タイムトラベラー

ABYC000a00fa

10年前、俺が小学6年生の時の話。

ある日学校から帰る途中、人通りの多い交差点で信号待ちをしていたら、自分以外の周りの人や道路を走ってる車とかが一斉に止まった。まさしく時が止まったようだった。

「え? 何これ?」と思った途端、交差点のど真ん中に男と女の2人組がいきなり現れた。本当にいきなり、パッて感じで。

見た目は普通の、どこにでもいそうな感じの若い男女だった。ただ二人とも全身黒ずくめだったのが印象に残ってる。

で、現れるなりこっち見て、声を揃えて「あ。」って言った。

俺は何か知らんがヤバイと思って、逃げようと走り出したが、男の方に追いかけられて腕をつかまれた。腕をつかまれたことで完全に恐怖で動けなくなった。

男が俺の腕をつかんだまま女に向かって「失敗してんじゃねーか」とか「失敗だけならまだしも、姿見られたのはまずい」みたいなことを言った。

女の方は必死に男に「すみません、すみません」って何度も謝ってた。

男はしばらく「どうするか」とか「まずいよなー」とか言いながら、困った様子だった。

そしたら男がいきなりこっちを向いて、「このこと誰にも言うなよ?」って言ってきた。俺は怖くて、必死で「言いません!言いません!」って言った。

横で女が「それは駄目ですって!ばれたら余計にまずいことになりますって!」って言ってたけど、男が「バレなきゃいいんだよ、そもそもお前が失敗したんだろー」とか言って揉めだした。

結局、男が女を言い負かしたみたいで、女は泣きそうな顔でしょぼんとしてた。

男が屈んで俺と同じ目線になって「これやるから絶対誰にも言うなよ、頼むから。男の約束」って言って、つかんだままの俺の腕を引っ張って、手に何かを握らせた。

俺が「わかりました、絶対誰にも言いません」って言ったら手を離してくれて、そのまま頭わしわしなでながら「すぐ元通りになるから、もうお家帰りな」って言った。

女の方も「脅かしちゃってごめんね」って、申し訳なさそうに言った。

俺は男に貰ったものをポケットに押し込んで、言われた通りに止まったまま人達の横を通り抜けながら走って家に帰った。

玄関で靴を脱ぎながら、お母さんも止まってるんだろうかと不安になった。

止まったお母さんを見るのがなんとなく怖かったので、いつもお母さんがいる居間の方を見ないようにダッシュして自分の部屋に入った。

ランドセルを片付けてると、居間の方からテレビの音と、テレビを見て笑ってるお母さんの笑い声が聞こえてきたので、居間に行ってみたら、お母さんが驚いた顔して「いつ帰ってきたの?」って言ったのを見て、あ、元通りになった、と安心した。

お母さんに今体験したことを言いたくて仕方なかったが、言わないと約束したので言わなかった。

部屋に戻ると、男に貰ったもののことを思い出して、ポケットから取り出してみた。

和紙っぽい紙に包まれた飴みたいだった。

包み紙から出してみると、ちょっと白っぽい透明な飴で、中心部分が虹色のマーブル模様みたいになってた。

流石に食べるのはヤバイだろと思ったが、好奇心に勝てずにその飴を食った。

味はめちゃくちゃ美味かった。今までに食べたことのないような味で、その美味さはとても言葉では表現できない。とにかくものすごく美味かった。

その後ももう一度その飴が食べたくて、毎日のように交差点の付近をうろうろしたりしてみたけど、一度もその男女に会うことは出来なかった。

今でも交差点を見ると、この体験を思い出す。

関連記事

姪っ子に憑依したものは

高校生の夏休み、22時くらいにすぐ近所の友達の家に出かけようとした。 毎日のように夜遅くにそこへ出かけ、朝方帰って来てダラダラしていた。 ある日、結婚している8歳上の姉が2…

夜道

鏡の向こう

最近、近所のツタヤに新作DVDを借りに行ったことがありました。朝10時からのレンタル開始だったため、ちょうどその時間に店へ向かいました。 店に着くと、残念ながら望んだ時間には間…

コンサートホール

某コンサートホール

以前、某コンサートホールでバイトをしていました。その時の体験を話そうと思います。 初めに気が付いたのは、来客総数を試算するチケット・チェックの場所でした。 私たちはもぎった…

眼鏡

眼鏡の思い出

祖父が生前、私たち家族には常に厳しい人でありながら、時折見せる優しさとともに存在感を放っていました。 彼が亡くなった後、家族として彼を失った悲しみが心の隅に深く残っていました。…

命の大切さ

つい最近の出来事です。 職場で色々あって、自殺未遂しちゃったのね。 それで気分転換のため田舎に帰省したんだ。もちろん自殺未遂のことは秘密にして。 すると、信心深いばあ…

見えない壁

数年前の話。 当時中学生だった俺は雑誌の懸賞ハガキを出すために駅近くの郵便局に行く最中だった。 俺の住んでる地域は神奈川のほぼ辺境。最寄り駅からまっすぐ出ているような大通り…

夜の住宅街

山に棲む蛇

20年前、山を切り開いた地に出来た新興住宅地に引っ越した。 その住宅地に引っ越して来たのは私の家が一番最初で、周りにはまだ家は一軒もなく、夜は道路の街灯だけで真っ暗だった。 …

姉からの着信

実家に帰省したある夏休み。 夜中の3時に自分の部屋でネットをしていた時、私の携帯電話に姉から着信があったの。 姉は廊下を挟んだ向かいの部屋にいるんだから、何か話したいのなら…

雑炊

妻の愛

ようやく笑い飛ばせるようになったんで、俺の死んだ嫁さんの話でも書こうか。 嫁は交通事故で死んだ。 ドラマみたいな話なんだが、風邪で寝込んでいた俺が夜になって「みかんの缶詰食…

山遊び

子供の頃の話。 大して遊べる施設がない田舎町だったので、遊ぶと言えば誰かの家でゲームをするか、山や集落を歩いて探検するかの2択くらいしかする事がなかった。 小学校が休みの日…