漁師に伝わるまじない

公開日: ほんのり怖い話

海(フリー写真)

にわかに信じられない話だが、うちのお袋がお袋の祖父に聞いた話。

母方のばあちゃんの実家は、漁師の網元だったらしい。

お袋の祖父(以降祖父)が、よくお袋にしていた話だ。

祖父が若い頃、海に出て漁をしていると、水死体に出会すことがあったらしい。

事故にしろ自殺にしろ、水死体というのは無惨な姿で波間に浮いているのだが、不思議と船に近付いて来るのだそうな。

当時はまだ戦前だから、地方の漁師で船外機の付いた船に乗っているはずがない。

しかし引き離そうと必死に漕いでも付いて来るのだそうな。

小さな手漕ぎ船で一人で漁をしてるので、引き上げる訳にもいかないし、生活がかかっているから漁を中断することもできない。

そういう時に、昔かたぎの漁師には、ある種のまじないみたいなのがあったらしい。

というのは、遺体に手を合わせて、

「スマンが今から漁をしなけりゃならないから、少し離れて邪魔をせんといてくれんか。

その代わり、あんたを何がなんでも陸に帰してやるけん」

とお願いするらしい。

そうすると水死体は、いつの間にか波間に見え隠れするぐらいのところで、付かず離れずに浮いているそうな。

それで漁を終え帰途につく時に、

「漁は終ったけん、今から帰るけんの。しっかり付いてきんさいよ」

と声をかけて帰るのだそうな。

すると不思議と水死体は、付かず離れずの距離を保って港まで付いて来るのだそうな。

祖父は「どんなになっても人間ってのは、海にはおられんもんなんだろう」と言う。

何がなんでも陸に上がろうとするのが、人間の性なのでしょうね。

関連記事

雨(フリー素材)

天候を操る力

小学生の頃だったか。 梅雨の時期のある日、親友の友人という微妙な関係の子の家に遊びに行った。その親友と一緒に。 そこで三人でゲームなどをして遊んでいたら、あっという間に帰る…

赤ちゃん(フリー写真)

大宮さんが来よる

今、四国の田舎に帰って来ています。 姉夫婦が1歳の娘を連れて来ているのだけど、夜が蒸し暑くてなかなか寝付いてくれなくて、祖父母、父母、姉夫婦、俺、そしてその赤ちゃんの8人で、居…

古民家の居間

孤独

中島らも氏のエッセイで読んだ話。 新聞の投書欄に送られて来た独居老人の手紙です。 『定年で会社を辞めてから随分経つが、ここのところ出先から帰ると居間に自分が居る、というこ…

黒田君

僕が彼に出会ったのは、高校1年生の時の事です。 一応政令指定都市ですが、都心ではありません。家から歩いて3分以内に何軒かコンビニはありますが、全部ローソンです。 小洒落た雑…

教室

気合の霊退け先生

私は都心に位置する名門の高校を卒業したのですが、担任の安藤先生は非常に特異なキャラクターの持ち主で、その独特な生活指導で多くの生徒たちを魅了していました。 彼の人柄は質実剛健で…

トタンのアパート(フリー写真)

訳あり物件のおっちゃん

半年ほど前に体験した話。 今のアパートは所謂『出る』という噂のある訳あり物件。 だが私は自他共に認める0感体質、恐怖より破格の家賃に惹かれ、一年前に入居した。 ※ この…

訪ねて来た友人

俺が幼少時に体験した話を一つ。 多分、俺が10歳くらいの時だと思う。 家族5人で飯を食っているときに電話がかかってきた。 最初母さんが出たんだけど、すぐに父さんに電話…

居間のブラウン管テレビ(フリー写真)

神様の訪問

小さい時は親が共働きで、一人で留守番をする事がよくあった。 特に小学校の夏休みなど、日中は大体一人で家に居た。 小学4年生の夏休みの事だ。 トイレに行って居間へ戻った…

金色の金魚(フリー写真)

浮遊する金魚

小学2年生くらいまで、空中を漂う金色の金魚みたいなものが見えていた。 基本的には姉ちゃんの周りをふわふわしているのだけど、飼っていた犬の頭でくつろいだり、俺のお菓子を横取りしたり…

学校(フリー写真)

霊感教師と霊感生徒

俺の母は小学校の教師をしている。 霊感があり、赴任先によっては肉体的にかなりキツかったらしい。 ※ 10年前に4年生のクラスを担任した時、かなりの霊感を持つ女生徒Aと出会った…