川を流れる仏壇
現在の家に引っ越して来る前は、物凄い田舎の村に住んでいた。
周りは山に囲まれていて、大きな川も幾つもあり、殆ど外界の人が来る事は無かった。
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ある日、学校から帰宅すると、ちょうど父親が出掛けるところだった。
長靴にカッパズボンと明らかに普通の格好では無かったし、物凄く険しい表情をしていた。
そんな父が何故出掛けるのか気になり、長靴を履こうとしている父に
「どうしたん?」
と聞いた。
すると父は、
「ヒロちゃんが川で遊んでて行方不明になった」
と険しい顔で言った。
ヒロちゃんと言うのは、近所の3歳くらいの子供だ。
家のすぐ近くに川があり、母親と一緒に水遊びをしていたらしい。
母親が家の電話に気付き、
「川から上がって待ってなさい」
と言って家に戻ったらしい。
そして戻った時には、既にヒロちゃんの姿は無かったという事だ。
川は岸側の方は基本的に緩やかだが、真ん中はかなり流れが強い。
流されて下流の方に行った可能性があるため、捜索隊として行くとの事だった。
それだけ言うと父は、
「行って来る」
と言って行ってしまった。
自分もヒロちゃんの事はよく知っていたし、ここから川まで歩いて2分程度の距離という事もあり、手伝いに行こうと思い長靴を履き川へ向かった。
※
川に着いてみると、既に何人もの大人が川に入り探していた。
砂利の所で母親が座り込んで泣いているのが見えた。
取り敢えず下に降り、父を見つけて一緒に探す事にした。
確かに浅い所は流れが緩いが、真ん中の方に行くと流石に高校2年生の自分でも足を取られそうになる。
『これはもう助からないんじゃないか…』
と考えてしまう程だった。
※
そんな中でも暫く探し続け、空も薄い灰色になり、日も沈みかけたその時、
「おい、何か流れてこんか?」
と一人の男が言った。
自分も目を凝らして見ると、確かに何か黒い物が上流からこちらに向かって流れて来る。
何だろうと見ていたが、近くに来るにつれてそれが何だか判り、背筋が凍り付いた。
仏壇が流れている。
どんどんこちらの方に流れて来るが、見れば見るほど不気味で、少し小さくボロボロになっている。
タイミングがタイミングだけに、全員動けなくなってしまった。
数秒の沈黙の後、おもむろに村長だった人が口を開いた。
「ヒロちゃん、向こうに連れて行かれちゃったのかもしれんね」
その言葉を聞いた私は、更に気味が悪くなってしまった。
※
ヒロちゃんの遺体は3日後にもっと下流の方で発見されたのだが、腐敗がとても酷かったらしい。
それにしても気になるのは、あの仏壇の事だが…。
後日、上流の方に行ってみたがそこは民家一つ無く、殆ど人が立ち入れないような険しい崖になっていたらしい。
その日も誰かがそこへ行ったという話は全く聞かないし、それじゃあ一体誰が…という事になるが、それは判らない。