あき様

和室(フリー写真)

私の家は代々旅館を営んでおり、大きな旅館のため私が幼少の頃も両親共に忙しく、会話をした記憶も殆どありませんでした。

店の者が毎日学園まで迎えに来るので、学友と遊びに行く事も出来ず、何時も母屋かお店で二人で遊んで過ごしていました。

ここで問題となるのは、『二人』で過ごした事です。

私は一人っ子で外出も禁止されていたので、近所にはお友達も居ませんでした。

ですが、綾取りやおままごと、お花摘み。鞠遊びも全て二人で遊んでいました。

時折、祖母も交えて三人で遊んでいましたが、私が疲れて休んでいる時も、祖母と彼女はお話をしたりお菓子を食べたりしていました。

一緒に遊んでいたお友達を、私は『あき様』と呼んでいました。

年月は過ぎ、私の息子も小学一年生になりました。

彼は一人でキャッチボールをして遊んでいます。

学校から帰ると、グローブを二つ持って庭に向かって駆け出し、

「あき様~」

と大きな声で呼びながら姿を消します。

息子が心配なのもありますが、私もあき様に会いたいので探しても会えません。

息子に付いて行っても、あの子は少し油断すると何時の間にか消えてしまいます。

ですが、お夕飯時にはひょっこりと現れて、

「あき様と○○して遊んだ」

と、楽しそうに話してくれます。

大人になると、会えなくなるのでしょうか?

今は『お婆ちゃんになったら会えるのかな?』と思い始めています。

関連記事

空

深い霧の中の着陸

長い海外出張からの帰国。心待ちにしていた日本の大地を見るため、私は飛行機の窓際の席を選びました。 雲の上の空は碧く澄んでいましたが、その下は厚い霧に覆われていました。 飛…

ろうそく(フリー写真)

お盆の不思議体験

怖くはないけど、お盆が来る度に思い出す不思議な話。 今から10年程前、長男が4才の時の夏。 俺達家族は例年通り、俺の実家に帰省していた。 父は10年以上前に事故で亡く…

登山(フリー素材)

赤い着物の少女

システムエンジニアをやっていた知人。 デスマーチ状態が続き、残業4、5時間はザラ。睡眠時間は平均2〜4時間。 30歳を過ぎて国立受験生のような生活に、ついに神経性胃炎と過労…

戦時中の軍隊(フリー写真)

川岸の戦友

怖いというか、怖い思いをして来た爺ちゃんの、あまり怖くない話。 俺の死んだ爺ちゃんが、戦争中に体験した話だ。 爺ちゃんは南の方で米英軍と戦っていたそうだが、運悪く敵さんが多…

民宿の一室(フリー写真)

あの時の約束

長野県Y郡の旅館に泊まった時の話。 スキー場に近い割に静かなその温泉地がすっかり気に入り、僕は一ヶ月以上もそこに泊まったんです。 その時、宿の女将さんから聞いた話をします。…

夜の海(フリー素材)

ばあちゃんのまじない

部活の合宿で、他の学校の奴も相部屋で寝ていた時の事。 ある奴が急に魘され、布団の上でのた打ち回り始めた。起こそうとしても全然起きない。そのまま魘され続ける。 起きている奴等…

母を名乗る女の人

小学校に上がる前の、夏の終わりの頃の話。 私は田舎にある母方の祖父母の家で昼寝をしていた。 喉が渇いて目が覚めると、違和感を覚えた。何回も遊びに来ている家だけど、何かが違う…

林

山の女の子

昔、私が小学3年生のとき、毎年夏になると両親は私を祖母の家に連れて行っていました。その町は都心から離れたベッドタウンで、まだ発展途上の田舎でした。周囲は広い田んぼや畑、雑木林が広がっ…

マンション(フリー写真)

夢の中の会話

私は十年近く前、誘拐されたことがあります。 私を誘拐し拉致したのは同じマンションに住む女の人で、私は風呂場に閉じ込められました。 縛られたりはしなかったのですが「逃げたら…

夕焼け

紫の世界

この話は、主人公が早朝にタバコを買いに出かけた際に、普段とは異なる不可解な出来事に遭遇した体験談です。 日の出直後、寝ぼけた状態で外に出た主人公は、居間で新聞を読んでいる父親に…