鈴の音

公開日: 心霊ちょっと良い話

古い箪笥(フリー写真)

小学生の頃、大好きだったばあちゃんが死んだ。

不思議と涙は出なかったのだけど、ばあちゃんが居ない部屋は何故か妙に広く感じ、静かだった。

火葬が済んだ後、俺は変な気配を感じるようになった。

テレビを視ている時、トイレに行く途中の廊下、誰かが俺を見ているようだった。

何となく『ばあちゃんだな』と思ったけれど、その時は別に気に留めなかった。

次の日、眠りに就こうと布団に入りウトウトしていると、突然金縛りに遭った。

金縛りは初めてだったので、かなり驚いていると、ドアの方から鈴の音が聞こえて来て、段々こちらの方へ音か近付いて来る。

目を開けるのが怖かったので頑なに目を閉じていたけれど、目の奥にばあちゃんの姿が見えた。

馬鹿な俺はその時パニック状態になり、

『何故可愛がってくれた俺をこんな怖い目に遭わせるんだ』

と心の中でばあちゃんを貶し続けた。

すると目の奥のばあちゃんは少し悲しそうな顔をして、鈴の音が小さくなると共に消えて行った。

金縛りが解けた後は、怖かったので布団に潜り眠った。

次の日の朝、何となくばあちゃんの部屋に入り、一緒に折った折り紙の鶴などを眺めていた。

昨日の出来事を思い出したりして、ばあちゃんは何がしたかったのだろうと考えていたら、咄嗟にある事を思い出した。

あの鈴の音。

ばあちゃんの財布に付いていた、鈴の付いたヒモ。

俺はとっさにタンスを開けて、ばあちゃんの財布を取り出した。

財布の中には、少しのお金と封筒。

その封筒を開けてみると、便せんに癖のある字でこう書かれていた。

『甘いものばかり食べていると虫歯になるから控えなさいね。

テレビゲームのやり過ぎもほどほどに。

おばあちゃん、いつもお前の事を心配して見守っているからね。

少しだけどこのお金で何か買いなさい』

昔の千円札が一枚入っていた。

あの時、ばあちゃんは、これを渡したくて俺の部屋に来たのだろうか。

そんな事も知らずにばあちゃんを貶した自分。

あの時の悲しそうな顔をしたばあちゃん。

俺はばあちゃんが死んでから初めて泣いた。

関連記事

戦闘機(フリー写真)

護衛機

爺ちゃんから聞いた話。 俺の爺ちゃんは戦争中、爆撃機で司令官を運ぶパイロットだった。 もちろん護衛に戦闘機を引き連れてだけど。 戦争で戦友が次々死んで行く中で、爺ち…

神社のお姉さん

友達から聞いた話なので詳しくは判らないのだけど、嘘や見栄とは縁のない子が言っていたことなので、きっと実話。 友達は霊感持ちではないが、小学生の頃に霊か神仏としか思えないものに会っ…

椅子(フリー写真)

おかんの夢

おかんが癌で亡くなって6年になる。 癌を見つけた時にはもう余命一年の宣告。 親父と相談の上、おかんには告知しなかった。一年間、騙し続けた。 私はその時、二番目の子供を…

薔薇の咲く庭(フリー写真)

母が伝えたかったこと

母が二月に亡くなったんだよね。 でもなかなか俺の夢には出て来てくれないんだ。こんなに逢いたいのに…。 ※ 母が病気になってさ、本当は近くに居てやらないといけないのに、自分で希…

古いアパート

おっちゃんの幽霊

半年程前に起きた出来事。 今住んでいるアパートは所謂『出る』という噂のある訳あり物件。 しかし私は自他共に認める0感体質。恐怖より破格の家賃に惹かれ、一年前に入居した。 …

ろうそく(フリー写真)

評判の良い降霊師

実家は俺の父親が継いでいるが、実は本来の長男が居た。 俺の伯父に当たる訳だが、戦前に幼くして亡くなったのだ。 今で言うインフルエンザに罹ったと聞いたように記憶しているが、と…

消防車の玩具(フリー写真)

おもちゃの消防車

この話を知っている方も多いかと思いますが、投稿します。 これは毎日新聞の記者さんが実際に聞き、掲載したお話です。 ある日の雨の降る夜、会社から家路を急いでいたAさんが、田…

将棋盤(フリー写真)

角の頭に歩を打て

先週、親父と将棋を指した。 欲しい本代を賭けての勝負だけに、負けられない一戦だった。 俺は親父から将棋を教わった。 当然親父の方が強い。実力にはかなりの差がある。 …

スマートフォンを持つ手(フリー素材)

亡くなった人からの電話

亡くなった人からの電話というのは本当にあるのかな。 ※ 自分の中学生になる息子が、夏休みに自転車で四国一周をすると言い出した。 それで携帯を持たせて毎日連絡するように伝え、行…

白い蝶(フリー写真)

真っ白な蝶々

私の母が亡くなってから、色々な出来事がありました。 最初は、母の葬儀が終わって夕方家に戻った時のことです。 玄関の黒いドアの真ん中に、真っ白な蝶々がぴったり止まっていまし…