サヨちゃん
公開日: 不思議な体験 | 死ぬ程洒落にならない怖い話
俺は小学校に入るまで広島の田舎の方に住んでいた。
その時に知り合った『サヨちゃん』の話をしよう。
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俺の母方の実家は見渡す限り畑ばかりのド田舎で、幼稚園も保育園も無い。
俺は母親と祖母と共に家で遊ながら父親の帰りを待っている毎日で、退屈し切っていた。
近くの町に出掛ける時だけが楽しみで、よくお決まりの公園に行っては、買い物をしている母親を待ちながら遊んでいたものだ。
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ある日、公園に同じ歳くらいの可愛い女の子が居て、一緒に遊ぶようになった。
その子は『サヨちゃん』と言ってこの町に住んでいるらしく、一人で遊びに来てるらしい。
黒いスカートと白いシャツを着たオカッパの可愛い子で、俺はすぐに打ち解けて砂遊びを始めた。
乾いた砂場をスコップで掘り返し大きな砂山を作って、二人で両方の側面から穴を掘って行く。
手で砂を掻き分けながら掘り進み、ちょうど山の内部でお互いの手が触れ合えばトンネル開通だ。
俺は『そろそろサヨちゃんの手に触れるかな?』と思いながら真ん中辺りまで掘り進めた時、何かが俺の手を掴んだ。
そのまま俺は凄い力で引っ張られ、頭から砂山に突っ込んだ。
しっかり押し固められた砂山は崩れず、俺は砂山に押し付けられる形で窒息しそうになり「やめてよ!サヨちゃん!」と叫んだ。
すると、「え? な~に~?」とサヨちゃんが砂山の向こう側からこちらを見ていた。
サヨちゃんは中腰姿勢で手を砂山に突っ込んだまま、俺を見ながらニヤニヤしていた。
それはどう見ても5、6歳の少女の手の長さとは考えられず、俺は訳の解らないまま「やめて!やめて!」と連呼した。
そこにタイミング良く母親が帰って来て、俺はサヨちゃんの手から解放された。
しゃっくりを上げ始めていた俺の横をすり抜けて母親に礼をすると、サヨちゃんは走り去って行った。
子供ながら、母親に話しても信じてもらえないと考えた俺は、結局何も言えずに家に帰った。
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それ以来、どうも俺は彼女に目を付けられたらしい。
母親は町に出掛ける度に俺を公園にほっぽり出し、俺はその度にサヨちゃんと遊ばなくてはいけなかった。
彼女はいつも黒いスカートと白いシャツの一張羅で、親が付き添って来た事は一度も無かった。
ちょうど母親が公園から出て行くのを見計らうように、入れ違いに現れるのだ。
公園には他の子供が先に遊んでいる時も多々あったが、サヨちゃんが公園に入って来るだけで、俺と同じくらいの年の子はおろか小学校の高学年らしき子さえもコソコソ逃げ出して行く。
俺は何よりサヨちゃんに逆らう事が出来ず、サヨちゃんの言いなりだった。
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公園の片隅に落ちていたライターにサヨちゃんがちょんと触るだけでいきなり火が点いた事があった。
また塀の上を歩いている猫に向かって、サヨちゃんが枯葉を丸めて投げつけると、猫が受身も取らずに背中から落ちた事もあった。
サヨちゃんに会う毎に信じられない事が度々起こり、俺は彼女に会う事に恐怖を感じるようになった。
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その内、自然と家に篭もりがちになり、母親の買い物にも付いて行かなくなった。
子供ながらサヨちゃんから逃げようとした訳だ。
公園に行かなくなって一ヵ月くらい経った後、久々に父母共に親子揃って買い物行こうという事になった。
親父が車を出すと言うので、それならサヨちゃんに会わなくても済むと思い、俺は快諾した。
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デパートを回って楽しい一時を過ごした後、俺の乗った車は帰り道で公園の前に差し掛かった。
公園の入り口はこちらの車線の歩道にあり、タイミングの悪い事に車はちょうどその入り口近くで信号機に停められた。
俺は内心サヨちゃんに見つからないようにドキドキしながら、窓からこっそり公園の中を窺った。
すると、彼女は居た。一人で。何か指差しながらゲラゲラ笑っていた。
余程可笑しいのか、まるでのたうち回るように地面に這いつくばって笑い転げていた。
俺は唖然となったが、その時、信号が青に変わって車が発車した。サヨちゃんの姿が視界の外に流れて行った。
しかしサヨちゃんの指先は俺の車の動く方向へスライドして行った。
彼女は俺の乗った車を指差して笑っていたのだ。
俺はなぜ俺が乗っていたのが判ったのかと怯えた。
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次の日、親父は車の激しい追突事故でカマを掘られ、頚椎に損傷。ほぼ一生入院生活が決まり、九州の病院へ。
母親と俺は共に九州へ行き、父方の実家の世話になり、そこで小学校に入学した。
サヨちゃんと会う事はもう無かった。
俺は親父の事故は彼女のせいだとは思っていない、と言うか思いたくない。
俺まで連帯責任を感じてしまうし、何よりあの女の仕業かもと考えるだけで恐ろしく、何より忌々しく感じて今でも腹が立つからだ。
これが俺が子供の頃に体験した本当の話。