存在しない昭和の町並み
これは高校1年の夏休み、田舎の高校に通っていた時の話です。
部活動が終わったのは20時。その後、部室で友人たちと怖い話をして盛り上がり、気がつけば23時を回っていました。私たちは、家が近いAくんと一緒に帰ることにしましたが、怪談話で怖がったJくんを家まで送ることになりました。Jくんの家は私の家とは全く反対方向にあるのに、なぜか私たちが送ることに。
夜空は晴れ渡っていましたが、道は異様に暗く、隣に並んで走るAくんの顔さえも確認できないほどでした。さらに、何もない空間で突然、顔に水をかけられたように濡れる現象が何度も起こりました。
Jくんの家に到着したのは0時半。自転車でわずか30分の距離を、なぜか1時間もかかってしまいました。それからAくんと一緒に帰宅を急ぎましたが、いつの間にか見知らぬ場所に迷い込んでしまいました。
道を間違えた記憶もなく、電柱に記された住所を見ると、Jくんの家があるI町から隣の隣のK市に出ていました。時計は0時45分を指していました。
Aくんと話し合い、「西に進めば新幹線の線路に出るはず」と話しながらも、いくら西を目指しても新幹線の線路には辿り着けず、昭和っぽい町並みを彷徨い続けました。
2時間ほど走った後、ようやく線路と幼少期に通った市民プールを発見し、安堵しました。しかし、用水路を渡る橋が見当たらないことに気づきました。橋に続く道が無くなっていたのです。やむなく見知らぬ橋を渡ろうとしたその時、突如、息苦しくなり、周囲の音と明かりが消え、異様な雰囲気に包まれました。
Aくんも涙目で不安を隠せず、急いで橋を引き返しました。橋から離れるとようやく呼吸が落ち着きました。家に到着したのは午前4時。あの夜の出来事は未だに説明がつきません。
後日、Aくんと昼間にプールに行って橋を探しましたが、いつもの橋は見つからず、昭和の町並みも存在しないことが判明しました。私たちは一体どこを彷徨っていたのでしょうか。その謎は今も解けていませんが、Aくんと共有する不思議な記憶として残っています。