さっきの子
今年の夏休み、大学の友達と3人で四国へ旅行に行った時の話。
ナビも付いていないオンボロ車で、山中で迷ってしまい、どうにか国道に出る道を探し回っていた。
辺りも薄暗くなってきていたので内心焦っていた。
どんどん道が細くなって行き、車一台通るのがやっとの道幅。
俺は運転もせず後部座席だったからまだ余裕があったけど、運転していた友人は相当焦っていたと思う…。
そのまま道を登って行くと腐敗した小屋があり、覗き込むと小学生くらいの男の子が自分たちに背を向けた格好でボーっと立ち竦んでいた。
地元の子だったら道分かるかなと思い「すいませーん!」と呼びかける。
反応が一切無く、「おーい、僕~!」と俺も呼びかける。しかし無反応。
運転席の友人がクラクションを鳴らすと、顔だけこちらへ向けた。
普通の男の子なんだけど、これ以上ないぐらいに無表情。
「あのさ、国道まで出たいんだけど、どっち行けば良いか分かるかな?」
表情ひとつ変えずに指を差してくれた。俺らの進行方向で正解だったようだ。
暗くなってきていたし、男の子は小屋の中にいるので顔がよく見えなかった。
ただ、妙に無表情な印象が強く、不思議な子だったねと車内で話しながら俺らは細道をひた走った。
※
それから3分と走らずに行き止まりに突き当たった。
「んだよ、行き止まりじゃん、最悪!嘘つかれたわ、さっきの子にぃ~」
友人が愚痴りながらバックで来た道を戻った。
さっきの小屋があった場所にちょうどスペースがあったのでそこで車をUターンさせ、来た道を戻ろうとした。
「あれ? さっきの子いないじゃん」
「ほんとだ。もう帰ったんじゃない、暗くなってきたし」
特に気にもかけなかった。俺らに嘘を吐いた手前、急いで帰ったというのも頷ける話だ。
「やばいなぁ。もう暗いから来た道戻ってみようか」
ほぼ一本道だったので戻るしかなかった…。
俺は何気なく後部座席を振り返って、もう一度小屋の方を見た。
「ちょ、ちょっとおい!!」
俺が絶叫に近い声をあげると、友人がびっくりして急ブレーキを踏んだ。
「なにさ!!」
「あれ!!!」
小屋の横にさっきの男の子が立っているのだ。こちらを向いて。
「なんだよあの子…なんか気味悪いな」
どこかに隠れていたのだろうか…。そんな平坦な山道でもなかったのだが…。
何より無表情で、ゾクっとするのだ。
逃げるように俺たちは来た道を戻り、30分程で民家を発見した。地図を示しながら道を尋ねて、礼を言って再出発。
「今度こそ大丈夫だ」
友人が安心した声を漏らした。
※
もう真っ暗になっていたので車を急がせる。
「おい待て待て」
助手席の友人が慌てて運転席の友人を制止させる。
「こっち曲がったらさっきと同じ道じゃんか」
地図に走り書きした道筋を確認すると、確かにこちらで合っている。
俺たちは怪訝な顔を一斉に並べながらゆっくり細道を進んだ。
「ほらあれ、さっきの小屋」
確かにさっきの小屋だ。間違いない。
男の子の姿は見当たらなかった。
ゆっくり小屋の横を通り過ぎ、行き止まりだと分かっていた道を進む。
すると、さっきは気付かなかったが右に曲がる割と大きな道があるのだ。
見落とした? それこそあり得ない。さっきはまだ今よりも明るかったし、右側は一面が林だったはずなのだ。
「いやぁ、でも良かったなぁ!!」
「…」
俺が話しかけても、運転席と助手席の友人の反応が無い。黙って車を走らせている。
「何々、どうしたよ」
助手席の肩を叩くと「絶対後ろ見るな、絶対後ろ見るな」と小さい声で呟く。
その瞬間、俺も悟って押し黙った。
俺は気が動転して、10分程目を瞑って友人らのシートをずっと掴んでいた。
しばらく走ると大きな道に出た。その途端、助手席と運転席の友人が見合わせたように大きな溜め息を吐いた…。
「見た?」
「見たというより、見えた…」
話を聞くと、小屋の横を通り過ぎた際に、フロントライトの反射で小屋の中が見えたそうだ。
そこにさっきの男の子が立っていて、こちらを見てニターっと笑っていたというのだ。
口は裂けたように大きくて、目は人間のそれとは違って大きく吊り上がり、獣のような真っ白な顔だったと言う。二人とも説明が合致していた。
狐につままれたような体験だったが、本当に狐の仕業だったのかもしれない。