竹下通りの時間の谷間
5年前、当時の彼女と一緒に竹下通りでの買い物を楽しんでいました。
祭日の快晴の日で、若者で賑わう街中を歩いていた時、突然トイレに行きたくなりました。
しかし、店内にトイレがなく、外で探すことにし、彼女に店から離れないように伝えました。
原宿駅に向かう途中で、建物と建物の間の壁に赤いマジックで「トイレ→」と書かれた看板を見つけました。
その狭い路地を進むと、空地に古びたトイレがあり、そこで昭和40年代風の服装をした小学生の少年二人がメンコ遊びをしていました。
その不思議な光景に驚きながらも、用を足して出てきたところ、少年たちの姿は消え、静まり返った空地だけがありました。
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戻ってきた店には彼女の姿がなく、携帯で連絡すると、彼女は激怒していました。
どうやら僕は彼女を2時間以上待たせてしまったようでした。
しかし、僕の時間感覚では15分程度しか経っていなかったのです。
彼女のマンションに行き、一部始終を話し、共に精神科を受診することになりました。
精神科の診断では明確な病名はつかず、精神安定剤を処方されました。
今は平穏に暮らしていますが、その体験は未だに謎です。
後に精神科の先生から聞いたところ、世界には僕と似た体験をした人が他に6名おり、その珍しい症状は大学病院で研究されているとのことでした。
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その後、僕は何度か同じ路地を訪れましたが、もう二度とあの「トイレ→」の看板や空地を見つけることはできませんでした。
彼女もまた、僕がトイレに行った後の記憶が曖昧で、僕がいなくなったことにすら気付かなかったと話しています。
僕たちは今でも時々、あの日のことを話し合い、時間の谷間に迷い込んだのではないかと推測しています。