イーッパイおばさん

公開日: 怖い話 | 洒落にならない怖い話

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うちのコンビニに週3回、毎朝5時過ぎにやってくる初老のおばさんがいる。

週3回全て俺が入ってる日、決まって俺が店内で一人で作業している時に来る。

雨の日でもズブ濡れになりながら来る。

毎回水鉄砲、水風船、関連性の無い漫画やレディコミ、お菓子をカゴ一杯に詰めてレジにやってきては、

「子供がねイーッパイいるんよ、イーッパイ。○○言います私。機嫌のええ時はいいんやけどね……また、かんしゃく起こすさけね」

などと、聞いてもいないのに訳の解らない事を一人で喋っている。

『あぁ…若年層の認知症かなぁ…自分の子供が小さい時の事で時間が止まってるんだろう』

そんな事を考えて適当に接客していた。

「○○円になります」と言うとピタっと話しを止めてきちんと代金は支払うし、店にとって害は皆無。

なぜかそのおばさんが来店する前後には他の客が来店しない。おばさんが帰ると日が昇り始める。

不思議に感じていたが、所詮偶然だろうと思っていた。

その事を相方に話すと「今度その人が来たら呼び出しボタン押して下さいよ」と言うので、ある日そのおばさんが来た時にレジに付いている呼び出しボタンを押した。

バックから相方が出て来て、俺のレジ補助に着く形でおばさんのお買い上げ商品を袋詰めをし始めた。

おばさん「あんた初めて見るねぇ」

突然おばさんが相方に話し掛けた。

相方「あ、○○と言います。いつも一応店の中にはいるんですよ~」

相方はかなり明るい奴なので、いつもの調子で、悪く言えば馴れ馴れしい口調で話し出した。

俺「○○円になります」

そう俺が言うとおばさんは財布から1万円札を取り出してレジに置き、相方を見てこう言った。

おばさん「あんた、怖いもん見た事ないやろぅ」

突然のおばさんの強い口調に俺も相方もギョッとした。

相方「ハイ?」

おばさん「イーッパイ、イーッパイ悲しい。あんたあかんよ」

「………(二人沈黙)」

おばさん「うちが喋り出したら皆そんな顔しよる。うちが日本語使えへん思てるんちゃうか?」

相方が俺の方を見て、人差し指をコメカミ辺りに当ててグリグリやり出した。

『このおばはん、やっぱ頭おかしいっすよ』

そういうジェスチャーだった。

俺は同意する事も咎める事も出来ず、おばさんに目線を移した。

おばさん「あんた、怖い思いしなあかん。気ぃつけた方がええよ。イーッパイ兄弟おるから」

また兄弟の話だ…。兄弟ってのは一体何なんだろう。

自分の親戚の事か子供の事か、はたまたヤクザの親分の嫁さんだったりするのだろうか。

そんな事を考えてポカーンとしていると、相方がおばさんに向かって、

相方「怖い事ですかー? 良いですねぇ、僕好きですよ、そういう系統。でも、おばさんが住んでる所の方が怖いですよー」

そう言って左の方向に指を指した。

相方「おばさんの家、○○苑でしょ?(笑)」

○○苑というのは所謂店の近辺にある大きな介護施設の事で、日曜の昼間は決まって付き添いの人と一緒に老人がお買い物に来る。

俺「おい、お前な……」

さすがに焦った俺が相方を咎めようとすると、

おばさん「あんたトンネル連れて行く」

おばさんが急にそう言い出した。

相方「ハァ? トンネルっすか? 心霊スポット?? まぁ、いいっすわ、○○苑に電話入れるから。おばちゃんそこおっちん(座っておけの意)しとき」

相方が電話の子機に向かって歩き始めると、おばさんは財布から二つ折の紙をレジに置いて出て行ってしまった。

俺「お前なぁ…これ、おばさん何か置いていったぞ」

相方「お、ラブレターっすか? ついに熟女キラーの境地に辿り着いた俺を褒めて下さいよ」

相方は相変わらず軽口を叩きながらその紙を開いた。

横から覗きこむと、ミミズが這ったような線で地図らしきものが書いてあった。

それから数日経ったある日、その事を相方に聞いてみた。

俺「え!? 行ったのお前!?」

相方「ハイ暇だったんで、バイクで」

おでんの具を仕込んでいる俺の斜め前で、相方はホット飲料を補充しながら普通にそう答えた。

俺「……よくやるね。で、おばさん居たの?」

相方「いませんでした。で、帰ろうかと思って振り返ったらババア登場」

俺「怖っ!!」

相方「さすがにビビリましたよ」

俺「で? どうなったの?」

コンニャクの水切りをしながら俺は背中で話を聞いていた。

相方「よう来たね。私はあんたが今日ここに来る事を分かっていたなんちゃら、かんちゃら…」

俺「……気味悪りぃな。で、トンンルがなんちゃらって……」

相方「あぁ、それなんすけどね。俺も初めて知ったんすけど、ホントにトンネルがあったんすわ。多分、昔に使われてたか何かじゃないですかね?」

俺「で…どうしたのそれから?」

浮かんでくるコンニャクをつつきながら興味津津に俺は聞いた。

相方「おばはんが言うにはですね、そのトンネルは……」

以下、相方がおばさんから説明された事を掻い摘んで説明すると…。

そのトンネルはその昔配送のトラックが主に使っていたトンネルで、ある時人身事故が起こった。

で、後はお決まりのパターンで、それ以来幽霊が出るとの噂が立った。

しかし、そのおばさんはそのトンネルを通らない事にはかなり迂回して通学せねばならず、どうしても使う必要があったため、霊感があるという近所のおばあさんに親子で相談した。

すると「あそこは霊の溜まり場になっている。『今はあなた達の居場所だが元は皆のもの、私は通学に使うだけだから騒ぐ事は無いし悪さもしない』トンネルに一人で行って入り口でそう頼みなさい」と言われたそうだ。

おばさんは言われた通りにした。その事を霊能者に伝えると、霊能者はおばさんに向けてこう告げた。

「霊達は『このトンネルを通る時は一切声を出さない事。通る時は必ず一人で通る事。この二つを条件としてその子がトンネルを使う事を許す。もし声を出せばお前を呪い殺し、誰かと通れば傍にいるものを呪い殺す。誰かと通り、声を出せば全てを呪い殺す』そう言っている」

おばさんはその言い付けを頑なに守っていたそうだが、ある日貧乏をバカにする同級生の女の子に我慢が出来ず、トンネルの事を教えて連れて行ったそうな。

結果、何も起きずに笑われて終わりだったそうだが、数日後にその子は病気になり、やがて亡くなったと。

そんな事があって以来、そのおばさんは気に食わない事があるとそのトンネルに人を連れて行っては呪い殺して来たそうだ。

俺「で…どうなったの?」

相方「おばはんと一緒にトンネル往復して…なんか途中でお菓子バラまいてましたね。頭おかしいっすよ」

俺「それからなんとも無いの?」

相方「全然。俺小さい頃はそういうの見えてた気ぃするんすけど…あのおばはんは多分偽物っすよ」

俺「あのおばさんがよく言う兄弟ってその幽霊の事なんかな?」

相方「さぁ…中華まんもう捨てます? どうせ売れないでしょ?」

俺「食っていいよ…10時間以上経ってると思うけど」

だそうで、俺がそれやばいんじゃないかと相方に聞いてもヘラヘラ笑っているだけ。

本人が何とも無いと言うのだし、多分そのおばさんも怖がらせるつもりでやったんだろうと思っていた。

それから数日経って、その相方とのシフトの曜日になったが時間になっても相方が来ない

いつもは一時間前ぐらいに来て店内の雑誌をバックに持ち込んで読んでいる奴だったんだが、その日に限って5分前になっても来ない。

電話しようかと思った矢先、オーナーがひょっこり顔を出した。

俺「あれ? オーナー、どうしたんですか? ○○は?」

オーナー「あー、あの子なぁ…辞めた。というかクビにした」

俺「……店内不正ですか?」

オーナー「いやなぁ…なんかあの子に孕ませられた女の子の親が怒鳴り込んで来てなぁ」

俺「あらぁ……」

オーナー「そうこうしてたら、二人組の若い姉ちゃんが入って来てその片割れが『ここに○○言う奴おるやろ!? そいつ出せ!!この子赤ちゃん出来たんや!!』…と」

俺「奇跡のバッティングですね……」

オーナー「そしたらTちゃん(休日の昼間に入ってるバイトの女子高生)が泣き出してなぁ……。『○○君、私と付き合ってんのにぃ~!!!』やとさ……」

俺「ワガママな息子持ってたんですね…あいつ」

オーナー「んで、とりあえずあいつ辞めた事にして客帰らせて…あいつに電話して今日付けでクビ、と」

俺「大変ですね…オーナーも」

オーナー「何を人事のように…。ワシ腰やってるからレジしかやらへんで」

俺「ハァ!? ちょっ!!」

そこまで話して作業に入った俺は、客も退けた深夜に件の出来事をオーナーに作業をしながら話した。

俺「いや、実はね。大体5時過ぎに来るおばさんが居て……」

そこまで言うとオーナーの顔つきが変わった。

オーナー「何!? あのおばはんまだ来とんか!? この店!!」

俺「いや…え? 知ってんすか?」

オーナー「何時頃や!来んの!?」

俺「5時…過ぎぐらいっす」

オーナーはおもむろに豚まん二つを袋に取り出すと、

オーナー「後捨てといて!!食いたかったら食ったらええし!!」

そう言うと、雑誌コーナーの写真週刊誌と共にバックに消えて行った。

仕方無く一人で淡々と作業をこなすこと数時間。

「ピポピポ~ン」と来客を知らせるチャイムが店内に鳴り響く。

俺「いらっしゃい……ま…」

あのおばさんだ。いつものようにカゴに水風船を詰めている……。

暫くしてレジに来た。

俺「合計で○○円になります」

しばらくしてもいつものように代金が出て来ないので顔を上げた。

俺「っ!!」

俺は言葉を失った。何故か顔が泥だらけで、おばさんはニヤニヤ笑っている。

おもむろにおばさんはレジ横に置いてある割り箸を掴むとマイクのように持ち、

「ややご~、悲しいややご~、仕事をしておくれ~、ふぁsでぃいwql(聞き取り不可)」

と自作っぽい気味の悪い歌を歌い出した。

呆然と立ち尽くす俺の目の前で、割り箸を置き、ニタニタ笑ってこう言った。

「兄弟がイーッパイいるからねぇ。気ぃつけんと。私イーーーーーッパイイィイイイイ!!!」

相方は頭も良いし、人当たりも良い。おもしろいし遊びも知っている。ルックスも良い、仕事の要領も良い。

その反面、どこか人を見下したような感覚があり、特に女に対してはそうだった。

その報いを受けたのかどうかは知らない。

その後、相方がどうなったのかは知らないし、一切連絡は取っていない。オーナーに聞いても「気にするな」の一点張りで何も教えてくれない。

未だにそのおばさんはうちの店に来ては相変わらず、

「子供がねイーッパイいるんよ、イーッパイ。機嫌のええ時はいいんやけどね……」

と訳の解らない事を呟いている。

おばさんの言う呪いで相方に天罰が下ったのかどうかは知らないが、最近なぜかやたらと大量のライターまで買うようになった。

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