さまようおっさん

公開日: 心霊体験 | 本当にあった怖い話

a0647444500_10

オレは結構、日常的に金縛りに遭うんだよね。あと、変なもん、いわゆる幽霊って奴の姿もたまに見る。『あ、出るな』って時の感覚も、敏感に感じちゃうわけ。

ある日の朝、オレはいつものように出勤した。その日は少し寝坊して、駅まで慌てて行った。そしたら、いつもより早く駅に着いてしまった。

『電車が来るまで10分くらいあるなぁ』

『そういや何か腹痛ぇ』

『あ、朝飯だけは食ったが糞してからか』

『10分ありゃ駅のトイレでいけるんじゃね?』

とか考えて、駅のトイレに行ったわけ。

で、駅のトイレに駆け込むと、2つある個室のうち1つには人が入ってたが、1つは空いてた。

ちゃちゃっと用便を済ませて手を洗ってた。そうしていると、もう1つの個室の扉も開いて、中からサラリーマン風のおっさんが鞄を持ってこっちに歩いてきた。

『あ~このおっさんも手ぇ洗うのね』ぐらいしか思わなかった。でもね、おかしなことに、このおっさんが出てきてから強烈に『出る感覚』がするんだわ。

何かこう寒気がするっつうか、背中がゾクゾクするっつうか…そういや、トイレに入った時からその感覚はあった。

ただ、それは糞を我慢してるせいだと思って気付かなかったんだな。でも、まぁ何か出ても近くに人もいるし、何とかなるんじゃね?くらいの気持ちだった。

おっさんは足が悪いのか、ヒョコヒョコ歩きながらオレの隣に立って、手を洗い出した。その瞬間、オレは気付いてしまった。

おっさんの姿が手荒い場の鏡に写っていない!

その瞬間に、オレはもうガクブル状態。恐る恐るおっさんの方を見ると、おっさんもこっちを向いてた。

だが、おっさんの表情からは、自分に危害を加えようという意思は感じとれなかった。むしろ、悲しみのようなものが伝わってきた。

とは言え、目の前にいるのはこの世のものではないのは確か。オレは恐怖でその場に立ち尽くすことしかできなかった。

手を洗い終えたそのおっさんは、鞄を抱えるとオレに背を向け、何事も無かったかのように出入口から出ていった。

オレはその場からその姿を目で追った。おっさんの背中はスーツが破れて血まみれ。オレに背を向けているのに、右足の爪先はこちらを向いていた。

おっさんが出ていくと同時に、体から寒気が引いていくのが分かった。その後、オレがそのトイレを使うことはなかった。

オレの下手くそな文章のせいでイマイチ恐怖が伝わらなかったと思うけど、とにかくはアレは今までの経験で一番怖かった。何せ、霊とあんなに接近したことなかったから。

でさ、オレ思ったんだが、自分が死んだことに気付いてなくて、生前の日常を繰り返す奴がいるってよく言うじゃん。

だが、オレが見たあのおっさんは、きっと自分が死んだことには気付いてるんだと思う。

ただ何をしていいのか分からんから、結局当てもなく生前の日常を繰り返してんじゃないだろうか。だとすれば、あの悲しげな表情にも納得がいくと思うんだ。

死んだが成仏もできない。仕方なく生前の日常を繰り返すが、誰も気付いてくれない。

そして、気付いたオレには怖がられてしまう。

何だか、それってすごく悲しいことかも知れない。

…ってのは、ちとオレの考え過ぎかな?

関連記事

島

無人島の怪異

死んだ祖父さんが法事で酔っ払った時に聞いた話。 祖父さんは若い頃、鹿児島で漁師をしていた。 ベテラン漁師の船に乗せてもらいながら働いていて、毎日のように漁に出ていた。 …

爪を食べる女

最近あった喫茶店での話。 普通に時間を潰していたところ、隣のテーブルでなにやら物音。 カリカリカリという音。最初は特に気にもならなかったので本を読んでいたのですが、30分ほ…

竹林(フリー写真)

告別式の帰りに

可憐な女子高生だった頃の話です。 中学時代に親しかった友達が亡くなり、当時の担任の先生と一緒に告別式に出た帰りのことでした。 私は友達が亡くなったことがショックで、泣いた…

爺ちゃんとの秘密

俺は物心ついた時から霊感が強かったらしく、話せるようになってからは、いつも他の人には見えない者と遊んだりしていた。 正直生きている者とこの世の者ではないものとの区別が全くつかなか…

自衛隊駐屯地の恐怖体験

私が新隊員教育でとある駐屯地にいた時の話です。ありがちな話かもしれませんが、どうかご容赦下さい。 自衛隊には営内点検と言うものがあります。部屋の使用状況(物品の有無、整理整頓、清…

六甲山の牛女

六甲山に出る牛女って知ってる? 実際それを見た人に話を聞いたよ。『牛女』にも色々種類あるらしいけどね。 走り屋の間の噂では、牛の体に女の顔(般若という話もあり)で、車の後を…

カーテン(フリー素材)

宗教施設での心霊体験

これはとある宗教施設に3ヶ月ほど滞在していた時の話です。 その施設は鉄筋の4階建てになっていて、過去に男性が飛び降り自殺をしたという物件でした。 宿泊施設なので管理人と世話…

奴が来る

奴が来る

これは実際に起きた事件にまつわる、生存者の証言をもとにした話である。 「大雪山ロッジ殺人事件」として、過去に北海道新聞にも掲載された記録が存在する。 本稿で語るのは、その…

障子(フリー写真)

女の影

今から15年前、中学の野球部合宿での話。 夏の合宿で毎年使っていた宿が廃業し、その年から宿が変わった。 民宿でもホテルでもなく、そこは公民館というか町営の集会所のようなとこ…

赤い顔

赤い爺さん

友人Yから聞いた話。 今から二年程前、Yの爺さんが亡くなった。 Yは昔から超が付く程の爺さんっ子だったものだから、葬式の時は年甲斐もなく鼻水を垂らしながらわんわん泣いたらし…