霊に勝った男

大阪市西区、駅から徒歩五分という好立地にあるマンションに引っ越したのは、今から三年前のことです。
コンビニまでわずか一分という便利な場所にありながら、家賃はなんと三万円。あまりにも安すぎる。
「何かあるのかもしれない」と疑いつつも、利便性には勝てず、結局その部屋に住むことにしました。
※
引っ越して間もなく、最初の異変が起きました。
風呂場の電球が、突然パッと切れたのです。
取り替えたばかりだったのに、です。
不思議に思いながらも新しい電球に交換したところ、またすぐに切れてしまいました。
光が弾け飛ぶような、そんな壊れ方でした。
仕方なくその夜は、暗いままの風呂場で湯に浸かることにしました。
※
二日後、今度は家全体の電気が突然消えました。
ブレーカーが落ちたわけでもなく、部屋のスイッチを押すとすぐに点いたのですが、またすぐに消えます。
「……もしかして霊的な何かだろうか」
とは思いましたが、どこかで「これでも霊なりに気を遣ってくれているのかもしれない」と、妙に前向きな気持ちで受け止めていました。
※
その後も奇妙な現象は続きました。
ある日は、いきなり本棚から本が落ちてきたのです。
私は反射的にその落ちた場所に向かって何かを投げつけ、「今のは俺がやったからな」と、ひとりでドヤ顔。
他にも、夜寝ている時にふと天井を見上げると、女の人が張り付いていることもありました。
思わずトレーディングカードを天井に向かって投げ、「そこかっ!」と叫んでしまったこともあります。
※
ラップ音もよく鳴りました。
あまりにしつこいので、寝不足気味になり、つい舌打ちをしたのですが、ふと気づくとその舌打ちがリズムに変わり始め、ラップ音と合わせて即席のボイスパーカッションを始めていました。
結果、妙にテンションが上がってしまい、そのまま楽しくなって寝落ち。
翌朝には何も起こっておらず、霊たちもおそらく呆れていたことでしょう。
※
ある日、キッチンからフライパンが「ガシャーン」と落ちる音が響きました。
もちろん、誰もキッチンにはいません。
私はフライパンを拾い上げ、「三秒ルールだ!」と言い放つと、そのまま玄関のドアを開けてフライパンごと外に放り投げました。
「霊も一緒に外に出ていけ」と思いながら。
それから数日は、静かになりました。
※
そしてある晩、悪夢を見ました。
夢の中で、誰かに髪の毛で首を絞められるのです。
息ができず、もがきながらも私は夢の中でキレて叫びました。
「ふざけんな!やめろ!」
その瞬間、目が覚め、部屋の空気が静まり返っていました。
それ以降、不思議な現象は一切起こらなくなったのです。
あれから三年、霊的な気配を感じたことは一度もありません。
※
そんなある日、霊感のある友人が遊びに来ました。
部屋に入ってすぐ、彼はふとカーテンの方を見て固まりました。
「……お前、なんかした?」
と問いかけてきたのです。
私は首を傾げて、「何が?」と尋ねました。
すると彼はこう答えました。
「いや…お前の部屋のカーテンの脇あたりに、何人か霊がいるんだけど……。お前のこと、めちゃくちゃ怖がってるんだよ」
※
どうやら私は、霊たちに「ヤバいやつ」認定されていたようです。
結果的に、霊現象はすべて収まりました。
駅近で家賃三万円のマンションには、きっと理由があったのでしょう。
でも、いまのところ――その部屋には、平和が訪れています。