夜の電車で出会ったアケミちゃん

公開日: 怖い話 | 洒落にならない怖い話

アケミちゃん

大学に入学し、少しずつ友人ができ始めたある日のことだった。

夜の九時過ぎ、仲良くなった友人Aから電話がかかってきた。

「今、うちにBとCも来てるんだ。暇なら来ないか?」

Aの住んでいるアパートは、俺の自宅から大学を挟んでちょうど反対側に位置していた。

電車を乗り継いでいかなければならず、距離も時間もそれなりにかかる。

正直、少し面倒に感じた。

けれど、土曜の夜で特に予定もなく、退屈していた俺は、結局Aのアパートへ行くことにした。

電車を乗り継ぐために、あるホームで電車を待っていた時のことだ。

ふと周囲を見渡すと、乗客がやけに少ないことに気づいた。

「土曜の夜って、こんなに人が少なかったっけ?」と疑問に思ったが、特に気に留めることもなく、やってきた電車に乗り込んだ。

車内も驚くほど空いていた。

酔っ払いの男女二人が座席に寄りかかって話しているだけで、ほかには誰もいなかった。

俺はそのまま適当な席に座り、携帯をいじって時間を潰していた。

すると次の駅で、その酔っ払いの二人が降りていった。

代わりに乗ってきたのは、俺と同じくらいの年齢の女の子だった。

彼女は俺の向かいの席に静かに腰を下ろした。

最初はあまり気にしていなかったが、ふと顔を上げた瞬間、目が止まった。

……とんでもなく可愛い。

黒髪のセミロングで、落ち着いた雰囲気。

一言でいえば、俺のど真ん中ストライクのタイプだった。

女の子と会話をしたことがないわけではない。

けれど、当時の俺は「彼女いない歴=年齢」で、こんなシチュエーションに慣れているはずもない。

内心ドキドキしながらも、どうせ出会いなんてものはドラマの中だけの話だろう、と自分に言い聞かせる。

だが気がつくと、無意識のうちに彼女のことを見つめてしまっていた。

最悪なことに、そのタイミングで彼女と目が合ってしまった。

「やばい、キモいやつだと思われた……!」

俺は慌てて目をそらし、何事もなかったように窓の外を眺めるふりをした。

心臓はバクバク鳴っていた。

目的地の駅までは、まだ5駅もある。

このまま何事もなく過ぎてくれと願っていた、その時だった。

ふいに、クスクスと笑い声が聞こえた。

驚いて顔を上げると、彼女がこちらを見て笑っていた。

しかも、楽しそうにこう言ってきたのだ。

「なんですかぁ?」

頭が真っ白になった。

漫画やドラマでもそうそう見ないような展開に、テンパらないはずがなかった。

けれど、表面上は何とか冷静を装って

「いや……外を見てただけだけど」

と返すと、彼女は笑いながら、さらりとこう言った。

「私のこと見てたよねー」

そのまま、すっと俺の隣に座ってきた。

「……え?」

何が起きているのかわからない。

でも――嬉しかった。心の奥で、叫びたくなるほど嬉しかった。

観念した俺は、正直に告白した。

「……ごめん。見てました」

それを聞いた彼女は、またクスクスと笑った。

それからの15分間、俺たちはいろんな話をした。

名前はアケミちゃんというらしい。

学部は違うが、同じ大学に通っているとのことだった。

声も表情も、可愛くて柔らかかった。

けれど――後から思い返せば、この時のアケミちゃんの言動には、いくつもの「違和感」があった。

例えば――

最近話題になった出来事について詳しく話していたかと思えば、突然、何年も前の話を始めたり。

時事ネタには妙に詳しいのに、「この前の地震、怖かったよね」と言ってみると、まるでピンときていないような表情を見せたり。

会話の途中で、同じ話を繰り返したかと思えば、いきなり無表情で黙り込んだり。

……当時の俺は、そんな不自然さにも気づかず、ただ可愛い子と話せる喜びに浮かれていた。

だが、そんな俺にも、ひとつだけ気になることがあった。

アケミちゃんと話している間、どこからともなく

「カチ……カチ……」

と、軽くて硬いプラスチックのような音が断続的に聞こえていたのだ。

車内を見回してみたが、特に音の出所は見当たらない。

アケミちゃんが「どうしたの?」と尋ねてきたが、特に深く考えていなかった俺は

「いや、なんでもない」

と答え、そのまま会話を続けた。

その「音」の意味を、俺が本当に理解するのは、もう少し先のことだった――。

アケミちゃんとの会話を続けているうちに、電車は目的地のひとつ手前の駅へと近づいていた。

そのとき、不意にアケミちゃんのバッグの中から携帯の着信音が鳴った。

彼女はバッグを開け、中から携帯を取り出そうとした。

その瞬間だった。

俺の視界に、バッグの中の“異様な物”が映った。

――ボロボロに錆びついた、中華包丁。

しかも、一本ではない。二本。

明らかに、普通の女子大生が持ち歩くような代物ではなかった。

あまりの衝撃に、俺は思考が一瞬止まった。

「なぜ、そんなものを……」

というか、どうして電車の中で平然とそんな凶器を持ち歩いていられるんだ?

目を疑いたくなる光景だった。

アケミちゃんはすぐにバッグを閉じたが、あれは絶対に見間違いではない。

それと同時に、先ほどから聞こえていた「カチ、カチ」という音――

その正体が、どこか遠くにあるのではなく、今まさに“隣に座っている彼女”から発されていたことに、ようやく気がついた。

ようやく、俺の中の警戒心が現実を直視し始めていた。

「そもそも……こんな可愛い子が、目が合ったってだけで声をかけてくるなんて、あり得るか?」

「会話していても、なにかおかしい。言動にちぐはぐな部分が多すぎる」

「そして……あの中華包丁」

すべてが繋がったわけではないが、“このまま関わってはいけない”という確信が、強く芽生え始めていた。

そう思った俺は、目的地の駅で降りるのを避けることにした。

ただ、電車が停車した瞬間に降りると、アケミちゃんも一緒に降りてきてしまうかもしれない。

だから俺は、電車のドアが閉まるギリギリのタイミングで降りるという“逃げ”の一手を選んだ。

電車が次の駅に到着し、扉が開く。

アケミちゃんは電話をしているふりをしながら、ちらちらと俺の方を見ている。

背筋に冷たいものを感じながらも、俺は精一杯愛想笑いを浮かべ、タイミングをうかがった。

発車ベルが鳴ったその瞬間――

「ごめん、ここで降りるわ」

俺はそれだけ言い残し、ドアが閉まる寸前に車外へ飛び出した。

アケミちゃんは反応する間もなく、そのまま電車は出発していった。

ようやく、ひとまず“難”を逃れた。

ホームに一人残された俺は、大きく深呼吸をした。

今の出来事が現実なのかすら疑わしい。

けれど、あの錆びた包丁と、異様なまでの距離感の近さ、あの“音”。

すべては現実だ。

とにかく、Aのアパートに向かおう。

だが、ここからAの家まではまだかなり距離がある。

地元ではない俺にとって、道順もわからない。

また電車に乗れば、次の駅でアケミちゃんが待ち伏せしている可能性もある。

それは最悪の事態だ。

俺は迷わず、Aに電話して住所を聞き、タクシーで向かうことにした。

多少金がかかっても、命には代えられない。

Aのアパートに到着すると、BとCがリビングでゲームをしていた。

俺は息を切らせながら玄関に飛び込むなり、大袈裟にこう言った。

「おい、やべぇのに会った! なんか……マジで都会こえぇよ!」

BもCも、「は? 何言ってんだよ(笑)」と笑いながら聞いてくれなかった。

俺は、さっき電車の中で起こった出来事を、一気にまくし立てて説明した。

途中まで冗談っぽく聞いていた3人も、俺の本気の表情に、少しずつ空気を変え始めた。

その時――

「ピンポーン」

チャイムの音が鳴った。

時間は、夜の11時を回っていた。

こんな時間に来客などあるはずもない。

Bが冗談めかして口にした。

「……アケミちゃん、じゃないよな?」

その場にいた全員が、一瞬にして凍りついた。

俺は顔面蒼白だった。

Aが「まさか……マジか?」と呟きながら、足音を忍ばせて玄関へと向かった。

そして、ドアスコープを覗き、戻ってきたAがこう言った。

「……すげー可愛い子が、ニコニコしながらドアの前に立ってる」

チャイムは、今も鳴り続けていた。

Aの言葉に、その場の空気が一変した。

「……すげー可愛い子が、ニコニコしながらドアの前に立ってる」

誰もが、まさか、とは思いながらも「それは絶対アケミちゃんだ」と直感していた。

ピンポーン、ピンポーン――

チャイムの音は、むしろ先ほどよりもリズミカルに、楽しげに鳴り続けている。

まるで「開けてよ、ねえ開けてよ」とでも言っているようだった。

「おい、ふざけんなよ……どこまでつけてきたんだよ、あいつ」

俺はもう、背中から冷や汗が止まらなかった。

AもBもCも、最初は半信半疑だったはずなのに、今は全員が固唾を飲んで、ドアの向こうを警戒していた。

「絶対開けんなよ」と念を押す俺に、Aは無言で頷いた。

アパートの小さな一室は、チャイムの音だけが響いていた。

だがそのとき、不意に“カチ、カチ”という音が、ドアの向こうから聞こえてきた。

――あの音。

電車の中で、確かにアケミちゃんが発していた、包丁がぶつかり合うようなあの音だ。

全員が一斉に顔を見合わせた。

誰かが冗談だと言ってくれないかと、願うような沈黙が続いた。

5分ほど経った頃、ようやくチャイムが鳴り止んだ。

誰も動かない。誰も声を出せない。

Aが再びそっとドアスコープを覗きに行き、数十秒して戻ってきた。

「いない……もう、いなくなってる」

だがその言葉が、安心をもたらすものではなかった。

「いない」ということは、今どこにいるのか誰にも分からない、ということだった。

その晩、俺たちは誰一人眠れなかった。

電気をつけたまま、カーテンも閉めず、ただじっと朝が来るのを待っていた。

誰かが外を見張って、誰かが廊下の物音に耳を澄ませていた。

アケミちゃんがどこまで俺を追ってきていたのか、なぜアパートの場所が分かったのか。

何より――あの包丁を、なぜ持っていたのか。

疑問は尽きなかった。

次の日、俺は最終的に警察へ相談に行くことにした。

交番で事情を説明すると、若い警察官は最初こそ苦笑いだったが、
「凶器のようなものを持っていた」という言葉に真顔になった。

しかし、残念ながら被害は何も起きていない以上、こちらからできることは限られているという。

ただ、「なるべく人目の多い場所にいるように」と忠告された。

それだけだった。

俺は少し落胆しつつも、警察に相談したことで、わずかながら気持ちが落ち着いた。

その日の午後、俺は地元に帰るために電車に乗った。

まだ警戒はしていたが、昨日の一件以来、アケミちゃんの姿は見ていない。

静かな車内で、ようやく少しだけ眠気が戻ってきた。

が、目を閉じようとしたそのとき、俺の携帯が震えた。

画面を見ると、知らない番号からの着信。

胸がざわついた。

出るかどうか一瞬迷ったが、結局通話ボタンを押した。

「……あの、昨日はごめんなさい」

女の声だった。

アケミちゃんだった。

電話越しに聞こえてきたのは、あの、透き通るような声だった。

「……あの、昨日はごめんなさい」

一瞬で、全身の血が逆流したような感覚に襲われた。

間違いない。アケミちゃんの声だ。

俺は言葉が出ず、ただ沈黙していた。

向こうも、すぐには何も言わなかった。

不自然な間が続く。

「……あのね、あなたに謝らなきゃと思って」

「……どうして俺のことを……?」

俺は、ようやく絞り出すようにそう尋ねた。

すると彼女は、小さな声でこう言った。

「会った瞬間、分かったの。あなたが、“あの人”に似てるって」

“あの人”?

「……あの人って?」

「昔、私が……殺された相手」

その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが壊れた。

頭の奥が一気に冷えていくような、重たい沈黙。

その声は、まるで昔のことを懐かしむように、しかし確かに憎しみを帯びていた。

「嘘……だろ?」

震える声でそう呟くと、彼女はふっと笑ったように続けた。

「私ね、あなたのせいで――まだ、ここにいるの」

まるで、この世に“囚われている”とでも言うように。

背後でAたちが不安そうにこちらを見ている。

俺は混乱のまま通話を切った。

だが、それからだった。

俺のまわりで、“奇妙な出来事”が次々と起こり始めた。

部屋の電気が夜中に勝手についたり消えたりする。

誰もいないはずの玄関で、たびたび足音がする。

AもBも、「気配」を感じるようになったと言い出した。

気がつくと、皆がアケミちゃんの“呪縛”のなかにいるような、そんな錯覚に囚われていた。

ある日、Cが突然、深夜に「外に誰かいる」と言い出した。

全員が息を殺し、ベランダ越しに外を覗く。

すると、街灯の下――アケミちゃんが、あの時と同じ姿で立っていた。

しかもこちらを見上げて、確かに、微笑んでいた。

動けなかった。声も出なかった。

だが次の瞬間、その姿が“スッ”と消えた。

誰もが、「見間違いじゃない」と確信していた。

それはもう、ただのストーカーや偶然などでは、説明がつかないものだった。

Aが呟いた。

「……あれってさ、ほんとに“生きてる人間”なのか?」

BもCも、うなずきながらも口を閉ざした。

この恐怖に、言葉はもう通用しないと感じていた。

俺はふと、昔読んだ“地縛霊”や“浮遊霊”という言葉を思い出していた。

彼女は本当に“生きた人間”なのか? それとも――

その夜、俺はひとり決意した。

このままではダメだ。

次にまたアケミちゃんが現れたら、逃げずに“話をする”と。

なぜ俺を追うのか、なぜ現れるのか、何を訴えたいのか――

それを知ることだけが、俺たちが解放される唯一の道だと感じていた。

それから数日、俺たちは部屋に籠もるようになった。

窓はすべてカーテンで覆い、外の気配を感じないようにしていたが、それでも誰かに“見られている”ような気がしてならなかった。

その晩、俺は夢の中で、再び“アケミちゃん”と出会った。

白い服に、濡れたような長い黒髪。

彼女は何も言わず、ただ真っ直ぐ俺を見つめていた。

その目には、怒りでも悲しみでもない、もっと深い“孤独”があった。

俺は震える声で問いかけた。

「……どうして俺を、追うんだ」

すると彼女は、口を開いた。

「私は、あなたじゃなくて――“あの時の彼”に、話をしたかったの」

「……でも、もう届かないから」

「だから、似ているあなたに、私のことを知ってほしかったの」

彼女の声は、まるで深い井戸の底から響いてくるようだった。

目を覚ますと、朝だった。

あれが夢だったのか現実だったのか、判然としない。

ただ一つ、確かなのは、俺の中で“彼女を知りたい”という想いが芽生えていたことだった。

その日、俺はひとりであの廃屋に向かった。

アケミちゃんと初めて出会った、あの廃墟――

あのときは気づかなかったが、よく見ると、庭の一角に朽ちた祠のようなものがあった。

中を覗くと、白黒の写真が一枚。

そこには、微笑む少女の姿が写っていた。

まさに、あの“アケミちゃん”の面影だった。

そして写真の下には、手書きの小さな紙が添えられていた。

《昭和四十七年 ○月○日 享年十四歳》

胸が締めつけられた。

「本当に……幽霊だったんだ」

目の前がゆらぐ。

まるで、彼女の存在が今この場所に“染み込んでいる”かのようだった。

俺は手を合わせ、静かに祈った。

「アケミちゃん……ごめん」

「君のこと、何も知らずに――怖がってばかりで」

「……でも、ちゃんと覚えている。君のことを」

そう呟いたとき、不思議なことが起こった。

吹いてもいなかった風が、祠のまわりだけふわりと流れた。

その瞬間、俺の心のなかに、あの夢で見た“深い孤独”が静かに溶けていくのを感じた。

まるで、彼女が“許してくれた”ような気がした。

それから、アケミちゃんの姿はぱったりと現れなくなった。

俺たちの部屋にも、不思議な気配は一切消えていた。

あれは夢だったのか、現実だったのか。

ただ、確かなのは――

俺のなかで、彼女の存在は今も深く、静かに生き続けている。

あの祠で手を合わせて以来、アケミちゃんの姿を見ることはなくなった。

部屋に満ちていた重苦しい気配も、まるで潮が引くように消えていった。

ただ一つ、残されたものがあった。

あの時、祠の中に置かれていた少女の写真――

あれを見てから、なぜか俺は、あの顔に見覚えがある気がしてならなかった。

ずっと思い出せなかった。

でも、ある日ふと、昔のアルバムを開いていたとき――

祖父母の古い家で撮られた集合写真の中に、あの顔を見つけた。

そこには若かりし日の祖母、そして隣に写る、笑顔の少女。

それが、アケミちゃんだった。

俺はすぐに母に写真を見せ、訊ねた。

「この子、誰かわかる?」

母はしばらく写真を見つめ、そして静かに語り出した。

「……この子ね、アケミちゃん。おばあちゃんの妹だったのよ」

「小さい頃に、事故で亡くなったって聞いたわ」

「おばあちゃん、ずっと後悔してたの。“あの時、手を離さなければ”って」

俺の背中を冷たいものが流れた。

あの少女は、血のつながった親族――

俺に似ている“彼”とは、もしかすると若き日の祖父だったのかもしれない。

いや、それとも――

いくつかの偶然、いくつかの縁が重なって、“彼女”は俺の前に現れたのかもしれない。

何十年という時を越えて、ようやく誰かに“覚えていてほしい”と願って。

ようやく誰かに、声をかけてほしかったのかもしれない。

俺は写真を丁寧に額に入れて、机の上に飾った。

そして、そっと語りかける。

「アケミちゃん、君のこと、忘れないよ」

「誰も覚えていなくても、俺がちゃんと覚えている」

「だから、もう――安心して、休んでいいよ」

その夜、ふとした夢の中で、アケミちゃんが立っていた。

白いワンピース姿のまま、やわらかく微笑んでいた。

何も言わず、静かに一度だけ頷いて――

やがて霧のように、溶けていった。

それが、彼女を見た最後だった。

人は、死んでも本当に消えてしまうわけじゃない。

誰かがその存在を覚えているかぎり――

想いは、どこかに、きっと残り続ける。

アケミちゃん。
どうか、どうか、安らかに。

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