掌を当てる儀式
公開日: ほんのり怖い話 | 不思議な体験 | 田舎にまつわる怖い話
この間、ずっと忘れていた事を思い出しました。
前後関係は全く判らないのですけど、子供の頃に住んでいた小さな町での記憶です。
他の五人くらいの子供と、どこかの家の壁にぎゅーっと掌を押し当てているんです。
そうしていると、いきなりズボッという音がして、私達が手を当てていた壁の一部分から、真っ黒でどろどろしたものが流れて来るんです。
しかも、私は極度の恐がりだったにも関わらず、
『やってやったぞ』
というような高揚感があり、恐怖の色は微塵もありません。
更に言うと、
『これで○○ちゃんは大丈夫』
みたいな事を考えているんです。
○○ちゃんに関しては、漠然と
『時々遊んだかな?』
くらいのことしか憶えていません。
※
これだけなら、ただの夢という事で済むのですが…。
その壁に手を当てていた友達の中に私の遠縁が居て、先日、十五年ぶりくらいに連絡を取って来ました。
大伯母の葬儀についてだったので、ひとしきり話した後に件の話をしてみたら、彼女も最近それを思い出したと言うのです。
そして、私と同じように、長い事忘れていたと言います。
しかも、例の壁に掌を当てる儀式の後、それをした子供の家は次々に町から引っ越し始め、彼女が最後の一家族だったと言うのです。
彼女とこの件について突き詰めて話したところ、
「これは『終わった話』だから話しても良いし、寧ろ話した方が良いんじゃないか」
という結論になりました。
いえ、理由はよく解らないのですが、何故か二人ともそう強く確信したのです。
但し、私達は二度とあの町に行かないと思います。
何か起こるのが怖いという訳ではなく、
『もうやるべき事はやったし』
という感覚が強いからです。
※
一応、オカルトらしく纏めておきますと、あの壁から出て来たどろどろを思い出す度に、私は『地獄』という言葉を連想します。
私や親戚の彼女は、至って平穏な人生を送っていますが…。