
少し前のことだ。
俺は三日間連続でネットカフェを利用していた。
とはいえ、36時間以上の連続利用は禁止されているため、一度強制的に追い出される仕組みになっている。
それまで俺は、マッサージチェアやリクライニングチェアの席しか使ったことがなかった。
しかし、その日は「どうせ寝るなら」と思い、初めてフラット席を選んだ。
※
場所も選べたので、一番端、壁際のフラット席にした。
ネットカフェを利用したことがある人ならわかるだろうが、個室の入口部分は毛布のような布で仕切られている。
俺も同じように、毛布で中が見えないようにしていた。
しかも壁際、向かいの席も空いていて、平日だったこともあり、店内はガラガラだった。
※
ここからが本題だ。
漫画を読み終わり、返却しようと体を起こして振り返ったときのこと。
毛布の下、隙間から「足首」が見えた。
貸出用のスリッパに、裸足。
細く、毛のないその足首は、女性のものだと思った。
しかも、その両足は俺の個室のほうにまっすぐ向けられたまま、ぴくりとも動かない。
※
異様な雰囲気に、心配になって扉に手をかけた。
その瞬間、足はパタパタと音を立てて走り去った。
少し安心し、その後も周囲を気にしながら過ごしたが、特に異常はなかった。
だからそのまま眠りについた。
※
午前2時ごろに寝て、午前5時ごろに目が覚めたと思う。
足はPC台の下の隙間に入れ、頭は入り口側に向けて寝ていた。
ふと目を覚ましたとき、入り口を見ると、そこに「居た」。
あの、貸出スリッパに裸足の女。
※
寝起きにそんなものを見た俺は、数秒間固まってしまった。
そして気づいてしまった。
今回は、女が「爪先立ち」している。
嫌な汗が一気に吹き出した。
『おい、マジかよ……』
心の中で叫びながら、俺は寝たままの姿勢で、ゆっくりと顔を上げた。
※
見えた。
毛布の隙間から、顎を壁に乗せ、頭だけを覗かせている女が。
ニタニタと、気持ちの悪い笑みを浮かべて、俺の顔をじっと見つめている。
※
思わず枕代わりにしていたクッションを投げつけた。
クッションが飛んだ瞬間、女は「気付いてくれた」と言わんばかりに、さらに気味の悪い笑みを浮かべた。
その顔を見ていると、頭がガンガンしてきた。
まるでひどい二日酔いのような感覚だった。
※
もう耐えきれず、女に捕まる覚悟で、俺は一気に個室を飛び出した。
だが、そこには誰もいなかった。
空いている個室に隠れているのかと思ったが、どこにも姿は見えなかった。
※
しばらくトイレで気持ちを落ち着かせた。
そして恐る恐る元の席に戻ろうとした。
だが、また居た。
一番奥、俺の席の前で。
こっちを向き、無言で「早く来て、早く来て」と誘うように手招きしている。
※
観念して、店員を呼び、同行してもらって席へ戻った。
だが、当然、誰もいなかった。
すぐに清算を済ませ、店を飛び出した。
もう、ネットカフェなんて絶対に利用できないと思った。
※
しかし、地獄は終わっていなかった。
店を出た直後から、無言電話がかかり始めたのだ。
5分おきに、一回ずつ。
朝まで、延々と。
※
着信拒否をしても、違う番号からまたかかってくる。
結局、携帯を買い替えるまで、無言電話は止まらなかった。
本当に、もうトラウマものだ。
note 開設のお知らせ
いつも当ブログをご愛読いただき、誠にありがとうございます。
今後もこちらでの更新は続けてまいりますが、note では、より頻度高く記事を投稿しております。
同じテーマの別エピソードも掲載しておりますので、併せてご覧いただけますと幸いです。
怖い話・異世界に行った話・都市伝説まとめ - ミステリー | note
最新情報は ミステリー公式 X アカウント にて随時発信しております。ぜひフォローいただけますと幸いです。