白い傘を差した人
公開日: 本当にあった怖い話 | 死ぬ程洒落にならない怖い話
ある日、友人と遊んだ後、雨が降っているし時間も遅いからということで友人を家に送った帰りの話。
今週の漫画をまだ読んでいないなと思い、コンビニへ行った。店内に客は自分だけ。
一冊目を手に取ってふと顔を上げると、コンビニの前の道を白い傘を差し白い服を着た人が歩いていた。
こんな時間に何してんだと思いつつ、本に目を落とした。
一冊目を読み終え、次に読もうと思っていた本を手に取り顔を上げると、さっきの人が前の道を歩いていた。
歩道とコンビニの間には駐車スペースがあるから、至近距離で見た訳ではないけど、見た目も歩き方も同じだったから一目で分かった。
変だなとは思ったが、色々な人がいると思いそれほど気にしなかった。
二冊目も読み終え、次に先ほど店員さんが並べてくれた今日発売の雑誌を手に取り、読む前に同じ姿勢で疲れた肩を回す。
すると、また前の道を歩いている人が。さっきと同じ白い傘を差した人。
さすがに薄気味悪かったので、その後は窓の外へ目を向けず漫画に集中した。
※
更に二冊ほど読み終え、顔なじみの店員さんと少し会話し、ご飯を買って外へ。
雨は小雨になっていたけれど、また強く降ってくると嫌だし早く帰ろうと歩道へ出た瞬間、ドキッとした。
20メートルほど先を歩く、白い傘を差した人の姿。
田舎だからそんな時間に走っている車は殆ど無く、街灯も少ないので、コンビニから離れると辺りは物凄く暗い。そのせいで余計不気味に思えた。
何か嫌だな…とわざとゆっくり歩いているのに、それでもどんどん距離が縮まって行く。どんだけ歩くの遅いんだよと思った。
前を歩く白い傘の人との距離が3メートルほどになり、なんとなくこれ以上近付きたくなかったし追い抜く気にもなれなかったので、大分早いけどあの路地曲がるか…と思っていると、その人がその路地を曲がって行った。
ほっとする気持ちもあったが、何もされていないのに勝手に想像してごめんなさいという気持ちもあったので、その人の後ろ姿に向かって軽くお辞儀をした。
その瞬間、その人が何か言っているのが聞こえた。
少し驚いたけど、こちらの方は向いていないし独り言だと思うことにした。
※
そのまま歩いて次の路地を横切ろうとした時、なんとなく右を見た。
見慣れた住宅街が見えた。白い傘を差して歩く人も見えた。
背筋がぞっとしたとか、ありきたりなことしか言えないけれど、嫌な感じがした。
だってさっきまでは、こちらがゆっくり歩いていても距離が近付くほどゆっくり歩いていたはず。
でも今は、どちらかと言えば早足。いつもよりほんの少し大股で歩いている。
なのに相手も、一本奥の道を平行して歩いている。
何か嫌な感じがしたのでそれを振り払おうと、偶然か若しくはこちらを意識して歩く速度を変えて遊んでいる障害者か何かだろう、と思うことにした。
でも、何度路地を横切っても、白い傘を差した人が一本奥の道を歩いている。
見えないところで歩く速度を速くしたり遅くしたりしても、自分が横切る時に向こうの人も横切って行く。
凄く怖くなって、脇目もふらず大通りまで走った。
頭の中では自分に向かって、『これはただ雨が少し強くなってきたから、濡れたくないから走ってるだけ』と言い聞かせていた。
※
大通りまで出るとさすがに数台の車が走っていて、少しほっとした。
大通りを渡る時に右を見たが人影は無く、それ以前に、向こうの路地から大通りへ出ても横断歩道が無いのだから渡れるはずもない。
それでももしかしてと思い、大通りを渡って一つ目の路地を横切る時に、勇気を振り絞って右を見てみた。
誰も居なかった。
その後の路地を横切る時も、誰も見えなかった。
当たり前だよなと落ち着きを取り戻して歩き続け、この路地を曲がればもうすぐ家だと、いつもの所で右へ曲がった。
奥の路地から、白い傘を差した人が出てきた。
『え?』と思った時には、白い傘を差した人は路地を曲がってこちらへ歩いて来た。
鳥肌が立った。
やばいと思った時には、もう元来た道を走っていた。
見られないように全力で走り、一つ前の路地を曲がった。
それなのに曲がった路地の奥の道から、白い傘を差した人が歩いて来た。
道の真ん中まで出てきて、その体勢のまま不自然な感じでぐるりとこちらに向き直り、歩みを進めて来た。
寝静まって真っ暗な住宅街のど真ん中で、道が交差する付近には街灯があるものだから、白い傘と白い服は物凄くはっきり目に映った。
深夜だというのに大声が出た。「うわぁああ!」って感じの。
持っていた傘もコンビニの袋も放り投げて、一目散にその場から走った。
※
走りながら友人に電話をかけて、「今から行くから家に入れてくれ」とお願いした。友人は寝る間際で、数時間前に送ったばかりだというのにOKしてくれた。
助かったと急いで走って向かったのだけれど、大通りを越えてコンビニを過ぎ、道路を横断して曲がろうとした先で、白い傘を差した人が立っているのが見えた。
もうこの時には、『何で?』としか考えられず、曲がるのをやめてそのまま次の路地を目指したのだけど、そこでも白い傘を差した人が奥の路地から出て来た。
もう嫌だと思いながら道を先に進んでいると、携帯が鳴った。
けれどおかしなことに、着信ではなく不在着信の表示。しかも3件。
時間を確認するともう午前4時を回っていて、自分の中での時間はまだ10分程度だと思っていたのに、既に1時間近く経っていた。
町から出ていないし、それ以前に、曲がれないからこの通りを抜けていないのに。
住んでいるはずの町が知らない町のようで、凄く怖くなった。
※
友人に電話をすると、『まだ? 今どこ? こないの?』と、眠そうな声が電話から聞こえてきた。
「行きたいけど無理。曲がれない。曲がった先に白い傘を差した何かが先回りしてる」
と、きちんと言えたか分からないがそう伝えると、友人は、
「何言ってるかわかんないけど、先回りされるなら追わせればいいんじゃない?」
と返してきた。
でも、言われても何も考えられなくて、
「え? え? なにいってんの? 意味わかんねー!!」と返すのが精一杯。
語気を強めて意味不明なことを言う自分に、友人は怒ることなくゆっくり丁寧に、
「一度曲がりたい方向と逆に曲がるでしょ? そしたら前に先回りされてるんだよね?
それから後ろ向いて、追われる形で真っ直ぐ道を進めば、行きたい方向にいけない?」
もう何でも良いから縋りたい一心で「わかった」と言い、友人の言う通りにしてみた。
もう何も考えられなかった。
すると、本当に曲がった先に白い傘を差した人は現れるけれど、後ろを向いて逃げても追いかけては来ない。
正確には、こちらに向かって歩いては来るけれど、ソレは自分が曲がった角の所まで来たら戻って行く。
でも、また別の角を曲がったり、路地へ入ろうとしたりすると、その先の道から出てくる。
『行ける!』と思った途端、周囲に誰も居ないのに「ボオオ、オ、ア、」と、声なのだけど言葉ではない音が後ろから聞こえてきた。
感覚的に、『ああ、アレが喋ってる』と思い、より一層足に力を入れて走った。
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ようやく友人の家の近くまで来ることができ、そのことを電話で伝えると、家の前まで出て待っていると言ってくれた。
本当に家の前で待っていてくれた友人の元へ行くと、
「びしょびしょ(笑)。傘どうしたの(笑)」
と言って笑っており少し安心したけれど、見たことを説明し、走って来た道の先を一緒に見てもらった。
暗いし遠いのに、でもはっきりと向こうの十字路に、白い傘と白い服を着た人の姿があった。
驚いた顔の友人と慌てて家に入った後、少し遠くから低音の人の声のような音がずっと聞こえていて、友人が飼っている猫が、窓やら玄関やらを行ったり来たりしていた。
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明るくなって車の音がうるさくなってきた頃には、いつの間にか声のような音や嫌な感じは無くなっていた。
その日の内に県内の御祓いで有名な神社に二人で行き、御祓いをしてもらったのだけれど、よぼよぼの神主さんは、
「忘れたほうがいい。理解出来ない者は数多くいて、それがなにかは私にもわからない」
とだけ説明してくれた。
※
今思い出しても寒気が止まらない体験で、まだ冷静に書けない。
これを読んだ誰かが同じようなことに遭遇した時は、友人の言葉を思い出して欲しい。