首長リーマン

mission_vlad03_011

終電の一つ前の電車に乗っていた時の事。

電車内には俺と、酒を飲んでいる汚いおっさんが一人。

電車の中で酒飲むなよと思ったけど、臭いも届かないし、まあ良いかという感じで携帯を見て過ごしていた。

ちょっと恋愛関係で良い事があった帰りだったもんで…。

ずーっとそのおっさんと二人だったけど、ある駅に停車した時、おっさんの近くのドアの外側に一人のリーマンが立っているのが見えた。

別に気にもかけずにそのまま携帯を見ていたら、

「なに見てんだよ」

と機械的な声で急に言われた。

驚いて目を上げると、そのリーマンのニヤニヤ顔がすぐ近くにあって、俺の携帯を覗き込んでいる。

『うお、何だこいつ』って滅茶苦茶ビビりながらよく見ると、第二の衝撃。

リーマンに体が無い。っていうか、“ここに”無い。

そのリーマンは体をホームに置き去りにして、ろくろ首みたいに首だけを伸ばし電車内に入って来ていた。

酒を持ったまま固まっているおっさんが目に入る。

おっさんにも明らかにリーマンが見えている。

リーマンの顔に目を戻す勇気がなくて、暫くおっさんと見つめ合っていると、電車が閉まる音楽が鳴った。

車内に入って来る気はないのか、その首長リーマンの顔が

「いいいいい~」

と笑いながらスルスルと車内から出て行く。

『良かった~』と安心していたら、首が完全に出る直前に、閉まっちゃったんだよね、ドア…。

車掌さん、あんたリーマン見えてないの、何で閉めるの…と今では思う。

ろくろ首じゃなくて、ゴム人間だったのかな。伸びた首がドアに潰されてペチャンコになりながらも、リーマンはニヤニヤ笑っていた。

電車が動き出す。挟まった首はビヨーンと伸びて付いて来る。

窓の外に、棒立ちのままのリーマンの体が後方に流れて行くのが見えた。

「いいいいいいいいいいいいい!!」

奇怪な笑い声を上げながら顔を左右にビチンビチンとドアに打ち付けて尚付いて来るリーマン。

『もうやめてくれ!』と思いながら暫く震えていると、伸び縮みの限界が来たのかドアの隙間を「スポンッ!」と抜けて夜の闇に消えて行った。

その後、すっかり酔いが醒めた様子のおっさんと震えながら次の駅で降り、なんやかんや二人で飲みに行くことにした。

間近で顔をブンブン振られていたおっさん。俺の何倍も怖かっただろうな。

連絡先は交換しなかったけど、元気にしているだろうか。

関連記事

釘

恨みクギ

俺が若かった頃、当時の彼女と同棲していた時の話。 同棲に至った成り行きは、彼女が父親と大喧嘩して家出。彼女の父親は大工の親方をしている昔気質。あまり面識は無かったが、俺も内心びび…

ガソリンスタンド

ある若い男がガソリンスタンドに行った。 車の窓拭きをしてくれている店員が、凄い顔で車の中を睨んでくる。 クレジットカードで会計をしたら、このカードは不正だから降りろといわれ…

カンカン(長編)

幼い頃に体験した、とても恐ろしい出来事について話します。 その当時私は小学生で、妹、姉、母親と一緒に、どこにでもあるような小さいアパートに住んでいました。 夜になったら、い…

村の風景(フリー素材)

朽縄(くちなー)様

田舎に住む祖父は、左手小指の第一関節の骨がありません。 つまむとグニャリと潰れて、どの角度にも自由に曲がります。 小さい頃はそれが不思議で、「キャー!じいちゃんすごい!なん…

ゴールの写真

小学生の時に聞いた実話。 ある一人の少年がマラソン大会に出場したんだが、心臓が悪いため速く走ることが出来なかった。 最後尾になりながらも、少年は諦めずに頑張って走った。 …

電脳に棲む神

大学時代の友人の話。 そいつは結構なオタクで、今でも某SNSにガチオタな話題をバンバン日記に書くようなSE。 この前、たまたま新宿で会って「ちょっと茶でも飲もうや」というこ…

落ちていた位牌

寺の住職から聞いた話。 近隣の村ですが、その村には立派な空家が一つあり、改装の必要なく住めるほど状態が良いものでした。 近頃は都会の人が田舎暮らしを希望するIターンがはやり…

死神の生まれ変わり

俺の昔からの友人がよく死体に遭遇する。 中学時代、一緒に海に遊びに行ったら水死体を見つけた。 その時、既に5回も人の死体を見たことがあったそうだ。 まあ、中学生男子は…

夜道(フリー素材)

映画監督の話

深夜のテレビ番組で、その日の企画は怪談だったのですが、その話の中の一つに映画監督のH氏にまつわる話がありました。 ※ ある時、H氏はスランプに陥っていました。 いくら悩んでも…

集合住宅(フリー素材)

団地のエレベーター

高校時代の時に体験した話。 当時、俺の友人Aが住んでいた団地には、割とベタな怪談があった。 5年程前にそこの2階の住人が自殺したのだけど、その人は自殺当日の夜23時半頃に、…