標識

夜の峠(フリー写真)

9年前の12月23日に、東京から沼津までバイクで出掛けた。

夜の帰り道、1号から熱海方面に適当に下りようとする。

夜中の2時頃に前のブルーバードが曲がった南方向に行く細い道を、何となく一緒に折れる。

そこからの道のりが大変だったんだ。

入って程なくして、森の中の細い道ような感じになったのだが、2個目のカーブを超えたところで、いきなり前のブルーバードを見失った。

ライトの暗い俺のバイクは、前走車のライトを頼りにしていた部分もあったので、居なくなった瞬間はすぐに分かった。

あまりに唐突だったので、そこに止まって脇道があるか確かめたが、もちろん脇道はない。そういう消え方ではない。

気味が悪いので、すぐにその場を去った。進行方向に。

走り始めてすぐにおかしなことに気が付いた。

「俺、このコーナーずっと回ってるわ…」

30R程度の左複合コーナーがずっと終わらないんだ。

何しろ、バイクだからバンクしたまま起こせない。

周回数で言うと8周くらいだと思う。それがふっとストレートに戻るんだ。

ずっと森の中のまま。これが何箇所もあって、もう発狂寸前の精神状態。

やっとコーナーの先に熱海の町明かりが見えた時は、体が完全に振るえて強張っていた。

するとすぐに、自転車のお巡りさんが一人で検問している。無理に停めるから止まったんだ。

そしたら、忘れもしない初めの一言、

「大丈夫でしたか?」

何で知っているんだ!

怖くなって振り切って、もう全開で逃げたよ。

顔面蒼白のまま、一番近い所にあった熱海市街の旅館のチャイムを、どうでも良いからとにかく鳴らした時には、もう6時を回っていた。

俺、どこ走って来たんだよ。

変な世界を走って来たみたい。でも、メーターは物凄く進んでいた。幽霊ではなさそう。

でも家は一軒も見ていない。そう言えば、一台も擦れ違った車がない。

東京まで帰る余裕は全くなかったので、その旅館に泊まらせていただくことになった。

旦那さんと女将にその話をしたら、偶にあるらしいです。

しかも、ちょうど何件もの旅館がその時停電していたので、旦那さんたちはずっと起きていたみたい。

後日、地図を広げると、案の定該当する道がない。でも1号線から折れる場所は覚えている。

折れる寸前でコンビニで買い物をしたから。出口ははっきり覚えていない。

道中はあちこちに『11』の標識があった。

でも10年近く経つのに、もう一度入る勇気がない。何だったのだろう。

関連記事

田舎の風景(フリー写真)

ヒノジイ

私は小学校に通う前、田舎の祖父母の家に住んでいました。 同い年の子供どころか、祖父母以外に人を滅多に見なかったので、暇で仕方がありませんでした。 ※ ある日、敷地内…

俺神様

俺の両親は、俺を孕んだ時と産まれる時の夜に、光が腹に入っていくような神秘的な夢を見たことで「あんたには何か力がある」と信じこんでいて、家族で何か悩み事がある時には、俺が最終決定をして、…

鬼が舞う神社

叔父の話を一つ語らせてもらいます。 幼少の頃の叔父は、手のつけられない程の悪餓鬼だったそうです。 疎開先の田舎でも、畑の作物は盗み食いする、馬に乗ろうとして逃がすなど、子供…

白い犬(フリー写真)

おかげ犬

知り合いが体験した話。 とある鄙びた峠道を歩いていると、いつの間にか犬が一頭、後をついて来る。 痩せた白い体毛の犬で、首には大きな風呂敷包みを提げている。 彼の方を…

ひな祭り(フリー写真)

三つ折れ人形

私の実家に、着物の袖が少し焦げ、右の髪が少し短い、一体の日本人形があった。 桐塑で出来た顔には、ちゃんとガラスの目が嵌め込まれていた。 その上に、丁寧に胡粉の塗られた唇のぽ…

山(フリー写真)

山に棲む大伯父

もう100年は前の事。父方の祖母には2歳離れた兄(俺の大伯父)が居た。 その大伯父が山一つ越えた集落に居る親戚の家に、両親に頼まれ届け物をしに行った。 山一つと言っても、子…

教室

時を越えた学校

10年前の夏休み、母と姉と一緒に母方の実家に遊びに行きました。その場所は集落から少し離れた山の麓にあり、隣の家まで歩くと5分程度かかる静かな場所でした。当時、私たち姉弟には「学校の怪…

地下のまる穴(長編)

これは17年前、高校3年の時の冬の出来事です。 あまりに多くの記憶が失われている中で、この17年間、僅かに残った記憶を頼りに残し続けてきたメモを読みながら書いたので、細かい部分や…

地下トンネル

次は仲町台

就職活動で疲れ果てた私は、横浜地下鉄で眠りについた。 目が覚めた時、降りる予定だった仲町台ではなく、終点で降りると外はまだ真昼だった。 終点の駅は近代的な真っ白なドーム型…

竹下通り

竹下通りの時間の谷間

5年前、当時の彼女と一緒に竹下通りでの買い物を楽しんでいました。 祭日の快晴の日で、若者で賑わう街中を歩いていた時、突然トイレに行きたくなりました。 しかし、店内にトイレ…