星を見る少女

公開日: ほんのり怖い話

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夜、アパートに住んでいる青年がふと外を見ると、向かいのアパートのベランダに人がいる。

背格好からすると少女だろうか。少女はどうやら、空を見上げているらしかった。

なんとなく窓を開けて空へ目をやると、一面に散りばめられた星々が静かに瞬いている。

少女はこれを眺めているのか、と合点した青年は、何気なく少女に声をかけた。

「綺麗な星空ですね」

突然、アパートの間を冷たい夜風が吹き抜けた。

青年は、風音に声が消されてしまっただろうかと思ったが、少女を見ると、コクりと小さく頷いたようだった。

翌日の夜も、窓の外を見れば、ベランダで少女が空を見上げている。

青年は少女に語りかけるが、少女は黙って頷くだけだ。

無口な子だな、と思いながらも、青年はそんな少女のことが気になり始めていた。

翌日の夜も、少女は空を見上げていた。青年は思い切って尋ねた。

「君と話がしたいから、今からそっちへ行ってもいいかい?」

少女からの返答はない。きっとノーということなのだろう。

青年が諦めかけたその時、夜風が吹き抜けると同時に少女が小さく頷いた。

少女も会ってみたいと思ってくれたに違いない! 青年は込み上げる嬉しさに小躍りしたくなる気持ちを抑えつつ、少女の部屋へと駆け出した。

部屋の前へ着き、青年は緊張しながらチャイムを押した。が、どうやら壊れているらしく、音は出ない。

ドアをノックしてみるが、何の反応も返ってこない。

なにげ無しにドアノブを捻ってみると、鍵はかかっていないようだった。

はたして勝手に入っていいものか。青年は逡巡したが、意を決してドアを開いた。

室内は真っ暗だった。唯一正面に、少女の後ろ姿だけが月明かりに照らし出されていた。

「おじゃまします」

上がり込んだ青年は、少女に声をかけながら歩み寄るが、近づくにつれ違和感を覚えた。

少女の体が少し浮いているのだ。

少女を前にして、青年は腰を抜かしてへたり込んだ。少女は首を吊っていた。

アパートの間を夜風が吹き抜けた。風にあおられた少女の体が揺れ、くくられた首が頷くように小さく折れた。

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