フデバコさん

雪山のロッジ(フリー写真)

幼稚園の行事で、雪山の宿泊施設へ泊まりに行きました。

小さなホテルに泊まるグループと、ロッジに泊まるグループに分かれていて、私はロッジに泊まるグループになりました。

「寒いねぇ」

などと言いながら、みんなで雪を眺めつつ、施設の食堂でお昼ご飯を食べました。

大学の食堂のような、大くてザワザワとした場所です。

友達と二人で完食し、ロッジへ戻り満足していると、友達が怪訝そうな顔で聞いてきました。

「A(私)ちゃん、何でご飯食べてる時、友達を無視してたの?」

「友達を?」

「Aちゃんの横に立って話し掛けてる子が居たじゃん」

友達曰く、ワンピースを着た女の子が私に話し掛けていたのに、私は目もくれずにご飯を食べていて困ってしまった…とのことでした。

しかしうちの幼稚園の制服ではなかったこと、土足厳禁の食堂で汚いローファーを履いていたことから、

「変な子だったし、まあいいけど」

と友達は納得していました。

私は自分の食い意地を反省しつつ、

『食堂、うるさかったからな…よその幼稚園の子だったのかな』

と思いました。

「それで、その子は何て言ってたの?」

「何かAちゃんに『フデバコさんですか? フデバコさんですか?』って何回も聞いてたよ。フデバコさんって何?」

「何だろう…?」

お母さんと離れて心細かったのもあり、妙にそれが気持ち悪く、心に残りました。

でもそこは園児。夜は先生がみんなに本を読んでくれたり、冷凍みかんを作る(笑)などをして、すっかり忘れてしまいました。

次の日、朝の食堂が騒ぎになっていました。

ホテル組の子が、先生に何か必死に訴えていました。

内容はこんな感じでした。

『男子に酷いイビキをかく子が居て、女子はちっとも眠れなかった(子供なので部屋は男女混合)。

腹が立ったのと、好奇心で勝手にみんなで部屋の外へ出たら、廊下の遠くにぽつんと、何か銀色の横長のケースが落ちていた。

あれは何だろうとみんなで見ていたら、ケースから足が生えて…向こうへひょこひょこ歩いて行った』

それを聞いたみんなや先生は、

「ちゃんと寝ないからだ」「おもしれー(笑)」「幽霊とかの話ないの?」

などと言って相手にしていませんでしたが…本人達は本気で言っているように見えました。

『銀色の横長のケース…、それはカンペンではないかな?』とすぐに思いました。

カンペンって、筆箱ですよね…。

筆箱=フデバコ。

ロッジとホテル、施設の位置関係はもう覚えていませんが、私が昼間に何度も聞かれた『フデバコさん』と無関係には思えませんでした。

ロッジの子には食堂の女の子の話はしていないので、後付けのお芝居とも考えられないです。

かと言って、足が生えて逃げて行った横長のケースと土足の女の子にどんな関係があるのか…。

今考えてもその意図が曖昧で、不気味で全く分かりません。

『女の子はお化け?』

『自分の無くした筆箱を探して…』

…など、それらしいお話を考えてみましたが、では人の形をした私に

「あなたはフデバコさん? フデバコさん?」

などと話し掛けた理由は何だったのでしょうか?

その女の子に気付くことが出来なくて、本当に良かったとゾッとします。

「はい」と答えたらどうなった?

「違います」と答えたらどうなった?

小さかった私は、幽霊とは白い着物の女の人で…と言ったイメージしか持っていなかったので、あまりの得体の知れなさに『早く家に帰りたい!』と怯えてしまいました。

見かねた先生が、美味しいふりかけをご飯にかけてくれました。

もう一泊ありその日は眠れませんでしたが、何とか家に帰りました。

妖怪だったのかな、と今では思います。

似たような体験談を聞かないので、正体や目的は今でも判りません。

関連記事

ビジネスホテル

警備のアルバイト

学生時代、都心のビジネスホテルで警備のアルバイトをしていました。 従業員の仮眠時間帯、深夜12時から明け方の5時まで、フロントの業務と巡回を一手に担っていたのです。 門限…

車のテールランプ(フリー写真)

白装束の女性

初めて変な経験をしたのが5歳の頃。もう30年以上前の話をしてみる。 父親は離婚のため居らず、六畳一間のアパートに母親と二人暮らしだった。 風呂が無く、毎晩近所の銭湯に行って…

蝋燭

キャッシャ

俺の実家の小さな村では、女が死んだ時、お葬式の晩に村の男を10人集め、酒盛りをしながらろうそくや線香を絶やさず燃やし続けるという風習がある。 ろうそくには決まった形があり、仏像を…

土地にまつわる因縁話

知り合いの霊能力がある人の話。 普通、霊能者と言えば厳かな感じの人が多いというイメージがあるんだが、知り合いの人はそこら辺にいそうな、筋トレ好きな体育会系のおっさんなのよね。 …

遊園地

くるくるワープ

これは私自身の不思議な体験についての話です。 私が3歳頃のことです。父と二人で遊園地に遊びに行きました。乗り物に乗るために順番を待っている間、退屈を紛らわすために目を閉じてその…

石段(フリー写真)

朽ち果てた神社の夢

二十年前から現在まで続く話。 俺は当時大学生で、夏休みに車で田舎の実家に帰省していた。 その時は、普段帰省時に通っている道とは別の道を通って行った。 見渡す限りの山や…

高過ぎる電気代

ある新婚夫婦がマイホームを購入するため不動産屋を訪ねた。 その夫婦は、少し古いが希望に合う物件を見つけることが出来た。 そこは古い和風屋敷の一軒家。値段の割には良い物件。 …

封じ(長編)

アパートに帰り着くと郵便受けに手紙が入っていた。色気のない茶封筒に墨字。間違いない泰俊(やすとし)からだ。 奴からの手紙もこれで30通になる。今回少し間が空いたので心配したが元気…

少年と祖母

今年33歳になるが、もう30年近く前の俺が幼稚園に通っていた頃の話です。 昔はお寺さんが幼稚園を経営しているケースが多くて、俺が通ってた所もそうだった。今にして思うと園の横は納骨…

ろうそく(フリー写真)

蛇を奉って欲しい

昔、化粧品店とエステサロンを兼ねた店に働いていた。 事情があり、店長の家に住み込みすることになった。 いつも店長は遅く出勤して来た。 「頭が痛い」「体が重い」と口癖…