更衣室のドアノブ

d0015166_235586

私は初等教育学科で勉強していて、この科は文字通り小学校教諭を目指す人たちが専攻しています。

授業の中には『学校給食』やら『体育』やらといったものもあって、私は体育が苦手でした。

中でも鉄棒の授業はお手上げ状態で、毎日放課後になると、同様に鉄棒を苦手とする友達と連れ立って、鉄棒の練習に励んでいたのです。

練習していた場所は地下にある体育室で、練習する時間といえば夜の19時過ぎから20時過ぎの一時間ほど。

いつものように鉄棒の設置をして練習…。この日もあまり成果の得られぬまま練習を終え、更衣室に入って着替え始めたのですが…。

おしゃべりしながら着替えをしていると「がちゃがちゃ…」という音と共にドアノブが動き始めたのです。

少し驚いて私達は小さな悲鳴をあげましたが、誰かのイタズラなんじゃないかと思い直し、ドアの外側に向かって声をかけてみました。

「誰かいるの? どうしたの?」

ドアノブの音は収まったものの、反応はありませんでした。

元来、気の強い私が、もう一度声をかけてみました。

「誰っ!私達をからかってるんでしょ!?」

やはり反応はありません。

私達3人はかなり怖くなってきました。すでに着替えは終わっていたので、早々に立ち去ろうとカバンを肩にかけてドアに近寄ろうとすると「がちゃがちゃがちゃ…」。

しかも、最初は音も小さく回転もゆっくりだったのが、段々と音も回転も激しさを増してきて、ドアノブが壊れるんじゃないか!?という勢いでした。あまりの怖さに悲鳴も出ません。

どのくらいの間その状態が続いたのかは覚えてないのですが、ドアノブの音と回転が収まった時に友達の一人が、

「きっと幽霊だ!怖いよ怖いよっっ!!」と言って泣き出したので「大丈夫!大丈夫!」と背中を叩きながら、よせばいいのに、私がバカな事を言ってしまったのです。

「原因が判らないから怖いんだよ!原因を確かめよう!」

私がドアノブの外側。残りは更衣室の中に残って、様子を見てみよう…と。

怖かったのですが、恐怖感が原因追及することで収まるような、妙な感覚が私に沸いてしまったんでしょうか?

とにかくそういう事にして、私はドアの外側に立ちました。

わずかな時間ですが、何故がちゃがちゃと動くのか確かめてやろうと、私はドアノブを凝視していました。

ふいに更衣室から「いやぁぁぁっっ!!!!」と友達の叫び声が。

びっくりして更衣室の中に入ると、2人の友達は半泣き状態でした。

私が見ていた外側のドアノブに異変はありませんでした。しかし更衣室側のドアノブは、再びあの現象を起こしていたのだというのです。

「がちゃがちゃがちゃがちゃ……」

もう原因追求どころの話ではありません。3人固まるようにして更衣室を飛び出ると、体育教官室まで走って逃げていきました。

助手の先生に訳を話しましたが、笑い話にされてしまって終わり。それ以降、放課後の鉄棒の練習は怖くて出来ませんでした。

未だに原因は判らず終い。もうあんな体験はうんざりです。

関連記事

登山(フリー素材)

赤い着物の少女

システムエンジニアをやっていた知人。 デスマーチ状態が続き、残業4、5時間はザラ。睡眠時間は平均2〜4時間。 30歳を過ぎて国立受験生のような生活に、ついに神経性胃炎と過労…

材木(フリー写真)

木こりの不思議な話

朝、林道を車で走って現場へ向かう途中の出来事。 前を歩いていた登山者が道の脇によけてくれたから、窓越しに会釈をした。 運転していた相方は「お前、何してるんだ」と言い、 …

田舎の駅(フリー素材)

きさらぎ駅の立て札

皆さんは「きさらぎ駅」という名称を聞いたことがありますか? これは数年前、インターネット上の2chで話題になった都市伝説で、ある方が実在しないとされるこの駅に迷い込み、その後行…

つんぼゆすり(長編)

子供の頃、伯父がよく話してくれたことです。 僕の家は昔から東京にあったのですが、戦時中、本土空爆が始まる頃に、祖母と当時小学生の伯父の二人で、田舎の親類を頼って疎開したそうです。…

夜の街並み

エレベーターの歪み

今日、信じがたい体験をした。 早めに仕事が終わったので、行きつけのスナックで一杯飲もうと思い、そのスナックがある雑居ビルのエレベーターに乗った。僕は飲むときの出費を決めておく癖…

悪魔の書

中学生の頃、俺は横浜に住んでたんだけど、親父が教会の神父やってたの。 神父にしては結構ざっくばらんな性格で、結構人気もあったんだ。 まあ、俺なんて信心深い方じゃないし、一家…

神秘的な山(フリー写真)

サカブ

秋田のマタギたちの間に伝わる話に『サカブ』というのがある。 サカブとは要するに『叫ぶ』の方言であるが、マタギたちが言う『サカブ』とは、山の神の呼び声を指すという。 山の神…

失われた時間

2001年の秋。 風邪ひいて寒気がするので、大久保にある病院に行くため西武新宿線のつり革につかまってた。頭がぐわんぐわんと痛みだして、ギュッと目を閉じて眉間にしわ寄せて耐えてた。…

キャンプ(フリー写真)

もし、旅かな?

学生だった頃、週末に一人キャンプに興じていた時期があった。 金曜日から日曜日にかけてどこかの野山に寝泊りする、というだけの面白味も何もないキャンプ。 友達のいない俺は、寂…

女の誘い(宮大工8)

お伊勢参りの翌年、梅が開き始める頃。 山の奥にあるお稲荷様の神主さんから、お社の修繕依頼が入った。 そう、弟弟子の一人が憑かれたあのお稲荷様の社だ。 親方に呼ばれ、 …