合いの手

公開日: ほんのり怖い話

材木(フリー写真)

俺の親父が若い時分に、山から材木を切り出す仕事をしていた頃の話。

飯場と呼ばれる山の中の宿舎で、他の作業員と寝起きを共にする仕事だったそうだ。

その中に民謡のとても上手い人が居て、寝言でも民謡を歌い出す事が度々あったらしい。

それが寝言とは思えない立派な歌声なもので、周りで寝ている連中も目が醒めても怒るどころか聴き入ってしまう程だったらしい。

いつもは一番の歌詞を歌い切ると、彼は何事も無かったように深い眠りに就くのだそうだが、ある夜、傍で聞いていた誰かが一番の歌詞を歌い終えた直後に『合いの手』を入れてみたそうな。

すると寝言民謡の男は二番を歌い始めた。

そこで面白がった周りの連中は次々と合いの手を入れ、結局民謡を最後まで歌わせてしまったそうな。

次の日、民謡の男は酷く体調が悪いらしく、仕事もままならない様子。

心配した俺の父親が「大丈夫か? 何かあったのか?」と尋ねると、

民謡の男が「夕べ誰か俺の寝言の歌に合いの手入れなかったか?」と、周りで作業していた仲間に言ったそうだ。

後で詳しい話を聞いたところ、彼は他の現場でも同じ事が何度もあり、現場や仲間が入れ替わる度に、寝言で歌っても無視してくれるように頼むのが習慣だったらしい。

しかし、たまたま俺の父親と一緒になった現場は忙しくて話す時間が無かったのだそうだ。

『寝言と話をしてはいけない』という言い伝えを思い出す。

関連記事

切り株(フリー写真)

植物の気持ち

先日、次男坊と二人で、河原に蕗の薹を摘みに行きました。 まだ少し時期が早かった事もあり、思うように収穫が無いまま、結構な距離を歩く羽目になってしまいました。 視線を常に地べ…

カブト虫

夜、友人4人と車で山道走ってたら、1人が急に「虫がいた。停めて。カブト虫探す」 って言って時速30kmで走ってる車から飛び降りて、ゲラゲラ笑いながら山の中に消えていった。 実家に…

弟の言葉

弟が一時期変なこというので怖かった。 子供の頃、うちの実家はクーラーが親の寝室にしかなく、普段は自分の部屋で寝ている私も弟も真夏は親の部屋に布団をしいて寝ていた(結構広い部屋で1…

公園

代弁者

今年の秋頃かな。二条城の周りを走っていた時の話です。 トイレがあるんですけどね、そこに三つほど腰掛けやすい石があるんです。 そこで走った後の興奮を抑えるために、ぼんやりと座…

キジムナー

あまり怖くないが不思議な話をひとつ。 30年くらい前、小学校に行くかいかないかの頃。 父の実家が鹿児島最南端の某島で、爺さんが死んだというので葬式に。 飛行機で沖縄経…

学校(フリー写真)

霊感教師と霊感生徒

俺の母は小学校の教師をしている。 霊感があり、赴任先によっては肉体的にかなりキツかったらしい。 ※ 10年前に4年生のクラスを担任した時、かなりの霊感を持つ女生徒Aと出会った…

ITエリート

某県では次世代を背負って立つITエリートを育てようと、IT教育にたいそう力を入れている。それゆえ、この県の公立学校では、IT教育関連の設備投資に限っては、湯水のように予算を使うことがで…

肝っ玉おかん

以前付き合っていた彼女に聞いた話。 小学校4年生くらいの頃、夜中に枕元に気配を感じて目を覚ますと、白装束に狐の面を被った何者かが立ってこちらを見ていたそうです。 何をするわ…

葛籠(つづら)

俺は幼稚園児だった頃、かなりボーッとした子供だったんで、母親は俺をアパートの留守番に置いて、買い物に行ったり小さな仕事を取りに行ったりと出かけていた。 ある日、いつものように一人…

満月(フリー画像)

天狗

35年前くらいの事かな。俺がまだ7歳の時の話。 俺は兄貴と2階の同じ部屋に寝ていて、親は一階で寝ていた。 その頃は夜21時頃には就寝していたんだけど、その日は何だか凄く静か…