お婆さんの願い
夜道で細く開いた戸から手招きされ、お婆さんに差し出されたのは薄黄色の細い蝋燭でした。愛媛・内子の木蝋の町に残る、蝋燭を置いて次へ回すという作法。断ったはずの掌に…
夜道で細く開いた戸から手招きされ、お婆さんに差し出されたのは薄黄色の細い蝋燭でした。愛媛・内子の木蝋の町に残る、蝋燭を置いて次へ回すという作法。断ったはずの掌に…
夕方の有線放送で「どう、わかったかな」と問われ、五歳の私はつい返事をしてしまいました。鹿児島・大隅の茶の集落に伝わる、放送に返事をしてはいけないという決まり。そ…
四国山地の集落に残る農村舞台に、支柱も鉄の釘も使わない十三段の箱階段がありました。材木の記録も大工の名も帳面にありません。手間賃を受け取らなかった職人に名を訊い…
熊野灘に面した集落の蔵に、夕方だけ湿る白い球が置かれていました。表面に浮かぶ入り江は日ごとに増え、地籍の控えには消えたはずの字名が一行だけ残っています。決して濡…
北東北の寒村に残る土着のイタコを録音するため、私は年に三日だけの大祭に立ち会いました。場所と日が揃わねば口を開かない理由、そして白い布で目を覆い続ける理由。禁を…
山陰の谷にひっそりと残る十七戸の集落に、奇妙な子守唄が伝わっていました。目ん玉でんぐりがえして寝ろ、と歌うその意味を、私は裏山が薄い緑に光る夜に思い知ります。ね…
民俗調査で山あいの集落を訪れた私は、当主『おもてさま』の写真を撮ることを固く禁じられました。写真はいけない、けれど絵ならと甘く考えた私が、犯してしまった過ち。仏…