最強の守護霊

公開日: ほんのり怖い話 | 不思議な体験

c1ef4a30a2d1aa54b9c9bbf07b67ce68

僕の知り合いに御祓いの仕事をしている人がいる。

知り合いというか、最寄り駅の近くの立ち飲みで出会ったおばさん。

それが今から数えて7年前くらいかなと思う。

引っ越して間もない頃で、仕事帰りに一緒に飲む友達が居らず、気軽に入れそうな立ち飲み屋で飲むようになったのが切っ掛け。

初対面の時、そのおばさんは俺を見るなり「ギャーッ」と叫び始めた。

実を言うと結構慣れっこで、よく知らない人から急に叫ばれる。

叫ぶだけならまだ良いんだけど、「あの人、怖いんです。捕まえてください」と通報された事もあった。

なので『またかよ…』みたいな気持ちで無視していた。

でも、そのおばさんは今までの人と違って話し掛けてきた。

「どこから来た?」「仕事は何してる?」「両親は何している?」

なんて、まるで尋問のように矢継ぎ早に質問された。

まあ、こんなおばさんの友達も良いかと思って、質問に答えていた。

それから暫くして、そのおばさんが「今度、あたしの店に来い!」と言いながら、お店のカードのような物を渡された。

僕は全く興味ないし、上から目線で話されてムカついていたから、帰るなりそのカードは捨てた。

ところが後日、その立ち飲み屋でまた会ってしまい、無理矢理店に連れて行かれた。

と言うのも、おばさん以外に痩せたおじさんと若い女が居て、ちょっと逃げられなかった。

ちなみに、おばさんはトキコさん、若い女はケイちゃん、おじさんはヤスオさんと言う。

『絶対、宗教の勧誘だよなあ…』

そう思いながら、その3人の後ろに付いて行った。

店に行くまで誰も喋らないものだから、ケイちゃんに話しかけてみたら「ヒィー!」とか言って、会話が出来なかった。

ヤスオさんが「ごめんな、君が怖いんだ」なんて言うものだから、なんだか凄く悲しかったのを覚えている。

それから店に着いた訳だが、だたの占いの館だった。

宗教の勧誘ではなさそうだと思い、「占いでもしてくれんのかな」と期待していた。

しかし店に着くなりトキコさんが「あんた、私たちと仕事しないか?」と言ってきた。

『はあ?』と思いながら話を聞いていたら、なんでもその3人は御祓いを仕事にしているらしく、僕に付いてきて欲しいと言われた。

その当時は一応ある会社の社員だったので、「仕事あるんで、無理ですよ」と断った。

でもそのおばさんは引き下がらず、「土日のバイトだと思ってやってくれないか?」と頼まれた。

まあ、幽霊や神様はまるで信じないので、まあいいかなくらいの気持ちで了承した。

早速、次の週末にお呼びが掛かり、○○区のある一軒家に連れて行かれた。

家からそう遠くは無いので自転車で待ち合わせ場所に行ったら「徒歩で来い、アホ」と怒られた。

渋々近くに自転車を停めて、その一軒家に入って行った。

入った途端、トキコさんと連れのケイちゃんが「ああ、いますね、いますね」と言い始めて、しかめっ面になった。

ただ、僕には何が居るかも分からなかった。普通の一軒家だと思った。

居間には中年夫婦が居て、僕らにお茶やお菓子を出してくれた。

笑っていたけど、かなり引き攣っていたのを覚えている。

暫くするとトキコさんが、「早速、始めましょう。その部屋に案内してください」と言って立ち上がった。

何が始まるのかよく分からないまま、二階に案内された。

階段を上がると左右に部屋が二つあって、その右側の部屋の扉の前で止まった。

扉にはカタカナで『タカオ』と書いてあった。

「ここです」

そう中年夫婦に言われた。

トキコさんとケイちゃんは、背負っていたリュックサックの中から塩を出して、ペットボトルの水を振りかけ両手にまぶした。

『何が始まるんだろう?』と思いながら、俺も両手に塩をまぶした方が良いのか聞いてみると、「お前には必要ない。ただ言われた通りにしろ」と言われた。

トキコさんは中年夫婦に「何があっても絶対に取り乱すな」と注意をしてから、扉を開け中に入った。

僕も後ろに続こうとした時、中から黒い影がトキコさんに覆い被さって来た。

タカオという中学生ぐらいの少年だったが、異様に眼がギラギラしており、歯を剥き出しにして「ガジャガジャ、ガジャー!」みたいな事を叫んでいた。

トキコさんの首に噛み付こうとしていたので、流石に僕もこりゃイカンと思い、少年を引き剥がそうと彼に近寄った。

タカオくんは僕の顔を見るなり震え始め、ベッドの隅っこに逃げて身を丸めた。

「体のどこでもいいから、引っ叩け!」

トキコさんにそう怒鳴られた。

なので『悪いなあ』と思いながら、丸まっている背中を引っ叩いた。

そんなに強く叩いた覚えは無かったが、「うぎゃー!」と言って、タカオくんは泡を吹いて倒れた。

倒れているタカオくんを介抱しようと両親が近寄る。

『そんな強く叩いてないよな』と思いながら横目でトキコさんを見ていると、「これで御祓いは終りました、もう大丈夫」と言った。

それから、タカオ君をベッドに寝かせて、中年夫婦にお礼を言われながら帰った。

なんでもタカオ君が大人しく寝たのは半年振りだったそうだ。

ちなみに、タカオくんの部屋は物凄い事になっていた。

物は多分危ないから片付けたのだと思うけど、壁中に切り傷や穴があった。

帰り道、あまりに意味が解らなかったので、トキコさんに「意味が解りません」と素直に言って、色々聞いてみた。

可哀想に、一緒に来ていたケイちゃんは、帰り道の途中でゲロを吐いていた。

「あんたは相当なモノをもってるね」

トキコさんにそう言われた。

初めはち○ちんの事かと思ったが、そうではないらしい。

どうやら、言い方は宗教や御祓いの流派によって変わるらしいが、『守護霊』や『気』などと言われているものらしい。

そんなに凄いのかと思って、

「そんなに良いんですか?」と尋ね返すと、

「いや、逆だ。最悪なんだよ、あんたの持ってるもの」と言われた。

最悪じゃダメじゃないかと思ったので、

「最悪って、それじゃ駄目じゃないですか」と言うと、

「普通はな。だけどお前は普通じゃない。なんでそれで生きていられるのかおかしい」

トキコさんに言わせると、俺の持っている『モノ』というのが、相当酷いらしい。

実はケイちゃんがゲロを吐いたのも、俺がタカオ君を叩いた時に祟られたらしい。

まあ、色々聞きたかったのだが、あまりにケイちゃんの気分が悪くなってしまったので、トキコさんとケイちゃんは先にタクシーで帰った。

僕は停めておいた自転車で帰った。

トキコさんのお店に戻ると、なんと10万円も貰えた。

『本当は幾ら貰っているんだろう?』と思ったけど『中学生の背中を引っ叩いて10万円ならいいや』と思い喜んでいた。

それから少しして僕は留学した。

当時の仕事よりも、やりたい事があったのが理由だ。

まあ、結局3年前に戻って来たものの、仕事が無くキャリアも無く、派遣をやりながら生活している。

3年前に帰国した折、トキコさんに

「あんたのそれ、かなり逞しくなってるよ」

と言われ、ニヤっと笑われた。

なんでも、僕の『モノ』は異国の地で力を養ったらしく、以前よりパワーアップしているらしい。

一応真面目に勉強していただけなんですけどね。

それから3年間、御祓いのバイトをしている。

ただ、トキコさんやケイちゃん、ヤスオさんは、いわゆる霊感的なものがあるらしく、色々見えるらしい。

ところが、僕は本当に何も見えない。

なので、今でも引っ叩いたり話し掛けたりするだけである。

残念なのは、今でもケイちゃんは仕事が終わるとゲロを吐く事。

僕のせいなので、いつも申し訳ない気持ちで一杯になる。

口(フリー素材)

両親の不可解な行動

自分の錯覚と言われてしまえばそれまでなのだけれど…。 当方大学一年。両親と一緒に暮らしている。最近引っ越すまで 2LDKのアパートに住んでいた。 「私の部屋」「キッチンを挟…

さっきの子

今年の夏休み、大学の友達と3人で四国へ旅行に行った時の話。 ナビも付いていないオンボロ車で、山中で迷ってしまい、どうにか国道に出る道を探し回っていた。 辺りも薄暗くなってき…

桜(フリー写真)

五回目の人生

俺には高校時代からの親友Aがいる。 高校時代の当時、Aの自宅には、Aの従兄弟で大学生であるBさんが居候していた。 Aの父親が、Aの大学受験の勉強を見てもらう事を条件に、地方…

無限ループするトンネルと祭り

休日の夕方に友人連れ3人で、温泉宿に向かう山道を車で走っていた。 車の持主が運転、もう一人は後部座席、俺が地図を見ていた。 地図上では一本道で、トンネルを3つ通らないといけ…

渦人形(長編)

高校の頃の話。 高校2年の夏休み、俺は部活の合宿で某県の山奥にある合宿所に行く事になった。 現地はかなり良い場所で、周囲には500~700メートルほど離れた場所に、観光地の…

柿の木(フリー写真)

拝み屋の不思議な子

うちの母方の家系はいわゆる拝み屋。元は神社だったのだけど、人に譲ってから拝み屋をやっていた。 拝み屋と言っても儲からない。お金は取っちゃいけないから兼業拝み屋。 でもひいじ…

教室(フリー写真)

記憶にない女の子

このエピソードは、私の友人であるAさんが小学校6年生だった頃の出来事である。 ※ ある休み時間、彼女は友人とトイレでおしゃべりをしていました。 すると、トイレの入り…

湖(フリー素材)

白き龍神様(宮大工13)

俺が中学を卒業し、本格的に修行を始めた頃。 親方の補助として少し離れた山の頂上にある、湖の畔に立つ社の修繕に出かけた。 湖の周りには温泉もあり、俺達は温泉宿に泊まっての仕事…

死に際に現れる黒い人

最近ネットで読んだのですが、人間が死にそうになっている時、それを助けたりする謎の人物が現れるそうです。 それは死んだ兄弟や親類であったり、声だけであったりするそうですが、正しい逃…

星を見る少女

夜、アパートに住んでいる青年がふと外を見ると、向かいのアパートのベランダに人がいる。 背格好からすると少女だろうか。少女はどうやら、空を見上げているらしかった。 なんとなく…