
祖母が体験した、少し不思議な出来事をお話しします。
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それは、終戦から間もない頃のこと。
祖母は、生活に必要な物資を買いに市へ向かっていました。
まだ道路のあちこちにはバラック小屋が立ち並び、焼け跡が残る街並みの中を歩いていたそうです。
そんな中、ふと周囲の景色に違和感を覚えました。
気がつくと、辺りには立派な建物がいくつも建ち並び、目の前には巨大な駅が出現していたのです。
そして駅からは、白くて煙突もない、流線型の美しい列車が音もなく滑るように現れました。
当時の祖母にとっては、見たこともない未知の乗り物だったそうです。
呆然とその列車を見つめているうちに、ふと我に返ると、祖母はまた元の焼け跡の道に立っていました。
数年後、新幹線が世に登場した時、祖母はその姿を目にしてこう思ったそうです。
「あのとき見たのは、これだったんだ」と。
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さらに時は流れ、昭和45年(1970年)頃。
大阪万博が開かれていた頃、祖母は用事で東京を訪れていました。
都会の街を歩いていたとき、ちょっとした段差につまずき、思わずよろめきました。
ふと顔を上げると、目の前の街並みが一変していたのです。
人々は奇妙な服装をしており、手には無線機のような機械を持っていました。
その様子に祖母は恐ろしくなり、思わず目を閉じ、深呼吸をしてから再び目を開けました。
すると、街は元通りに戻っていたのです。
後になって気づいたことですが、人々が手にしていた機械は、どうやら“携帯電話”だったようです。
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祖母はさらにもう一度、時空を越えるような体験をしたことがあると語っていました。
ある晩のこと。
散歩の途中、知らぬ間に足が向いた道を歩いていると、見たことのない広大な場所に出たそうです。
そこは、未来的な建物や機械が立ち並ぶ巨大な施設のような場所でした。
そして、その中心にはひときわ高い塔のような構造物がそびえていたのです。
金属で組まれたような構造物で、見上げると天まで届きそうなほどの高さがあり、一定間隔で光るライトが取り付けられていたといいます。
その塔をしばらく眺めた後、祖母は元の道を戻りました。
けれども、後日いくら探しても、その場所に再び辿り着くことはできませんでした。
祖母が見たその塔は、話の様子からすると、現代でいう「軌道エレベーター」だったのではないか──。
そう推測する人もいますが、祖母自身はそんなものが存在することすら知りませんでした。
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祖母の不思議な体験はこれで終わりです。
あれは幻覚だったのか、それとも、未来のほんの一瞬を垣間見た奇跡だったのか。
今となっては、祖母の話の真偽を確かめる術はありません。
けれど、祖母が静かに語ったそれらの記憶には、どこか現実とは思えない不思議な説得力がありました。