無人島の怪異

公開日: 本当にあった怖い話

島

死んだ祖父さんが法事で酔っ払った時に聞いた話。

祖父さんは若い頃、鹿児島で漁師をしていた。

ベテラン漁師の船に乗せてもらいながら働いていて、毎日のように漁に出ていた。

その辺りの海には無人島が点在していて、その中に昔海賊が財宝を隠したという伝説が残る島があったらしい。

今では考えにくいが、半世紀前くらいはそういうのを真に受ける人が結構いて、雑誌が取り上げるとブームになり、一時は宝探しの連中でその島が賑わったりもしたのだとか。

それも数年経つと沈静化し、殆どの人は去って行った。ところが一人だけ帰らずに島に住み着いてしまった男がいた。

その人はゲンさんという50歳くらいの人だった。

小柄だががっしりした身体つきで、強面で一見とっつきにくそうだが、地元の漁師たちとは割合仲良くしていた。

祖父さんの雇い主だったコウジさんとも付き合いがあり、船で島の側を通る時には、浜辺にゲンさんが建てた粗末な小屋に向かって手を振ったりしていた。

異変が起きたのはゲンさんが住み着いてから二年目の春先だった。

漁を終えて船が島の側を通りかかった時は夕闇が迫っていた。

最初に気付いたのはコウジさんだった。小屋に明かりが灯っていない。

まだ寝るには早く、このくらいの時間なら明かりが見えるはずだった。

早寝しただけかも知れないのだが、何やら胸騒ぎがしたコウジさんは島に寄ると言い出した。

そして船を岸に近付けると、祖父さんに留守番をさせて小舟に乗り込み島へ向かった。

別れて20分くらいした頃、待っていた祖父さんの耳に何やら叫び声のようなものが聞こえた。

慌てて岸の方を見ると、浜辺にコウジさんのものらしき懐中電灯の光が激しく揺れ動いていた。

何が起きたか不安だったが、その場を動けず待つしかなかった。

更に小一時間程して、ようやく小舟が戻って来た。

中にはコウジさんとゲンさんとが乗っており、二人とも汗びっしょりで顔面蒼白だった。

特にコウジさんはえらく震えていて、何があったのか聞く祖父さんに、頭ごなしに船を出せと怒鳴った。

無事港に着いて組合事務所に入り、一息ついてからコウジさんは起こった事を話し始めた。

島へ上がり小屋の方へ近付いて行くと、何やら呻き声が聞こえてきたらしい。

怪我でもして苦しんでいるのかと思い、コウジさんは入り口の戸を開けて中を覗き込んだ。

そして左手奥にある寝台に懐中電灯を向けると、そこには異様なものが照らし出された。

寝台の上にヌメヌメしたどす黒いものが覆い被さっており、その下でゲンさんの身体がもがいていた。

コウジさんは思わず声を上げて懐中電灯を落とした。

するとそのヌメヌメしたものが「ヒョッ」と鳴いて、ザザザつと寝台の上に開いていた窓から出て行ったらしい。まるで蛇のようにのたくって。

コウジさんは懐中電灯を拾うと寝台に駆け寄った。

ゲンさんは目を瞑り、まるで金縛りに遭っているかのように四肢を突っ張って呻いていた。

激しく揺さぶると目を開けたが、ぼんやりとしていて焦点が定まっていない。

それでも何とか助け起こし、舟に乗せて連れて来たという事だった。

話が終わる頃にはゲンさんも意識が戻っていたが、何があったのかは解っていないようで、ただ横になっていたら金縛りに遭って苦しんでいたところをコウジさんに起こされたと話した。

ゲンさんはその日は事務所に泊まり、翌日島へ戻って行った。

コウジさんと祖父さんがもう引き上げたらどうかと説得し、ゲンさんもそれに応じたので、後片付けのために一旦島へ送り届け、次の日改めて迎えに行くと取り決めたのだった。

ところが、次の日迎えに行くとゲンさんは帰るのを拒んだ。

あれは単に疲れていただけだと言い張り、コウジさんが見たものについても見間違いだと言って譲らなかった。

その口調があまりにも激越で目の色が変わっていたため、コウジさんも断念して一人船に戻った。

その後もゲンさんは半年程島に住んでいたが、ある日突然姿を消してしまった。

漁師たちが総出で捜すも見つからず、溺死したのだろうということなった。

祖父さんとコウジさんは、それからも暫くは島の側を通る度、ゲンさんの姿が見えないかと目を凝らしたが、段々朽ちていく小屋を見るのが嫌になり航路を変えてしまった。

祖父さんはその時の心境を「どこかにいないか」から「いたらどうしよう」に変わっていったと言っていた。

もしゲンさんらしき姿を見かけても、それはもはや別のものではないのかと。

コウジさんとはその後も時々島で見たものについて話したが、何度目かの時「そう言えば懐中電灯で照らした一瞬、先が五つに分かれた脚のようなものが見えた」と言っていたらしい。

関連記事

医療器具(フリー素材)

謎のカルテ

これは2年前の夏、病院で夜勤中に体験した出来事です。 その日、私は夜勤をする救急室にて患者対応をしていました。 何台か救急車が入り、その内の1人が当院かかりつけの患者でした…

居座る住居人

会社員だった頃は不動産会社に勤めていたので、こういう話は割と日常茶飯事でした。 会社で買った中古住宅を解体していたら白骨が出てきたりとか、競売で落とした物件の立ち退き交渉に行った…

死に際に現れる黒い人

最近ネットで読んだのですが、人間が死にそうになっている時、それを助けたりする謎の人物が現れるそうです。 それは死んだ兄弟や親類であったり、声だけであったりするそうですが、正しい逃…

スパイラル

遺伝

子供たちを連れて実家に遊びに行った時のこと。 普段から穏やかな母と明るい父と、同居の妹一家と、みんなで楽しく話していた。 途中で母が「そうだ、○○(長男)にいい本を見つけた…

シャワー(フリー写真)

誰かの髪

数年前、私は妹と東京で二人暮らしをしていました。 元々は二人別々に部屋を借りていたのですが、二人の家賃を合わせると一軒家が借りられるという事に気付き、都心から多少離れてはいるもの…

心霊企業

昔付き合ってた彼女の影響で、視界の端っこの方に本来見えてはいけない人たちが見えるようになってしまった。 最初の頃は錯覚と思い込んでいたが、地元の飲み屋に行った時にトイレの前に体育…

つんぼゆすり(長編)

子供の頃、伯父がよく話してくれたことです。 僕の家は昔から東京にあったのですが、戦時中、本土空爆が始まる頃に、祖母と当時小学生の伯父の二人で、田舎の親類を頼って疎開したそうです。…

神に愛されるということ

私は占い師に「長生きできんね」と言われたことある。理由も聞いた。 「あんた、大陸に行ったことあるだろう? そこで憑かれたんだと思うけど、悪霊なんてもんじゃない。神に近いから、まず…

お婆さんの願い

会社の仕事を終え、夜の帰り道。 最寄り駅から自宅まで歩いていると、帰路途中の家のドアが開いていて、お婆さんが手招きをしていた。 『高いところにあるものを取って欲しいとか、そ…

ホテル(フリー素材)

鶯谷のホテル

これは実際に体験した不思議な話です。 皆さん、鶯谷をご存知でしょうか? 山手線沿線でありながら最も人気の無いエリア。江戸時代にあった遊郭が今も尚息づくソープランド街「吉原」…