イトウ

公開日: ほんのり怖い話 | 不思議な体験

女性のシルエット(フリー素材)

高校から現在にかけて、俺の周りをウロチョロする謎の同級生がいる。

高一の時に言われたのが一番最初。夏休み明け直後の日だったのだが、いきなりクラスの奴に

「イトウって知ってる?」

と言われた。

「イトウ? 知らないなぁ」

「何言ってるんだよ。お前と同級生だろ? 地元の友達だろ?」

「いや、知らんし」

数日後…。

「やっぱりイトウって知ってるだろ? アイツ、お前と仲良かったらしいぞ」

「だから知らないって…」

「しらばっくれるなよ!」

「はぁ? そんな奴いないっつぅの!」

それでケンカになった。そいつは俺に薄情だと言う。

俺は知らない奴を知っている奴だと言われて、何か癪に障ったので切れた。

まあ、若い頃だから血の気は多いとして、それでもクラスの奴は異常に切れた。

家に帰り、卒業アルバムを小学校の頃から調べたけど、やはりイトウなんていなかった。

結局それ以降そいつとは話すことは無くなり、転校して行った。

変な蟠りが残ったけど、俺は暫くイトウの名を忘れていた。

それから学年が変わって高二になった頃、またイトウの名を耳にすることになる。

今度は部活が一緒だった隣のクラスの奴に、

「なぁ、イトウって知ってる? お前と同じ中学なんだろ?」

「いや知らないって…」

「だってさ、お前と同じ部活で、三年間一緒だったって言ってたよ」

「はぁ? ちょっとどういう知り合いなのか詳しく教えてくれよ」

久々にその名前を聞いて嫌なことを思い出したけど、正体が知りたかったので詳しく聞いてみた。

「女だよ、背の低いさ…。友達の友達なんだよね。こないだそいつとカラオケ行ってさ、何かノリのいい奴」

「いや…知らない…女なら尚更知らない…」

「マジ…? 連れて来てやるよ。本当にイトウ、お前のこと詳しいから…」

俺はそれを聞いて怖くなったよ。本当にどれだけ記憶を辿っても知らない奴なんだから。

割とよく聞く苗字だけど、イトウなんて同級生は一人もいない。

それから数日が経った頃。

「お前に会わせようとしたイトウさ…いなくなったらしい」

「え? なんで?」

「わからん。突然家を捨てて、夜逃げみたいな感じだったって…」

「…」

その後、イトウは意外なところで現れる。

地元の友達が、

「なぁ、イトウって同級生いたっけ?」

「いない!お前も知ってるかって言われるの?」

「お前もか!!」

それで俺らの地元のグループで話題になった。

イトウとかいうおかしな奴が、俺らの知り合いだと言う。

この現象は俺だけではなく周辺の友達にも波及して、他にも三人同じ体験をした奴がいた。

それも三人とも違う高校で、全く別々の友達から聞いたという話だった。

「怖いな…マジ、イトウって誰だよ?」

「俺が聞きてぇよ!!」

同窓会でそのことをみんなに聞いたが、誰も知らなかった。

ただ連絡がつかない奴の中で、イトウという苗字になった奴はいたかもしれないが、それも確認できた訳じゃなかった。

それから半年程が過ぎ、今度は幼馴染の従姉妹が

「ねぇ、イトウって知ってる?」

ゾッとした。いつものイトウの話だったよ。

背の低い女で、俺と同じ部活。仲の良い友達だったイトウ。

従姉妹は俺のことをよく知っている。

「イトウなんて…いないよね…?」

「いない…」

それから数年間、イトウは姿を消す。

イトウのことは頭の片隅くらいにしか残らない存在になっていた。

大学卒業間近、バイト先で

「なぁ、イトウって知ってる?」

その場に倒れそうになったよ。

「背の低い女で、俺と部活が同じの?」

「そうそう(笑)。やっぱり知り合いなんだ」

「今も連絡取ってるの?」

「ああ、高校の時の部活の知り合いで…」

こいつは俺と同い年なので、もし高校の時の知り合いであるなら、イトウはその頃行方不明だったはずなんだけど…。

「今さ!そいつと連絡つかない?」

「ああ、つくよ!イトウもさ、今度飲みたいって言ってたし、ちょうどいいよ」

携帯電話の先からイトウの声が聞こえる。

「もしもしぃ」

「今さ、…うんうん」

微かにだけどイトウの声が聞こえる。

実在する人物なんだ!

「悪い…イトウさ、何か具合悪いからって電話切られた…」

「そうか…じゃあまた今度頼むよ」

次こそはイトウと話す。

次にバイト行った時、イトウの知り合いだという奴の態度が急変した。

俺が何を話しかけても無視。

軽い虐めみたいな感じの雰囲気になっていた。

なぜかバイト先の奴からハブられる俺。

その日の帰りに店長からクビを言い渡された。

文句は言ったが、「悪いが暫く来ないでくれ」の一点張り。

気が付いたらそのバイト先は潰れていた。

結局、イトウとの接点は無くなった。

最初に俺にイトウの話を振ったクラスの奴もいなくなり、次の部活の奴もその後、退学になった。

三人の同級生とも疎遠になった。三人とも良い噂を聞かなかった。今はどうしているか完全に判らない。

従姉妹もその後、精神的に病んで今は話せる状態じゃない。

結局、イトウのことに関しては判らず仕舞いだったのかな…。

なんて思っていたら、先週彼女が

「イトウって知ってる?」

まだイトウは俺の周りをウロチョロしているのかもしれない。

関連記事

青蛙(フリー写真)

井守と青蛙

もう大分前のことになりますが、私は当時、金属加工の小さな工場を経営していて、折からの不況もありその経営に行き詰まっていました。 そしてお恥ずかしい話ですが、自殺を考えたのです。…

パンダ

パンダのぬいぐるみ

5歳の頃、一番大事にしていたぬいぐるみを捨てられたことがありました。 それはパンダのぬいぐるみで、お腹に電池を入れると足が交互に動いて歩くものです。キャラクターではなくリアルに近…

抽象画

娘と狛犬

5歳になる娘と散歩で立ち寄った神社でおみくじを引いた時、3回連続で凶が出た。 こんな事もあるのかと驚きながら家に帰ると、嫁が訝しげな顔で言った。 「それ、どうしたの?」 …

夜の工場

深夜の国道と消えた時間

昔、私は某電機機器メーカーの工場で派遣社員として働いていたことがありました。 三交代制の勤務で、その週は準夜勤、つまり17時から深夜0時30分までのシフトに入っていました。 …

桜の木の神様

今は暑いからご無沙汰しているけど、土日になるとよく近所の公園に行く。 住宅地のど真ん中にある、鉄棒とブランコと砂場しかない小さな公園。 子供が遊んでいることは滅多にない。と…

田舎の風景(フリー素材)

垣根さん

中学生の頃の話。 当時は夏休みになると父方の祖父母の家に泊まりに行くのが恒例になっていた。 と言っても自分の家から祖父母の家までは自転車で20分もかからないような距離。 …

文房具(フリー写真)

クラス替えアンケート

子供の頃に奇妙な体験をした方は多いと思う。俺にもずっと気になっていることがある。 毎年3月が近くなると『クラス替えアンケート』のことを思い出すのだけど、俺以外にもこれと似たような…

ボール

失われた半年間の記憶

小学3年の冬から小学4年の5月までの間、私の記憶がまったくありません。記憶が途切れている期間は、校庭でサッカーをしていたシーンから、学校の廊下にある大きな鏡の前に立っているところまで…

異世界の駅

異世界の輸界「やみ駅←きさらぎ駅→かたす駅」

「きさらぎ駅」という駅をご存知でしょうか? 過去に 2chで大きな話題になった怖い話の一つです。 はすみさんという方が実在しないその駅に迷い込んだまま行方不明になったとい…

古民家(フリー写真)

木彫りの仏様

母方の祖母が倒れたという電話があり、家族で帰省した時の話です。 祖母は倒れた日の数日後、うちに遊びに来る予定でした(遠方に住んでいるため滅多に来ません)。 その遊びに来るこ…