T先輩

公開日: ほんのり怖い話

8ミリ映画

高校時代、先輩と8ミリ映画をよく作っていた。

僕以外はみんな一つ先輩の仲間だったが、映画の事以外でもよく一緒に遊んでいた。

みんなで撮影したフィルムが現像から上がって来て、T先輩の家でアフレコをすることになった。

T先輩の部屋は二部屋ぶち抜きになっていて広く、フィルムを映写しやすいのと、人が沢山入れるからだ。

しかしその先輩の家は幽霊が出るというのが常々、話の種になっていた。

噂ではなく、いつも住んでいる本人からも聞かされていたのである。

「階段の上をふっと見るとさ、人が通るんだよ。廊下なんてないのにさ」

「この部屋泊まるだろ? ザコ寝してるとさ、誰かが邪魔なんだよ。

『まったくよ~』と思って起きると、近くに寝てるやつなんて居ないの」

そんな話ばかりなのである。

そして、その部屋に映写機などの機材をセッティングし全てが整い、さあ始めようという時の事。

映写機が動かない。うんともすんとも言わない。

「おっかしいなあ、持って来る前は大丈夫だったのに…」

どうにかしようと色々試したが、一向に動く気配がない。原因不明である。

後で診てもらうことにし、その日の作業は中止になってしまった。

それから持ち主の先輩が家に持ち帰ると、何事もなかったかのように動いたのだった。

「やっぱり…。幽霊に邪魔されたんじゃないか?」

そう言って片付けるしかなかった。

そのT先輩がとうとう引っ越す事になった。

「何で? やっぱり幽霊が嫌で?」

「そう!もうだめだっていう事があった。

俺の部屋はね、人が入って来るの。三人。女の人。

寝てるとさ、一人ずつ部屋に入って来て、俺の耳元で何かボソボソ言ってから、炬燵の方に行って座る。

三人がみんなボソボソ何か言うんだよ。そしてみんな炬燵の所に座るの。

いっつもだからさあ、半分慣れたって言うか、そんな感じだったんだけど…。

ある時、何言ってるかはっきり聞こえたんだ。

『Tさん…どこか連れてって…』ってよう、そう言ったんだよ。もうダメさあ!」

その後、T先輩の家はどうなったかは知らないが、自分の名前を言われるとそりゃ怖い…。

関連記事

見えない恋人

大学生時代、同じゼミにAと言う男がいました。 Aはあまり口数の多い方ではなく、ゼミに出席しても周りとは必要なこと以外はあまり話さず、学内にも特に親しい友人はいない様子でした。 …

顕微鏡

不穏な連鎖

土曜日のこと、あるイベントで地下1階の一室に数人と談笑していました。 部屋の隅に放置されていた新聞紙が、突如としてガサゴソと音を立てたのです。 その瞬間、新聞紙の周囲には…

弟の言葉

弟が一時期変なこというので怖かった。 子供の頃、うちの実家はクーラーが親の寝室にしかなく、普段は自分の部屋で寝ている私も弟も真夏は親の部屋に布団をしいて寝ていた(結構広い部屋で1…

少年のシルエット(フリー素材)

かっこいい除霊

高校の時、クラスに虐められている訳じゃないけどいじられ系のAという奴が居た。 何と言うか、よく問題を当てられても答えられず、笑われるような感じ。 でも本人はへらへら笑ってい…

沼(フリー写真)

そこなし沼にて

親父は教師をしており、俺は小学二年生まで教員住宅に住んでいた。 俺の家の裏は林になっていて、そこに『そこなし沼』と呼ばれる沼があった。 その周りではクワガタが沢山捕れるの…

枝に積もる雪(フリー写真)

おじいさんの足音

母から聞いた話です。 結婚前に勤めていた会計事務所で、母は窓に面した机で仕事をしていました。 目の前を毎朝、ご近所のおじいさんが通り、お互い挨拶を交わしていました。 …

アパート

一瞬の異界体験

その頃、私は一人暮らしのアパートに住んでいました。ある日、母から頼まれた回覧板を隣の部屋に渡しに行きました。 手早く回覧板をポストに入れた後、自分の部屋に戻りました。しかし、ド…

隣の女子大生

貧相なアパートに暮らす彼の唯一の楽しみは、隣に住む美女と語らうひとときだった。 ただ、一つだけ腑に落ちない点が…。 当時、彼の住むアパートは、築30年の6畳一間で、おんぼろ…

カオル

バイト先の会社の寮で、幽霊騒ぎがあった。 俺は入社して1年も経たないのでよく知らなかったが、以前から気味の悪い事が起こっていたらしい。 寮に入っている社員のTさんの部屋が、…

大きな木(フリー写真)

初恋のお兄さん

小学3年生の頃、当時9歳だった私は、学校で虐めに遭っていました。 幼なじみの友達はいたのですが、一人で過ごす方が楽に感じてきていました。 ※ そんなある夏の日のこと…