白い女の子

公開日: 本当にあった怖い話

d0149261_1133388

先日、祖母の葬式のために生まれ故郷を訪れた。そこは山と畑しかないような、いわゆる寂れた山村だ。

私が小学生の時に両親と市内に引っ越したために足が遠のき、さらに大学に通うのに東京に出たため、そこを訪れるのは実に10年振りだった。

葬式が終わり、一人で子供の頃と少し様子の変わった村の中を散歩していると、ある家から鋭い鳥の鳴き声が聞こえた。

何かが引き千切られるような、苦しそうな泣き声。

不穏なものを感じた私は生垣を掻き分けてその庭を覗くと、10歳くらいの小さな女の子がこちらに背中を向けてうずくまっているのが見えた。

そしてもう一度鳥の鳴き声。

今度は長く響いて、そして弱々しく消えていった。思わず身を乗り出した私の重みで生垣が音を立てた。

私に気付いて女の子が突然こちらに振り返った。

前髪を綺麗に切り揃えた真っ白な女の子。その子の右手には、もう動かなくなった小さな鳥の姿が…。そう、すずめを握り潰していたのだ。

私と目が合うと、その子はすずめをこちらに差し出しながら歩み寄って来た。口元に笑みを浮かべて。

その異常な光景に恐怖した私は、声を上げて無我夢中でその場から逃げ出した。

後から近所の人にその家のことを聞いてみると、その家は一年程前にその村に引っ越して来た「東京の大学の先生」のものだそうだ。

村の人とは殆ど交流がないようで、特に娘のこととなると余り多くを語ってはくれなかった。

しかし私の幼馴染が、その家には精神を病んだ娘がいて、隠れるように田舎に住んでいることを教えてくれた。

「人形のような綺麗な顔立ちの子なのにな。可哀想に」

そう言って目を伏せていた。

両親の車で村を出るとき、その家の前を通った。

その家の周りだけ重苦しい暗い影に覆われているように感じ、ふと目をやるとそこには生垣を掻き分けて私を見つめるおかっぱ頭の白い女の子の姿があった。

あの時と同じように口元に笑みを浮かべて。

あまりの恐怖で声も出なかった。

息も出来なかった。

ただもう全身がブルブルと震え、涙が止まらなかった。両親が気付いて慌てて車を止めようとしたが、私はとにかくここから早く離れてくれとだけ伝えるのが精一杯だった。

東京に戻った今も、時折夢の中にあの白い女の子が現れる。もうすぐ祖母の四十九日の法要があるが、私はもう二度とあの村を訪れることは出来ないだろう。

後日談

私の大学にまだ40代なのに地方に隠居された助教授がいるそうです。丁度一年程前に…。

万が一、ということもあるので名前は聞いていません。知りたくもないです。

関連記事

ざわつき声の正体

高校を卒業し、進学して一人暮らしを始めたばかりの頃の話。 ある夜、部屋でゲームをしていると、下の方から大勢の人がざわざわと騒ぐような声が聞こえてきた。 俺は『下の階の人のと…

電話

ダレモイナイヨ

ある年の夏の終わり頃の事でした。 私が住宅街の中にポツンとあるカフェバーで働いていた時の話です。 その店はあまりお客も来ず、私と友人達の恰好の溜り場となっていました。 …

発見した遺体

数年前、森の中を歩いていたとき、とっても甘い香りを嗅いだんだ。 今まで嗅いだことがないほど甘い香りで、どこから漂ってくるのか突き止めたくなった僕は、その辺りの草むらを探ってみた。…

夜のビル群(フリー写真)

モニターに映る影

俺が警備員をやっていたのは、テナントが幾つか入っているビルだった。 常駐警備員というのは、途中に待機時間があるくらいで、基本的に交代制の24時間勤務なんだよ。 故に深夜ビル…

夜の池(フリー写真)

夜釣りでの恐怖体験

友人から聞いた話。 彼がヘラブナ釣りに嵌まり始めた頃のこと。 夜中に無性に竿が振りたくなり、山奥のため池へ出掛けたのだという。 餌の準備をしていると、向こう岸に誰かが…

不思議な手紙と異常な部屋

去年の暮れ、会社に一通の手紙が届いた。 編集プロダクションに勤めている俺への、名指しの手紙だった。 中を読むと自分のエッセイを読んで添削して欲しい事、そして執筆指導をして欲…

炎(フリー素材)

鳴く人形

俺の実家は小さな寺をやっている。 子供の頃から、親父が憑き物祓いや人形供養をしているのを何度も見て来た。 その中でも一番怖かったのが赤ちゃんの人形。ミルクなどを飲ませるよう…

警察官の無念

年末、某県のフェリー乗り場で船の時間待ちをしていた。寒空の下、ベンチに座って海を眺めていたら、駐車場で妙な動きをしている軽四に気が付いた。 区画に入れたと思えばすぐに出たり、駐車…

カーテン(フリー写真)

少年とテレビ

これは僕の姉が、今の旦那と同棲中に体験した話です。 姉は何年か前に、京都の市内にあるマンションに旦那さんと住んでいました。 当時旦那さんは朝早い仕事をしており、毎朝5時には…

首長リーマン

終電の一つ前の電車に乗っていた時の事。 電車内には俺と、酒を飲んでいる汚いおっさんが一人。 電車の中で酒飲むなよと思ったけど、臭いも届かないし、まあ良いかという感じで携帯を…