白無垢の花嫁
私が小学校低学年の頃、夏休みには家族で田舎を訪れることが恒例でした。
そこには、私たちが毎回宿泊する古びた民宿がありました。
各部屋の入り口は襖で、玄関はすりガラスの引き戸で、まさに昔ながらの建築でした。
経営者は親しみやすいお爺さんとお婆さんで、私たちは訪れるたびに親しげに彼らと世間話を交わしていました。
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ある日、私は民宿の中を探検することにしました。
二階の部屋を一つずつ見て回った後、最後に1階の奥にある部屋を開けることにしました。
襖を開けると、部屋の中には白無垢を纏った美しい花嫁がいました。
驚いた私は、訳もわからず謝罪の言葉をつぶやきました。
花嫁は微笑みながら私に近づき、
「遠くへ行くとお母さんが心配するよ。早く戻りなさい」
と優しく声をかけてくれました。
彼女の笑顔はとても鮮やかで、その美しさが私の記憶に深く刻まれました。
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急いで家族のもとへ戻り、
「美しい花嫁さんがいた!」と話したところ、民宿の経営者は驚いた様子で、
「この宿には、あなたたち家族以外の宿泊客はいないのですが…」と返してきました。
後に知ることになったのは、私が訪れたその部屋は、長い間使用されておらず、封じられていたことでした。
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特にその後、特別な出来事はありませんでしたが、私は時折、あの日の花嫁さんを思い出します。
彼女はすでに成仏しているのでしょうか、それとも何かの理由であの部屋に留まっているのでしょうか。
その答えは判りませんが、私にとっては忘れられない思い出となりました。