幸恵

公開日: 怖い話

古民家(フリー写真)

戦後すぐのお話。

哲夫という田舎の青年が、カメラマンになるために上京しました。

哲夫には幸恵という恋人が居ました。

幸恵は両親の反対を押し切り、哲夫と一緒に上京。貧しい同棲生活が始まりました。

貧しいながらも、二人は肩を寄せ合い幸せでした。

しかし哲夫の仕事が上手く行き始めると、彼は外に女を作り、毎晩飲み歩くようになりました。

そんな生活が二ヶ月も続くと、彼女は何も言わずに故郷に帰って行きました。

それから数日して、故郷の友人から彼女の自殺を知らされました。

友人「お前な~葬式くらい出てやれよ」

哲夫「だめなんだ、今忙しくて。それより自殺の理由って何なんだ?」

友人「分かってるんだろ。兎に角!線香の一本も上げないなら絶交だからな!」

哲夫は嫌々ながらも故郷に帰る決心をしました。

しかし彼が幸恵の実家に着いたのは、葬式から三日後の夕方でした。

取り敢えず土下座しよう、殴られるくらいは仕方ない。

そんな事を考えながら彼は玄関を開けました。

「こんばんは~、哲夫です」

暫くすると、奥から足音が聴こえてきました。

「いや~、遠いところよく来たねえ~」

彼は両親のあまりに明るい態度に少々驚きました。

父「さあさあ、そんな所に立ってないで上がって上がって」

哲夫「はい。あの~、今回のことは何とお悔やみして良いのか」

父「うんうん」

あれ? おかしいな。幸恵が帰郷した理由は聞いていないのか。

自殺の理由は俺だと知らないのか。

父「晩飯食べて行くだろ?」

哲夫「いや…でも…」

父「まあいいじゃないか。娘の東京での楽しかった話でも聞かせてくれよ」

哲夫「解りました。御馳走になります」

哲夫は仏壇で拝みながら、

「お前、何も死ななくても」

と話し掛けました。

どうやら俺が他に女を作ったことは知らないらしい。

お父さんが俺を見る時の目も、敵意どころか本当に親しんでいる。

こんなことなら許してやるんだった、というところかな?

父「飯ができたぞ。まあ一杯やりながら向こうでの生活を話してくれ」

哲夫「はあ…」

哲夫は楽しい話だけをしました。自分の非がばれないように。

父「今日はもう遅いから泊まって行きなさい」

哲夫「いや…でも…」

母「夜は危ないですから」

哲夫の家までは歩くと一時間もかかる。道も鋪装されてないし明かりもない。

哲夫「じゃあお言葉に甘えて」

哲夫は幸恵の部屋で寝た。

幸恵は遺書も何も残さなかったのか。

それで両親は、自分達が反対したからだと思い込んでいる。それならそれでいい。

哲夫は旅の疲れで深い眠りに就きました。

「ぎやああああああああ~~!」

明け方、けたたましい悲鳴で目が覚めた。

幸恵の両親の部屋からだ。

何が起こったんだ!?

哲夫は両親の部屋を開けた、そこには…。

幸恵が居た。正確に言うと、幸恵の遺体が。

哲夫「一体何事ですか?」

父「わ…わからん!朝起きたら隣で寝てた」

哲夫「!!??」

父「一体誰がこんな酷いことを」

その日は大変な一日だった。

幸恵の遺体を再び土葬し、駐在所のお巡りさんの尋問を受け、気が付くと夜になっていた。

両親が不安だと言うので、もう一晩泊まることにした。

まさか…幸恵が自分で…。

いや…そんなことあるはずがない…。

「ぎゃああああ~~~~」

明け方、また例の悲鳴で目が覚めた。

両親の部屋に行くと、また幸恵が居た。

遺体は腐乱し始め、ウジ虫が目から這い出している。美しかった幸恵の面影はない。

母親は発狂していて、父親は恐怖と怒りで声が出ないようだった。

哲夫は幸恵に遺体にこんな酷い仕打ちをする犯人に、無性に腹が立った。

哲夫「お父さん…犯人を捕まえましょう!」

父「どうやって?」

哲夫「僕は昨日寝る前に、戸締まりをしっかりしたんです!だからこの家に他人が入るのは不可能なんです!一箇所を除いて」

父「一箇所?」

哲夫「はい、この家の玄関です!あの引き戸は軽く叩くとカギが外れてしまうんです。だから犯人は、堂々と玄関から」

父「…」

哲夫「今夜僕は、玄関で寝ないで番をします」

父「ありがとう…頼んだぞ」

哲夫は玄関に鍵を掛け、玄関に腰かけ犯人を待った。

一時…二時…三時…。

この二日間で哲夫の疲労は頂点に達してした。

哲夫は知らず知らず眠っていた。

どれくらい眠っただろう、自分の足に当たる何かに気が付き目を覚ました。

ゆっくり目を開けると、目の前に足があった。臑の部分が自分の足に当たっていた。

「犯人…だ…」

哲夫は犯人がこんなに近付いたことに恐怖を感じたが、冷静に状況を考えた。

足は一…二…三…四…四本、二人居る。

哲夫はゆっくりと顔を上げた。

そこには虚ろな目で哲夫を見下ろし、幸恵を担ぐ犯人が居た。

幸恵の両親が。

「いつになったら…謝るつもりだ?」

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