
6年前、まだ私が十代の頃の出来事です。
深夜、私と友人、そして年上の先輩二人の計4人で、地元で有名な心霊スポットへ向かうことになりました。
その場所は山奥の廃墟で、かつて地下で十人近い人々が火をつけて心中したという噂や、裏手の崖から落ち武者が現れるという話が広まっていました。
先輩たちは車内で「地下にも行くぞ」と友人をからかっていましたが、現地に到着すると口をそろえて「うわ…マジで怖い」と言い、車から降りようとはしませんでした。
私が「降りないんですか?」と尋ねると、「じゃあお前が行けよ」と言われました。友人は私のTシャツの裾を掴み、「絶対やばい、ここは危ない」と必死に止めようとしましたが、先輩たちに促され、私は彼の手を振りほどいて外へ出ました。
廃墟の周囲を一周し、崖も覗いて戻りましたが、特に何も起こりません。先輩たちは「じゃあ一晩ここで泊まってみろよ」と提案してきました。冗談だと思って笑い飛ばしましたが、「10万円やるならどうだ?」と言われ、本気で財布から一万円札を10枚取り出す先輩A。私は「後で返せと言っても返さないからな」と念を押し、受け取りました。
条件は「地下に行くこと」。懐中電灯片手に地下へ向かうと、壁は火事の跡で真っ黒に焦げていました。報告を終えると、先輩たちは「明日の朝9時に迎えに来る」と言い残し、笑いながら去っていきました。
真夜中、廃墟の片隅で夜を明かすことにした私は、暇を持て余しながらも、眠気に負けてしまいました。
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朝5時過ぎ、夏の早朝の光に包まれて目を覚ました私は、山道を少し散歩して野ウサギを見つけ、のんびりと時間を潰しました。
しかし約束の9時を過ぎても先輩たちは来ません。電話をかけると「寝てた」との返事。結局、迎えが来たのは11時半過ぎでした。
車に乗り込み、山を下り始めたその時、私の足首を誰かが掴みました。後部座席には私と友人、そして先輩Aの彼女。二人とも手は見えています。冷たい指が爪を立て、じわじわと食い込んでくる感触に背筋が凍りましたが、車内をパニックにさせたくなくて必死に平静を装いました。
山を下りる手前でようやく掴む力が消え、コンビニに寄ったタイミングで先輩Aを呼び出し、足首に残った爪痕を見せました。先輩Aは顔を真っ青にして、「なんでその時言わなかったんだ」と声を震わせました。
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その日の午後、自宅に戻った私はドアを開けて息を呑みました。部屋の奥に、坊主頭で猫背、ジャージ姿の男が立っていたのです。声をかけても反応せず、近づくと距離を取るようにベランダへ移動。刃物もないようなので、出て行くよう促しましたが、微動だにしません。
目が合った瞬間、異様な違和感を覚えました。普通の人間のはずなのに、どこか不自然な表情。そして腕を掴むと、ダンボールのように中身が詰まった重い感触がしました。男は静かに玄関から出て行きました。
しかし次の瞬間、トイレのドアが激しく鳴り、続いて台所の戸棚を開けると、中に別の男の顔がありました。睨むような目と目が合い、私は黙って戸を閉めました。
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夕方、バイト先で「霊感が強い」と自称する女性に心霊スポットの話を聞くと、そこは更生施設で、不良や知的障害者が収容されていたという噂がある場所だと知りました。
その時、先輩Aから慌てた声で電話が入りました。「友人がおかしい!助けてくれ!」。駆けつけると、友人は絶叫し続け、泡を吹いています。落ち着かせようとしても効果がなく、強く怒鳴った瞬間、友人は泣きながら私にしがみつき、「離れないでくれ」と懇願しました。
話し合いの末、私は一人で廃墟に向かい、地下で「すみませんでした」と謝罪しました。しかし山を下る途中、今度は後部座席から女性の手が肩を掴み、爪を立ててきました。広い路肩に停車し、「もう行きませんから」と伝えると、力が抜け、やがて消えました。
二日後、再び友人が叫びだしましたが、私が冗談めかしてカウントすると、急に静かになりました。それ以来、彼に異変はなくなりました。
今でも時折、説明のつかないものを見ることはありますが、私は元気です。