キジムナー

P1020708

あまり怖くないが不思議な話をひとつ。

30年くらい前、小学校に行くかいかないかの頃。

父の実家が鹿児島最南端の某島で、爺さんが死んだというので葬式に。

飛行機で沖縄経由で島に行き、父と激似の島民というか葬儀屋に案内され、初めてその実家へ。

確か2月で、寒くは無いが、イメージしていた南国には遠く、曇りでどんよりしていた。

当時福岡に住んでいたので、親戚は会う人みな初対面で、ちょっと居場所が無かったのを覚えている。

そこの風習は土葬で、甕に入れるために爺さんが仰向けだが足をちょうど正座する状態でそのまま寝かされていた。

弔問客は皆、爺さんのひざに触る。

婆さんは、方言というか外国語というか、何を言っているか分からないが、どうやら「ひざに触ると爺さんが喜ぶ」とのこと。

死体に直に触るのをはばかれてか、タオルがかけられている。

まあ、そんなこんなで酒盛りなども経て、こちらでいう通夜はお開きになった。

南方の島の家というと、風通しの問題なのか、ほぼ畳敷きの広場といった風情。

よく見るとふすまの敷居もあり、普段は部屋が区切られるようだが、人が集まるということもあり、ふすまは全部取り払われ、長い縁側から大きな部屋に仕立てられていた。

そんな広間で、爺さん共々みんなで雑魚寝していた。

縁側の方は雨戸が閉められ、うっすらとした常夜灯だけの夜。

遠くから海の音が聞こえる。

20人ほどの親戚一同との雑魚寝で、なんとなく寝付けず、悶々としていた。

何時だったか分からないが、多くの人が寝静まったと思われる頃、急に、雨戸、窓、玄関その他を誰かが、いや、大勢の人が叩き出したのだ。

「ドンドンドンドン、ガシャガシャガシャガシャ」

外から声は一切せず、ひたすら大勢の人が叩いている。

当然周りは何事かと起きだすのだが、ザワザワするだけで、騒ぐものもおらず、みな妙に冷静だった。

すると婆さんが一人でずかずかと雨戸に寄り、ガラリと開け放ち、

「hふrひえjsdんしうgf」

と方言でわめき散らした。

何やら怒っているようだった。

すると音はピタリと止み、みな安心したようにすぐに寝入ってしまったのだ。

なんだか夢の続きのようで、思わず婆さんに「何?」と聞いてみた。

婆さんは方言で優しげに頭を撫でながら何か言っていたが、よく理解できなかった。

そばにいた親戚の女の人が通訳してくれたのは、次のような内容だった。

「あれはキジムナーだ。爺さんに会いに来たけど、もう夜遅いから明日にしてくれ、と婆さんが追い払った」

「キジムナーは特に何もしないから寝ていいよ」

水木の妖怪辞典で見知っていたキジムナーだ、とすぐに思い当たった。

それで安心して、そこからすぐに寝入ってしまった。

翌朝は葬式で、おそらく島中の人が来たと思われる人出。

神主が来て葬式が執り行われ、長い行列の中腹に甕が担がれ、出て行ったのを見送った。

子供が付いて行けなかったのは、それも何かの風習だろう。

後で島を散歩すると、砂浜の脇の小高い丘に小さな神棚が転々と置いてある。

海からの風を避けるように、草むらの脇に無秩序に並んでいる。

どうやらその下に甕が埋まっているようだ。

数年後に掘り出して、のど仏だけを墓に納めるらしい。

関連記事

黒い物体

黒い穴

もう10年くらい前、俺がまだ学生だった頃の出来事。 当時、友人Aが中古の安い軽自動車を買ったので、よくつるむ仲間内とあちこちドライブへ行っていた。 その時に起きた不気味な出…

紅葉(フリー写真)

かわいい人形

昔のことなので曖昧なところも多いけど投稿します。 こんなことを自分で言うのは何なのだが、私は小さい頃、結構可愛かった。 今はどうかというのは、喪女だということでお察しくださ…

黒田君

僕が彼に出会ったのは、高校1年生の時の事です。 一応政令指定都市ですが、都心ではありません。家から歩いて3分以内に何軒かコンビニはありますが、全部ローソンです。 小洒落た雑…

集合住宅(フリー素材)

知らない部屋

私が小学校に上がる前の話。 当時、私は同じ外観の小さな棟が幾つも立ち並ぶ集合団地に住んでいました。 ※ ある日、遊び疲れて家に帰ろうと「ただいまー」と言いながら自分の部屋の戸…

チクリ

大学に通うために上京してすぐのことです。 高田馬場から徒歩15分ほどにある家賃3万円の風呂なしアパートに下宿を始めました。 6畳でトイレ、キッチン付きだったので、その当時と…

恐怖のスイカ蹴り

俺の爺ちゃんの終戦直後の体験談。 終戦直後のある夏の夜の出来事、仕事で遅くなった爺ちゃんは帰宅途中の踏切にさしかかる。 当時は大都市と言っても終戦直後のため、夜になれば街灯…

カブト虫

夜、友人4人と車で山道走ってたら、1人が急に「虫がいた。停めて。カブト虫探す」 って言って時速30kmで走ってる車から飛び降りて、ゲラゲラ笑いながら山の中に消えていった。 実家に…

抽象画

お還りなさい(宮大工14)

俺が初めてオオカミ様のお社を修繕してから永い時が経過した。 時代も、世情も変わり、年号も変わった。 日本も、日本人も変わったと言われる。 しかし俺を取り巻く世界はそれ…

家(フリー写真)

バイバイ

4月の統一地方選挙で、某候補者のウグイス嬢をしました。 その時、私はマイク担当ではなく、手振りに専念していました。 手振りは、候補者を支持してくださる方が振っている手を漏ら…

田舎のフリーイラスト素材

ほっとけさん

これは私が小さい頃、実際に起こった出来事です。 私の親は私が物心がつく前に離別し、私は母方に引き取られました。 しかし私の母の実家は結構な田舎で、女性が仕事を探すのは困難で…