戦時中の軍隊(フリー写真)

川岸の戦友

怖いというか、怖い思いをして来た爺ちゃんの、あまり怖くない話。 俺の死んだ爺ちゃんが、戦争中に体験した話だ。 爺ちゃんは南の方で米英軍と戦っていたそうだが、運悪く敵さんが多…

外でお経を読むこと

一応これでも修験道の行者をやっています。お寺と師弟関係を結び、京都にある某本山で僧籍を持っています。 そんな私が駆け出しの頃に体験した怖い話です。 やはり修行をしていますと…

カメラ

零というゲームが発端の出来事

『零』というゲームを知っているかな? 幽霊を写せる特殊なカメラを使い悪霊と戦う謎解きゲームみたいなやつ。 それが発端とも言える話を嫁がしてくれた。 ※ オカルトマニアの…

昭和さん

私の地元は田舎で、山の中にある新興住宅街だった。新興と言っても、結局発展し切れなかったような土地だった。 私は山に秘密基地を作り、友達とよく遊びに行ったものだった。 ある日…