ワームホール
14年前、多摩川の河原から栃木の山中にワープした。
草むらに見つけた穴を5メートルほど進んで行ったら、なぜか板壁に突き当たった。
その隙間から這い出てみると、森の中の腐りかかった社の縁の下だった。
振り返って出てきた板壁を見ると、何十枚と色褪せたお札が貼られていた。
混乱した俺はとにかく泣き叫びながら山を下った。
幸い少し降りた所で舗装された道路に出たので、そこを辿って町の交番に駆け込んだ。
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不思議だったのは、警察官達の対応が素早かった事。
支離滅裂な俺の言葉を遮っては住所氏名を確認し、テキパキと迎えの手配を済ませた。
落ち着いた頃に一体何が起こったのか尋ねてみたが、「判らない」「謎だ」の一点張り。
それは両親が聞いても同じ事だった。結局今以て何も判らない。
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補足
その日は親戚の葬式だったのですが、年の近い親戚も居なかったため、一人で河原を散策していました。
例の穴は、川と土手の中間辺りのやや斜面になった所で見つけました。
間口は草に覆われていましたが、少し頭を下げれば入れそうだったので、何の気なしに覗いてみました。
なぜ穴の奥に進む気になったのかと言うと、その穴は斜め下に向かっているにも関わらず、奥の方が暗闇ではなかったからです。
少し降りてみると、明らかに前方から光が漏れているのが確認できました。
その時点で既に訳が解らない心境でした。