きよみちゃん

公開日: 不思議な体験

wallpaper186_640_1136

私が小学校三年生の時の話です。

そのころ、とても仲よしだった「きよみちゃん」という女の子がクラスにいました。

彼女と私は、学校が終わると、毎日のようにお互いの家を行き来しては、ふたりで遊んでいました。

その日は、彼女の家の台所のキッチンテーブルで、ふたりでドラえもんを読んでいました。

その内容は、ドラえもんが、のび太に切抜き絵本のようなものを出してあげます。

それには、ケーキやおかし、車など色々なものがあり、切り抜いて組み立てると、本物のように、食べれたり、乗れたりするというものでした。

きよみちゃんは早速「ぶるぶるちゃん(私のあだ名です)これおもしろい!まねしてみようよ!」と、画用紙や、ハサミ、色鉛筆を持ち出しました。

もちろん本物になることなどありえないと理解できる年齢でしたが、とても楽しかったのを覚えています。

そして、日も暮れかかり、私が家に帰らなければいけない時間になりました。

きよみちゃんは、いつもそうするように、玄関の外まで、私を見送りました。

そのとき、きよみちゃんが言いました。

「ぶるぶるちゃん。今日のこと、大人になっても忘れないで」

きよみちゃんが、いきなり変なことを言うのには慣れていたのですが、そのときは彼女の雰囲気がいつもと違うので、なんでー?と聞き返しました。

きよみちゃんは続けました。

「今日の私、32才の私なんだ」

ますます私には、訳が分かりません。でも彼女は続けます。

「2002年だよ。32才。ぶるぶるちゃんのこと思い出してたら、心だけが子供の私に飛んでっちゃった」

はっきりいって、聡明とはほど遠かった子供の私は、なんだかわからないけど、2002年と行ったら、超未来で、車なんか空飛んでたりする、という考えしかないくらい遠い遠い未来。

「ふーん。ドラえもんの未来からかー!」

なんて、おばかな受け答えしかできませんでした。

きよみちゃんは、そんな私を笑いながら、

「それが全然!マンガの世界とはちがうよー!」

と言いました。

そして、私ときよみちゃんは、また明日遊ぶ約束をして、別れました。

今、考えると、なんであのときもっと話しておかなかったんだろうと後悔しますが、なんせ子供だったし、きよみちゃんも私と同様、ふたりでよくSFチックなことを夢見ていたので、別にきよみちゃんが私に言ったことがそんなに変とも思わなかったのです。

翌朝、学校に行くと、いつものようにきよみちゃんが私に話しかけてきます。

まるっきり、いつものきよみちゃんでした。

そして、私もまた、きよみちゃんが私に言ったことなど、すっかり忘れて、そのまま毎日が過ぎて行きました。

そして、私たちは5年生になり、それと同時に私は地方へ引っ越すことになりました。

そのまま、きよみちゃんとは二度と会うことはありませんでした。

今年、2002年。私は32才になりました。

そしてハッとしました。あの日のきよみちゃんの言葉を思い出して。

もしかして、もしかして、もしかして……と。

私はその後も、引っ越しを繰り返し、今では海外在住です。

きよみちゃんを探したいのですが、結婚してれば名字も変わっているだろうし、どうやって見つけられるか。

私は片親でした。当時はまだ珍しく、世間からは白い目で見られがちだった。

「ぶるぶるちゃんと遊んじゃだめよ。片親なんだから」

なんて、よその子供の親が私の目の前で言うなんてことも、珍しくなかったし、大嫌いだった先生に

「片親だからね。目つきも悪くなるんだろう」

とクラスみんなの前で言われたこともあった。

そんな中、きよみちゃんだけが、私の友だちで、子供時代の唯一の理解者であったと思う。

会いたいと思う気持ちがそうさせたのか、2週間ほど前に、”あの日”の夢を見た。

あの日と同じ、きよみちゃんのおうちの台所。キッチンテーブルいっぱいに、画用紙と色鉛筆。私が自分の家から持ってきた、コロコロコミックが2冊置いてある(当時コロコロコミックは結構高価だったので、私ときよみちゃんは、かわりばんこに買って、ふたりで回し読みをしていました)。

台所からは、六畳ほどの居間が見え、きよみちゃんのお母さんが、緑色の座椅子に座ってテレビを観ている後ろ姿が見えます。

本当に、何もかもが、私がこの夢を見るまで忘れていたことまでが、はっきりと、目の前にありました。

きよみちゃんが、ケーキの絵を画用紙に描いて色を塗り、私はその横でハサミを持って、きよみちゃんが描くケーキを見つめています。

私は、夢の中で「これは夢だ」と自覚していました。

きよみちゃんがふと手をやすめて、小首をかしげて私を見ます。

私は彼女に言いました。

「きよみちゃん。今日の私も、32才!」

きよみちゃんは、びっくりした顔をしたと思うと、私を見つめて言いました。

「……忘れなかったんだ。ぶるぶるちゃん……」

きよみちゃんは、半分泣き笑いのような表情です。

私も、泣きそうになるのをこらえながら、言いました。

「ドラえもんの未来じゃなかったねー!」

そして、ふたりで泣きながらも、大笑いしました。

そして……私は目が覚めました。32才の私の体で。

涙が止まりませんでした。

ただの夢だったのかもしれない。でも、私は時空を超えて、あのときのきよみちゃんに会いに行ったのだと思いたい。

かつて、きよみちゃんが、そうしてくれたように。

関連記事

路地裏の子供

僕は会社で経理を担当しています。この時期は一年のうちでも最も忙しい時期で、毎日終電になってしまいます。 最寄の駅は山手線の五反田なのですが、ここはみなさんご存知のこととは思います…

オフィス風景(フリー写真)

玩具のフィギュア

1年程前にコンビニで玩具菓子を買った。 ある人気アニメのロボットの組み立て式のフィギュアが付いたものだ。 敵役のロボットなので髑髏のような頭を持ち、両手でマシンガンを構え…

糸と縫い針(フリー写真)

祖母の糸切りばさみ

20年程前の話。田舎で祖母が亡くなった時のこと。 母方の実家は地元では名士で、医者でも教師でもないのに、祖父は周りから先生と呼ばれていた。 そういう人なので、あちこちに愛人…

横断歩道(フリー写真)

恩人との再会

小学5年生の時、通学路の交差点を渡っていると、右折車が横断中の俺をめがけて突っ込んで来た。 催眠術にかかったように体が動かず、突っ込んで来る車を呆然と見ていたら(あらぬ方向を見て…

忌箱(長編)

これは高校3年の時の話。 俺の住んでた地方は田舎で、遊び場がなかったんで近所の廃神社が遊び場というか、溜まり場になってたんだよね。 そこへはいつも多い時は7人、少ない時は3…

雑居ビルの怪

今からもう14年くらい前の、中学2年の時の話です。 日曜日に仲の良い友人達と3人で映画を観に行こうという話になりました。友人達を仮にAとBとします。 私の住んでいる町は小さ…

時空

時空トンネル

数年前、子供の頃に不思議だった出来事が繋がった話です。 5才くらいの記憶で、その頃はよく畑仕事に兄と付いて行っていたんです。 畑から数十メートル離れた場所に、大きな岩が何個…

猫

猫の最後のお別れ

20年前のある夏の夜のことです。私たち兄弟が夏休みを利用して祖父母の家に泊まりに行っていたときの話です。我が家にはとても可愛がられていた猫が一匹いましたが、その日は夜遅くまで帰って来…

神隠しに遭う子

神隠しに遭う子

小さな頃、私は「知的障碍があるのでは」と思われていました。 言葉や文字に遅れはなく、読み書きも問題はありませんでした。 しかし、人と目を合わせない、会話ができない、約束が…

兄弟(フリー写真)

兄が進む道

私の兄は優秀な人間でしたが、引き篭もり癖がありました(引き篭もりという言葉が出来る前のことです)。 生真面目過ぎて世の中の不正が許せなかったり、自分が世界に理解してもらえないこと…