幽霊が見える祖母の話
俺の婆ちゃんの話。
婆ちゃんは不思議な人で、昔から俺だけに、
「お婆ちゃんは幽霊が見えるとよ。誰にも言っちゃいかんけんね」
と言っていた。
実際に俺が霊体験をした訳ではないが、婆ちゃんの話は印象に残っている。
※
婆ちゃんが幽霊が見えるようになったのは結構大人になってからで、15歳の時だったらしい。
婆ちゃんはもともと福岡に住んでいて、福岡大空襲の後に見えるようになったそうだ。
空襲が終わった後、周りは一面の焼け野原。
婆ちゃんの両親も亡くなって、これからどうしようと途方に暮れていた時、一人の大怪我した男の人を見つけたそうだ。
急いで近付いたけれども、どう考えても生きていられるような傷ではなかった。
両腕は吹っ飛んで脳みそははみ出ているのに、
「痛い、痛いー、おとうさーん、お母さーん」
とずっと泣き叫んでいた。
婆ちゃんは体を掴もうとするが何故か掴めない。話しかけても反応しない。
そのうち婆ちゃんも怖くなり、走って逃げたらしい。
その日から婆ちゃんは幽霊が見え始めたと言っていた。
外を見れば、体中から血を噴出してのた打ち回っている人や、焼け爛れた体でひたすら助けを求める人、頭が無いのに動いている人。
最初は地獄だったと言っていた。
※
空襲が終わった後、どうにか親戚に身を寄せることが決まっても、幽霊は見え続けたらしい。
でもそれは絶対言えなかった。幽霊が見えるなんて言ったら頭がどうかしていると思われる時代だったらしい。
ただ婆ちゃんもなかなか強い女で、段々幽霊も見慣れてきたらしい。
足が無かろうが頭が吹っ飛んでいようが、あまり怖くなくなったそうだ。
婆ちゃんいわく、幽霊というのは知らん振りすればあまり関わってこないらしい。
下手に近付く方が危ないのだと、初めて見た頭が吹っ飛んでいる人にも相当長い間付きまとわれたらしい。
※
そんなある日、大分町並みもまともになってきた頃、婆ちゃんは一人の知り合いの男の子を見つけたそうだ。
その子は近所に住んでいた子で、よく遊んであげていた。
でも、本当は死んでいるはずの男の子だった。
両腕が無くなっていて痛々しい姿で、婆ちゃんを見ると
「お姉ちゃーん!!」
と大きな声で叫んだ後、にっこり笑って呼んでいたらしい。
でも幽霊の怖さを知り始めた婆ちゃんは、知らん振りし続けたそうだ。
それでもそこを通る度、絶対返事をしない婆ちゃんに向かって
「お姉ちゃーん」
と叫び続けたらしい。
※
「幽霊が見えるようになって随分経つけど、あの子はまだあそこに居るんだろうね」
と、婆ちゃんは寂しそうに俺に言った。