アンテナ鉄塔の異変

7718706242_5da7dd6261_o

私はドコモ関連の設備管理の仕事をしている者ですが、昨年の年末にちょっと信じられない体験をしました。

これまで幽霊とか妖怪とか、そういうものは信じていませんでしたし、そういった現象に出くわしたこともなかったのですが、今回の出来事は、自分のそういう認識をひっくり返してしまうようなものでした。

未だに、あれが現実の出来事だったのか、自分の幻覚だったのか、確信は持てないのですが…。

去年の12月27日、私と上司2人は、山頂にあるアンテナ鉄塔の点検に出かけました。

山道を車で登って行ったのですが、途中で雪が深くなってきて、その時はスタッドレスタイヤを履いていなかったので、それ以上進めなくなり、仕方なく神社の前に車を置いて、1キロくらい歩く事になりました。

雪は表面が凍っていて、踏むとザクザクと音がします。不思議と木には雪が積もっていなかったので、上司(Kさん)になぜなのか訊くと「木の枝に積もった雪は、すぐに下へ落ちるからな」と答えました。

そうやって周りの景色を見たり雪に足を取られたりしたので、鉄塔に近づくまでに30分以上も掛かってしまいました。

鉄塔が間近に見えて、車道から林の中の道に入った辺りで、Kさんが上を見上げながら言いました。

「木の枝に何か引っかかっているぞ」

私ともう一人の上司(Tさん)が上を見ると、木の枝に地面から5メートルくらいの枝に細くて白い布みたいなものが絡んでいて、風になびいていました。

更に行くと、鉄塔の回りに張ってあるフェンスやゲートの鉄格子にも同じものが絡みついているのが見えてきました。

近づいてよく見てみると、それは布ではなくて紙でした。黒で何か書かれた紙を細く裂いたような感じで、まだらになっています。

「山仕事に入っている人のイタズラかな?」

「気持ち悪いなあ」

などと言いながら、ゲートの鍵を開けて中に入りました。続いて、鉄塔のドアに鍵を突っ込んで回して開けようとしたのですが、開きません。

おかしいなと思って反対に鍵を回したら、今度はすんなりと開きました。

「ここ鍵が開いてたみたいですよ」

と私が言うと、Kさんに

「そんなはずはない。前に来た時にちゃんと鍵を閉めたはずだ」

と言い返されました。

中へ入ると、ちょっと変な臭いがしました。それは他の2人も気が付いたみたいで「なんだか臭いな」とか言っています。

電源や通信のパネルを点検していると、奥の方でTさんが「んんん!?」と声を上げました。

近づいてみると、階段の下あたりに動物の毛がバサッと落ちていました。

「これ鹿じゃないかな?」

それを見たKさんが言いました。

毛を足でどけてみると、その下に血痕がいくつかありました。「ここで食われたのかな?」とTさん。

それにしては骨も残っていないし、血も少ない気がしました。それに入口のドアは閉まっていたので、鍵が開いていたとしても動物が入れたとは思えません。

おかしいなあとは思いながらも、原因が分からないので、とりあえず毛を集めて外に捨てました。

血痕は、外から雪を持ってきてこすったら少し薄くなったので、そのまま放って置くことにしました。

寒いし気味が悪いしで、早く点検を終わらせて帰りたい一心で、私はチェックリストを埋めていきました。

「ホゥゥゥゥ」

遠くの方でそんな感じの声が聞こえました。アンテナの方に行っていたKさんの声かと思って「Kさーん!」と叫ぶと「何だー!」と、別の方向から声が返ってきました。

『あれ?』と思ったのですが、その時はTさんが外で仕事していて声を出したのだろうと思って、気にしませんでした。

ようやく点検を終えてドアの外に出ると、自分一人でした。Tさんを捜して周りをぐるりと回ったのですが、見当たりません。

なんとなく中に入るのが嫌で外で待っていると、すぐにKさんとTさんが一緒に出てきました。

「Tさん、さっき外で呼んでませんでしたか?」

「いや、呼んでないよ。俺とKさんで上のボルトの点検してたから」

「おかしいなー。さっき『ホゥ』って誰かが叫んだのが聞こえたんですけどねえ」

「それ俺らも聞いて、てっきりお前だと思ったんだけど…」

「違いますよ」

「いや、お前が俺を呼んだ声が意外に近かったから、おかしいなぁとは思ったんだけどな」

そんな事を言い合いながら、今度はドアに鍵を掛けたのを3人で確認して、フェンスの外に出ました。細長い紙切れは気持ちが悪かったので、あまり触らずに放っておきました。

日が暮れて暗くなりかけていたので、急いで車の所へ戻ろうと歩き始めました。KさんとTさんの後ろを、私が少し離れてついて行く形で、下り坂は滑るので、足元を見ながらうつむいて歩きました。

辺りの林はとても静かで、ザクザクと雪を踏みしめる音だけが聞こえてきます。灰色っぽい雲の隙間から、遠くの夕焼けが見えていました。

私はさっきの事を考えながらボンヤリと足元を見つめるうちに、ちょっと奇妙な事に気が付きました。

私達は上りも下りも道の左側を歩いていて、つまり上りと下りとは反対の側に足跡が付いていました。

私の目の前には、TさんとKさんの長靴の跡が並んでいたのですが、その間にもう一つ、小さめの足跡がありました。

最初は『自分が登った時の足跡かな?』と思いましたが、それは道の反対側にあるはずです。上りの時には真っ新な雪面だったのが強い印象として残っているので、私達が登る以前に誰かが歩いた跡とは思えません。

となると、これは自分達が登った後に付いた足跡だという事になります。良く見てみると、その足跡は下を向いていました。

だから、これは誰かが自分達よりも先に降りた時の足跡なのだと、その時はそう思いました。

でも、その誰かは、いつ、どこから山に登ったのでしょう?

それよりももっと気になる事がありました。その足跡はどう見ても裸足だったのです。雪の上を裸足で歩く人間は、多分まともではありません。私は前の二人に声を掛けるために、視線を上げようとしました。

その時、視界の上の方、つまり、自分の足元のすぐ前の方に裸足の足が見えました。『うわっ!』と思って思わず足を止めました。

すると視界から足が消えたので、恐る恐る視線を上げて前を見ました。少し離れた所にKさんとTさんが並んで歩いている他に、人影は見えません。

周囲を見渡しても、動くものなど何もありませんでした。不思議に思いましたが、どうしようもないので、再び足元を見ながら歩き始めました。しばらくすると、また前の方に足が見えました。

驚いて足を止めると、スッと視界から消えます。が、歩き出すとすぐに見え始めるのです。

小さくて白い裸足が1.5メートルくらい前を、自分と同じ速さで歩いているようです。ちょうどかかとの辺りに、白っぽい布が掛かっているのが見えました。

もう怖くなって前を見ることができませんでした。ひたすら足元を見ながら道を下って行きます。

耳を澄ますと、前の方からKさんとTさんが低い声で話すのが聞こえてきました。それにザクザクという足音が被さっているのですが、それが3人なのか4人なのかは分かりません。

なんとなく、目の前の足は音を立てていないように思えました。

やがて、先を行く2人の足音が途絶えました。と同時に、視界から裸足の足がスッと消えました。

怯えながら目を上げると、いつの間にか車の所まで来ていました。私は心底ホッとして、すぐに車の方に駆け寄りました。

するとKさんとTさんが「これから神社に詣ろう」と言い出したのです。もう暗くなりかけているし、こんな所で時間を潰していたら、路面が凍結して帰れなくなってしまいます。

そんな事は分かっているはずなのに、2人は

「ここまで来て神社へ行っておかないとダメだ」

「すぐに済むからお前も行こう」

などと言うのです。

入口から見ると、鳥居の奥は木が鬱蒼と茂っていて、どこに何があるのか全然分かりません。

こんな所へ入って行くのは絶対に嫌だったのですが、だからと言ってここに一人で置いていかれるのも怖かったので、必死の思いで2人を説得して、どうにか車に乗せることができました。

急いで車をスタートさせたのですが、雪道なのでスピードを出すと滑ります。何度か危ない場面があったのですが、2人共声を上げるでもなく黙ってシートに座っていました。

バックミラーで見ると首がグラグラ揺れていて、まるで寝ているようでしたが、目は開いていてジッと前を見ていました。

しかし、ここに来て変な事に気が付きました。2人とも後部座席に座っているのです。いつもは必ずTさんが助手席に座るはずなのに…。

そう思い始めると、もう助手席の方を見ることが出来なくなりました。

極力前だけを見て運転するうちに、ようやく麓まで下ってきました。すると、今度はKさんとTさんが、2人揃って「ここで降ろしてくれ」と言い出しました。

「近くに知り合いがいるから会いに行く」と言って聞きません。

「じゃあ、その家まで送りますよ」と私が言うと「お前はここで帰れ」と言い張ります。

「ここから先は道がややこしいし、帰りにお前が迷ってしまうかもしれない」

「早く会社に戻って、先に帰ったと言っておいてくれ」と言うのです。

正直自分も早く帰りたかったので、最寄りの店の前で2人を降ろしました。車から降りる際に、Tさんが何気ない様子で助手席のドアを開けてすぐに閉めたのを見た時、全身にゾワッと寒気がきて、すぐに車を飛ばして会社に戻りました。

翌日、KさんとTさんは2人とも休みでした。年末年始の交代勤務があるので、この時期に休むのはおかしくないのですが、私は昨日の事があったので凄く気になりました。

携帯に電話すると、Tさんには繋がりませんでしたが、Kさんは「休みの日にまで電話するなよ」と笑っていたので、その時は少しホッとしました。

しかし結局2人とも、正月の交代勤務には出てきませんでした。その後、年明け早々にTさんは会社を辞めました。

理由は聞いていませんが、辞表が郵送されてきたそうです。Kさんには誰も連絡が取れないそうで、あれ以来、携帯に電話しても通じません。

山を降りた時に、無理にでも連れて帰れば良かったと後悔しています。

関連記事

階段(フリー写真)

ソマコ

学生の時に体験した話。 授業後にサークル仲間4人とクラブハウスでダベっていたのだが、夏だったせいかいつの間にか怪談話になっていた。 ただどれもこれも有り触れた持ちネタばかり…

ど田舎の小学校

俺は小学1年の夏に引っ越して、ど田舎の小学校に転入した。 引っ越す前までは気ままに過ごせていたんだけど、引っ越してからはよそ者ということも含めて周囲から浮いてしまい、アウェイな生…

満月(フリー画像)

天狗

35年前くらいの事かな。俺がまだ7歳の時の話。 俺は兄貴と2階の同じ部屋に寝ていて、親は一階で寝ていた。 その頃は夜21時頃には就寝していたんだけど、その日は何だか凄く静か…

光の誓い

近所の「霊感おばさん」から夏祭りの時に聞いた話。 霊感おばさんの相談者の女性が、幼稚園時代に体験した話だそうです。 ※ 私は幼稚園の頃に「光の誓い」という曲を歌った事を覚えて…

秘密基地

サイキック少年

今から16年前、僕が小学4年生の頃の話です。 昔、秘密基地とか作りませんでしたか? 僕も友達(けんちゃん、としちゃん)と秘密基地を作り、学校帰りにいつもそこで遊んでいました…

知らない女の子

東日本大震災での被害はほとんどなかったものの、津波で水をかぶった地域。 地震発生後、町内で一番高いところにある神社に避難していく途中、見慣れない女の子が猫を数匹抱えて走る姿を数多…

砂嵐(フリー素材)

絶対に消えないビデオテープ

某テレビ局系列のポスプロに勤めていた時の話です。 その編集所には『絶対に消えないビデオテープ』というものがありました。 それは以前に心霊番組の特集を編集した際、素材のテープ…

イタチの仕業

祖母の葬式の晩の事。 田舎の古い屋敷で壁3面ガラス張りの小さな和室に1人だった。長い廊下の突き当たりの座敷には祖母が安置されていた。 裏の山には江戸時代からの一族の墓が並び、近くの公園…

犬(フリーイラスト)

じじ犬との会話

ウチのじじ犬オンリーだけど、俺は夢で犬と会話できるっぽい。 じじ犬と同じ部屋で寝ていると、大抵じじ犬と喋っている気がする。 「若いの、女はまだ出来んのか?」 「うるさ…

黒いワゴン

俺の後輩が実際に体験した話です。 後輩たちはその日、数人で暇を持て余しドライブをしていたらしいんです。 車を走らせる内に地元の海にたどり着きました。 時刻は夕方の17…