娘の右手

公開日: 心霊ちょっと良い話

手を繋ぐ母と娘(フリー写真)

二年前の春、夫が交通事故で、まだ幼稚園の娘と私を残して逝ってしまいました。

あまりに突然だったため、その頃のことはあまり憶えていません。

夫を失ったショックと、これからの生活への不安で精神的に参ってしまい、家族の助けを借りて何とかやって行ける日々が続きました。

まだ小さい娘にもあまり気が回らなくなり、自己嫌悪の毎日。

でも娘は寂しそうな素振りも見せず、きっとまだ小さいから父親が死んでしまったことを理解できていないのだと思いました。

そんな生活が半年ほど続いた頃でしょうか。娘がよく右手を見つめながら、

「お手手がじんじん。お手手がじんじん」

と言うようになりました。

「お手手痛いのっ?」

と聞くと、

「お手手痛かったのー」

と言います。

あまりにも頻繁に言うものだから心配になり、病院へ連れて行ったのですが特に異常も無く、精神的なものかもしれないと不安になりました。

そんな時、ふと夫の事を思い出しました。

いつも娘の右手を握って、道路側を歩いていた夫。

体育会系で元々握力が強い夫でしたが、娘が心配だったようでいつもしっかり手を握って、娘に

「お手手痛いよー」

と嫌がられ、困った顔をして笑っていました。

その日は娘にこう聞きました。

「お手手繋いでたの?」

「うん、パパ痛いんだよぉ」

涙が溢れてきて、娘を抱き締めてわんわん泣いてしまいました。

夫が亡くなり、娘が寂しがらなかった理由が解りました。

不甲斐ない私の代わりに、いつも娘の右手を握ってくれていたのだと思います。

もう夫に心配かけさせちゃダメだって、娘を一人ぼっちにさせちゃダメだって、立ち直るきっかけを与えてもらいました。

今では夫の代わりに私がしっかりと強く、じんじんとまでは行きませんが(笑)、娘の手をぎゅっと握っています。

関連記事

猫の親子(フリー写真)

魔法の絆創膏

俺がまだ幼稚園生だった頃の話。 転んで引っ掻き傷を作って泣いていたら、同じクラスのミヤちゃんという女の子に絆創膏を貰ったんだ。 金属の箱に入ったもので、5枚くらいあった。 …

京浜東北線(フリー写真)

杖を持ったおじいさん

2年前の出来事。 その日、京浜東北線に乗っていた私は、大声を上げながら周りを威嚇するおっさんに出会した。 多分、かなり酒を飲んでいたのであろう。 パチンコで負けただ…

キャンプ場

少女のお礼

この話は僕がまだ中学生だった頃、友人の家に泊まりに行った時に聞いた話。 友人と僕が怪談をしていると、友人の親父さんが入って来て、 「お前たち幽霊の存在を信じてるのかい? 俺…

おじいさん(フリー写真)

おんぶしてあげるよ

去年、祖父が亡くなりました。 僕は祖父にはよく可愛がってもらっていましたが、何の恩返しもできないまま逝ってしまいました。 不思議な体験というのは、その祖父の葬儀の時に起こり…

登山(フリー写真)

二つの人影

友人に山岳部のやつが居る。そいつが何処だか忘れたが、結構有名な日本の山に部員と登った時の話。 ちょうど山の中腹まで登った頃に濃霧が立ち込めて来て、他のメンバーとバラバラになってし…

桜の木の神様

今は暑いからご無沙汰しているけど、土日になるとよく近所の公園に行く。 住宅地のど真ん中にある、鉄棒とブランコと砂場しかない小さな公園。 子供が遊んでいることは滅多にない。と…

夜の海(フリー素材)

ばあちゃんのまじない

部活の合宿で、他の学校の奴も相部屋で寝ていた時の事。 ある奴が急に魘され、布団の上でのた打ち回り始めた。起こそうとしても全然起きない。そのまま魘され続ける。 起きている奴等…

教室と黒板(フリー写真)

最後の宿題

俺の友達は、昔風に言えばヤンキーだった。 高校もろくに行かず、友達と遊び回っていたそうだ。 先生達は皆サジを投げていたそうだが、友達の担任の教師だけはそうではなかった。 …

枝に積もる雪(フリー写真)

おじいさんの足音

母から聞いた話です。 結婚前に勤めていた会計事務所で、母は窓に面した机で仕事をしていました。 目の前を毎朝、ご近所のおじいさんが通り、お互い挨拶を交わしていました。 …

癒しの手

不思議なおっさん

自分が小学生の頃、近所で割と有名なおっさんがいた。 いつもぶつぶつ何か呟きながら町を徘徊していた人だった。 両親も含めて、奇妙な人だから近寄らない方が良いと誰もが言っていた…