みょうけん様

弥彦山(新潟県)

うちの地元に「○っちゃテレビ」というケーブルテレビの放送局があるんだが、たまに「地元警察署からのお知らせ」というのを流すんだ。

どこそこのお婆さんが山に山菜を採りに行って行方不明になった云々とか。

先月も山へ散歩に出かけたお婆さんが行方知れずになって「お知らせ」が出たんだよ。

まあ結論を言うと、大怪我は負ったものの無事に保護された訳なんだが。

ただ、この「大怪我」が問題でね。左のふくらはぎの一部が抉れていたらしい。

お婆さんの話を要約すると、

「小さな影が突然走って来てぶつかった。尻餅をついた時には、影は消えていた。

左足が酷く痛いので見てみると、肉が削られていた。痛みと出血の恐怖で動けなくなった」

という事らしい。

お婆さんは持っていた手ぬぐいで傷口を押さえ、暗い山の中で一人怯えていたんだとか。

発見が早かったので手遅れにならずに済んだそうで、その点は不幸中の幸い。

警察は野犬に噛まれたんだろうと判断したが、治療に当たった消防の人が「これは動物が噛み付いて出来たような傷じゃない」と反論した。

しかし、「じゃあ何だよ?」と問われても答えられず、結局野犬の仕業ということに。

何十年か前にも山の中で似たような事が起きていたそうだけど、関連性は無しということで警察は無視。

地元の年寄りの何人かが「みょうけん様かなあ」と言っていたが、それが何なのかは不明。

「山の中にはみょうけん様がいる」くらいしか話が伝わっていないそうだ。

すぐ近くの山の中に人を襲うような何かがいると考えると、少し背中が寒くなった。

関連記事

櫛で髪をとかす女性(フリー写真)

櫛のなくなる部屋

私が以前住んでいた部屋の話。 私は就職を機に、会社近くのアパートに引っ越した。 立地は良いけどかなり古いアパートで、家賃が安かったのが決めた理由だ。 出社一日目、早…

狐さん(フリー写真)

小さなかぎ裂き

戦後暫く経った頃、地方のある農村での話。 村で一番の旧家の跡取り息子が失踪した。 山狩りをしても、池を浚っても見つからない。 お金か女性がらみのトラブルかと思い、人…

林(フリー写真)

墓地に居た女性

霊感ゼロのはずの嫁が、5歳の頃に体験した話。 嫁の実家の墓はえらい沢山ある上に、あまり区画整理がされておらず、古い墓が寺の本堂側や林の中などにもある。 今は多少綺麗に並んで…

夢

記憶を追って来る女

語り部というのは得難い才能だと思う。彼らが話し始めると、それまで見てきた世界が別のものになる。 例えば、俺などが同じように話しても、語り部のように人々を怖がらせたり楽しませたりは…

天使(フリー素材)

お告げ

私は全く覚えていないのだが、時々お告げじみた事をするらしい。 最初は学生の頃。 提出するレポートが完成間近の時にワープロがクラッシュ。 残り三日程でもう一度書き上げな…

首刈り地蔵

小学生の頃、両親が離婚し俺は母親に引き取られ、母の実家へ引っ越すことになった。 母の実家は東北地方のある町でかなり寂れている。家もまばらで町にお店は小さいスーパーが一軒、コンビニ…

沼(フリー写真)

そこなし沼にて

親父は教師をしており、俺は小学二年生まで教員住宅に住んでいた。 俺の家の裏は林になっていて、そこに『そこなし沼』と呼ばれる沼があった。 その周りではクワガタが沢山捕れるの…

だるま

女の子2人が韓国へ旅行に行った。 ブティックに入り、一人の女の子が試着室に入った。だけど待てども待てども一向に試着室から出てくる気配がない。 カーテンを開けるとそこには誰も…

隙間見た?

子供の頃に姉が、 「縁側のとこの廊下、壁に行き当たるでしょ。あそこ、昔は部屋があったんだよ。 人に貸してたんだけど、その人が自殺したから埋めたの。 今はもう剥げてきて…

妖狐哀歌(宮大工10)

オオカミ様が代わられてから数年が経った。 俺も仕事を覚え数多くの現場をこなし、自分でも辛うじて一人前の仲間入りを果たす事が出来たと実感するようになった。 また、兄弟子たちも…