消えた数時間
公開日: 不思議な体験 | 時空のおっさんに関する話 | 異世界に行った話
今日、変な体験をした。
早目に仕事が終わったから、行きつけのスナックで一杯飲んで行くかと思い、スナックが入ってる雑居ビルのエレベーターに乗った。
俺は飲む時に使う金を決め、財布から胸ポケットに入れる癖があるのね。
それでいつものように胸のポケットに三千円を入れ、スナックがある5階に着いてエレベーターを降りたら、視界一面が真っ白だった。
壁は元より、ドアや看板など、白くないはずの所まで真っ白。
『全店改装か? 全店で一斉引っ越しとかないだろ。ママも一言連絡くれてもいいのに』
そう思い仕方無くエレベーターに向き直ったら、まだエレベーターは別の階に移動していないはずなのに、「チン」という音がしてドアが開いた。
そしたら作業服と言えば良いのかな、工事現場で働いているような格好をした初老の男性が降りて来た。
そして俺を見て目を見開き、開口一番、
「何故、ここに居るんだ!どこから入った!」
と、いきなり怒鳴られた。
『もしかしてビルの取り壊しでもするのか?』と思い直し、説明をした。
「エレベーターで上がって来たら、お店が一つも無くて。このビル、建て直すんですか?」
「そうじゃないんだよ、ここはダメなんだよ」
「もしかして塗装中とか? すんません、知らなくて」
「そうじゃなくて、ここは少し外れているんだよ」
意味が解らない。
まあ改装中なら仕方無いと、エレベーターに乗ろうとしたら男性が
「そっちじゃないよ。ちょっと待ってて」
と携帯電話を取り出し、ダイヤルも押さないまま耳に当てて、こんなことを言った。
「あ、はい、一名です。ヒグスデンカデしてください」
「え?」
「悪かったね、いきなり怒鳴ったりして」
男性がそう言ったのは覚えている。
次の瞬間、ビルの前に立っていた。
俺はスナックがある5階に居たはずなのに。どう言えば良いんだろう。瞬間移動というのが本当にあるのなら、きっとこんな感じだと思う。
腕時計を見たら23時半だった。俺は今日は仕事が早く終わって飲みに来たのだから、23時半なんておかしい訳だ。携帯電話の時計も確認したけど、23時半丁度。
胸ポケットを触ったら、そこにはさっき入れた千円札が3枚入っていた。
あの初老の男性が一体誰だったのかも気になるけど、俺はあの数時間、一体どこに居たんだろう?