見えない常連さん

公開日: 心霊ちょっと良い話

バー(フリー写真)

俺が昔、まだ神戸で雇われのバーテンダーだった頃の話。

その店は10階建てのビルの地下にあった。

地下にはうちの店しかないのだけど、階段の途中にセンサーが付いていて、人が階段を通るとカウンターの中のフラッシュが光り、お客さんが来たのが分かる仕組みになっていたんだ。

でも偶にフラッシュが光っても誰も入って来ない、外を見ても誰も居ないという事があった。

俺は寂しがりやの幽霊でも来たのかなと、半分冗談でウイスキーをワンショットカウンターの隅の席に置き、

「ごゆっくり。どうぞ~」

と言ったんだ。

それからは、それがおまじないというか験担ぎのようになり、フラッシュが光るといつも同じようにしていたんだ。

そのうちお客さんも、

「おっ、今日も来てるねー」

という感じになり(そういう日に限って店は凄く忙しくなった)、姿は見えないけど、その頃は店の常連さんのように思っていたんだ。

ある冬の朝方、またフラッシュが光ったので、こんな遅くにお客さんかあと思い、外を見ても誰も居ない。

朝の空気が心地良いので、階段の上まで昇って一服していたら、突然の大地震。

そう、阪神大震災です。

うちのビルは地下と一階部分がぺっちゃんこ。あのまま中に居たら確実に死んでいました。

後から考えると、いつも只で飲ませてあげていたあの見えない常連さんが助けてくれたのかなあ、と思います。

今も違う場所で自分でお店をやっていますが、その店のスイングドアが風も無いのにギギィーッと揺れたりすると、今でもウイスキーをワンショットカウンターの隅に置いています。

そして心の中で、

『いらっしゃい。あの時はありがとうございました』

と思うようにしています。

関連記事

病室(フリー素材)

優しい声

これは俺が中学生の時の体験です。 恐怖感はあまり無く、今でも思い出すと不思議な気持ちになります。 ※ 中学二年の二学期に急性盲腸炎で緊急入院しました。定期テストの前だったので…

ろうそく(フリー写真)

評判の良い降霊師

実家は俺の父親が継いでいるが、実は本来の長男が居た。 俺の伯父に当たる訳だが、戦前に幼くして亡くなったのだ。 今で言うインフルエンザに罹ったと聞いたように記憶しているが、と…

薔薇の咲く庭(フリー写真)

母が伝えたかったこと

母が二月に亡くなったんだよね。 でもなかなか俺の夢には出て来てくれないんだ。こんなに逢いたいのに…。 ※ 母が病気になってさ、本当は近くに居てやらないといけないのに、自分で希…

太陽の光(フリー写真)

わたしの靴がないの

従姉妹が19歳という若さで交通事故に遭い、亡くなりました。 それから半年ほど経った頃、夢を見ました。 従姉妹の家に沢山の人が訪れ、皆それぞれ食事をしながら談笑しています。 …

女性の友情(フリー写真)

親友の加護

もう三年程前の話です。 友人が癌になり、全身に転移してしまい、死ぬ為に病院に入院する事になった。 当時そんな事は知らなかったのだけど、偶然寿退社して暇だった私は、毎日彼女の…

白いシャツ(フリー写真)

破れたシャツ

先日、酔っ払いに絡まれている女性がいたので助けました。 その時、酔っ払いに引っ張られ、シャツの生地の縫合部分が裂けました。 その日に限って、病気で亡くなった妻が私の誕生日…

日本酒(フリー写真)

クジ引き

この前、近所の商店街のイベントでクジを引いた。 買い物をすると貰えるクジ引き券を数枚集めて引くあれだ。 『三等のスポーツ自転車が欲しいな~』なんて考えながら箱に手を入れて…

病室(フリー素材)

絵日記

この前、夜遅くの深夜にハッっと起きてしまいました。 なんでいきなり起きちゃったんだろう…と思っていると、部屋の隅に何かの気配を感じました。 眼を凝らして見てみると、それは…

零戦(フリー写真)

身代わり

今年大往生した母方の祖父ちゃんは、零戦乗りだった。 戦中予科上がりだけど特乙や特丙よりも前に出たので、それなりに操縦士の中でもエリート意識はあったらしく、飛行時間をよく自慢して…

戦闘機(フリー写真)

護衛機

爺ちゃんから聞いた話。 俺の爺ちゃんは戦争中、爆撃機で司令官を運ぶパイロットだった。 もちろん護衛に戦闘機を引き連れてだけど。 戦争で戦友が次々死んで行く中で、爺ち…