外でお経を読むこと

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一応これでも修験道の行者をやっています。お寺と師弟関係を結び、京都にある某本山で僧籍を持っています。

そんな私が駆け出しの頃に体験した怖い話です。

やはり修行をしていますと段々霊感が付くものです。

入門して多少の修行経験を積み、お寺の師匠から

「霊感付いてきたみたいだから、外でお経を読むな。家以外ではお経を読むな」

などと言われ出した頃です。

性分的にダメと言われると「なぜダメなの?」と思い、体当たりで戒めを破りなぜかを知りたがる性分。自宅以外でお経を唱えましたね。

実際、やっている人は解るかもしれないですが、お堂やお寺で唱える読経と、自宅で漠然と唱えるお経では違うものなのです。

神様仏様の前で唱えると気持ちが違うものなのです。

ある休みの朝、ある神社へ行きたくなって後輩を伴い言ったのですが、ここで少し説明。

後輩はお寺の後輩ではなく会社員時代の後輩で、行者になった私に興味を持ってくれた人、行者ではなくいわば普通の信者的な感覚の人です。

そして、ある神社とは行者になる前に行った場所なのですが、この時代に行者なんかやろうと思う私は、相当オカルト的なものが大好きで、風水だとかにも傾倒していた時期がありました。

その頃に見つけたのが「龍穴」という所謂パワースポットと言うものです。

その手の龍穴は神社仏閣になって護られている事が多く、神域という事です。

規模的には某県の県庁所在地、中規模都市を支えている龍穴です。

多少の霊感がある人なら、近づくと耳鳴りが三日程鳴り続けるような場所です。

さて、状況説明はこのくらいにして本題に入ります。

その後輩と朝思い立って車で2時間程の山の中の神社へ到着し、過去に来た時よりも勘を研ぎ澄ませながら境内を散策し、「龍穴」そのものを見つけました。

大きな巨木があり、境内側から見えない裏側に回ると、塔婆や石碑がズラーっと並んでいて、まさにまさに龍穴そのものなのです。

龍神社(水神)も巨木の横にあり、ここだなと思いました。

般若心経をおもむろに唱えました。

そこまではなんでもないのですが、鳥居を背にして車に乗り込み帰路に着こうと思ったところ、なんだか嫌な予感がしました。単に嫌な予感が直感的にありました。

車に乗り込み進み出しますが、ブレーキの踏みしろが段々と深くなり、最終的にはスコーンって感じになってしまいました。

「ブレーキが利かないな」などと話しつつ、山道をハンドブレーキで進むのですが、なんだかさっきの悪寒が大きくなってきて、何かに追いかけられるような感覚に陥りました。

「やばいなぁ、ヤバイなぁ」などと内心思いながら二又の道にさしかかると、「○○寺→」みたいな看板があり、寺に逃げ込もうと必死でそちらにハンドルを切りました。

麓とは別な道、段々と追いかけてくる感覚が大きくなってきて、感覚が具体性を持ってきます。

とにかく恐怖、恐怖の塊が追いかけてくるような感覚に陥り、精神と言うか心というか全身を段々覆っていく感覚になり、焦りながらハンドルをさばきました。

ようやく着いた○○寺、ここはもう廃寺になったようなお化け寺で、お墓しかありません。

大急ぎでハンドルとハンドブレーキを駆使して狭い山道をUターンしました。

それまで自分だけこの感覚に陥っているかと思っていたのですが、ふと助手席の後輩を見ると、目をひん剥いて口はへの字口に、体は硬直しているような感じになっています。同じ感覚に陥っているのが手に取るように解ります。

大急ぎで麓に降り、山の入り口にある大鳥居を越えた辺りから、その恐怖感覚が無くなりました。

後輩もやっと声を出せるようになったようで「なんか物凄く怖くて怖くて声がでませんでした」との事。

「俺もだよ、なんなんだあれ?」と話し、麓にお寺を見つけたのでそこで一息つきました。

ここまでならまあ良いのですが、そこからなのです。

とにかくお互い家に帰ったのですが、なんだか虫が知らせると言うか、後輩が気になって電話をするも電話に出ない。

何回も電話するのですが出ないんです。

2日後の夜22時くらいにやっと電話に出たのですが、途端に泣き出すんです。

大の男が電話口で泣くなんて普通じゃない訳ですが、様子がとにかくおかしい。

聞けば、一人暮らしの彼は帰った夜から家にいて、一人になるのが怖くて繁華街を延々2日間歩いていたそうです。

彼はすっかり憔悴しきっており、「なんで電話に出ないんだよ。こっちも気になってたんだ」と伝えると、「電話には出るなとずっと言われてたんだよ」と泣き出します。「怖いけどなんとか電話出られたんですよ」と更に泣き出す始末です。

こりゃあもう憑き物ってやつだと思いつつ「どうしよう、どうしよう」しかも師匠の言いつけを守っていませんから、師匠にも相談できないんですね。

「今一緒にいるんだよ。一緒にいるんだよ」と訳の解らない事を言い出すので、こちらも訳が解らず必死に「じゃあその人に電話代わって」と言ったら、もう霊媒なんでしょうね。

「神域を壊しに来たのはなんでだ?」と言い出すんです。そこで「そんなつもりはありません」と、そこからは奇妙な感覚になり会話が成立するんです。

そこでもう必死なので、

「◎◎大明神様、私は××と申します、▽▽寺で修行している行者で、壊しに行ったんじゃないんです。物見勇山で行ったのはすみません」と言い、続けて「まだ駆け出しの行者なんですが、一生懸命に観音経を唱えますからご勘弁下さい」と言い、電話で観音経を唱え出すと凄い声で泣き出すんですよ、後輩が。

唱え終わり「本当に失礼あったら申し訳ございません」と言うとスーッと体から悪寒が無くなって、電話口の後輩も落ち着いた様子でした。

そんなこんなで既に2日間も会社を無断欠勤している後輩なのですが、翌日会って話を聞きますと「近所の神社に末社があるから挨拶に来い」というようなことを言っていたと言うので、その後輩の家の近所の神社に行くと…。

ありました「◎◎大明神」もう絶句なのですが、昨晩のやりとりは本当だったようです。

般若心経を一巻唱えてご挨拶し、事なきを得ました。

初心者が外でお経を唱えるのは怖いですね。

今では修行を積んで神仏とお話が普通に出来るので、あの時の話は良い経験で、仲間内で笑い話になっています。

もちろん師匠にも笑える話として話せる時期になった時に話しました。

後輩は神仏の怖さを知ってからというもの、困った事があるとその神様にお願い事をしているようです。

それでもって心願叶い来年結婚するようです。

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