障り

田舎(フリー素材)

試験勉強に行き詰まったから、気分転換に後日書こうと思っていた話をするよ。

登場人物は下記の通り。

俺: 都内大学4年(暇人)

A: 同じクラスの男(野球部)

B: 同じクラスの男(サークル)

先日、俺とBは大学の友人であるAの自宅に遊びに行った。

Aの自宅は大学から程近く、その地元ではかなり有名な一族の家。

どれだけ有名かと言うと、普通にAと同じ表札が沢山あり、その町の議長さんもその一族。

十五宗家などというものがあるらしく、Aはその宗家の一つの長男だそうだ。

他の数多いAの名前の人達は、A曰く「分家だよ~」とのことだった。

取り敢えず、ずっと都内に在住しているけど『こんな町があるんか!』と正直驚いていた。

期待した通りに、Aの実家は結構大きかった。

でも、公共事業の道路拡張か何かがあった影響で、Aは「元居た屋敷から立ち退いたんだよね~」と言っていた。

爺ちゃん達との二世帯住宅とは言え、立ち退いて都内200坪オーバーはおかしいだろ。

まあ、家のことはどうでもいいや。

少しだけ気になったのは、その庭に少し古めかしいミニ神社みたいなのがあったんだ。

俺「何あれ?」

A「……まぁ、あれだよ。神様っぽいの」

あまり聞いてはいけないものだったのかな…という反応だった。

いつもニコニコして「何とかだよ~」と気さくに語尾伸ばした喋り方なんだ、Aって奴は。

B「うひゃ、すっげ!」

A「……まあ、早く飯食おう」

取り敢えず空気を読んで、俺もBもさっさとA宅に入って行った。

洒落怖好きなので「あとでデジカメで撮ってやるかなぁ」と思っていた俺は馬鹿だと思う。

夕飯は豪華だった。Aの母親(以下A母)は料理が巧い! 酒も美味かった!

妹(以下A妹)も可愛かった。それもあってかBは酒に弱いのに随分と飲んでいた。

Aが居なければ間違いなく口説き始めていたんじゃなかろうか(笑)。

と、まあ、試験対策の話とか、法学部だから今年の研究をどうするか、などと話して夜は過ぎた。

Bは大学から2時間掛かる実家在住なので、深夜にならずに俺もBも帰宅することに。

俺はほろ酔い。Bは泥酔とまではいかないけど、一人で帰宅させるには心配な状態だった。

取り敢えず、玄関を出て正面門まで行った時。

俺「そいじゃ、また来週の月曜にね」

A「テスト中に解答見せてね(笑)」

と普通に喋っていたら、Bが「ほっほ~」などと言いながら走り出した。

それで、例の変なミニ神社っぽい所に行った訳だ。俺とAは何となく眺めていただけだった。

B「……ドアなんか、付いてるんだ」

酔いどれBが手を伸ばした瞬間だった。

A「ごるぁっ!!!!!!!」

流石は野球部と言わんばかりの大声を出して走り出した。

Bもビクッとした様子だったけど、その後にそのまま尻餅をついて動かなくなった。

俺は正直、Aの声にびびって尻餅ついたんだと思っていた。

でも、すぐさまBの所に駆け寄ったAの様子がちょっとおかしかった。Bの方を叩いてBの名前を連呼していた。

Bは尻餅をついたままの格好で反応が無い。

俺「……何をふざけてるんだよ」

B「ぎぎぎぎぎぎっ!」

歯軋りをたて始めた。Aは相変らずBの名前を連呼している。

俺「おいおい、何をやってんだよ?」

A「お母さんよ! やっばいぞ、ちょっと来てくれ!」

と大声で叫び始めた。

時刻は23時くらいだから、まだ近所も起きているとは思うが、ちょっと迷惑だろう。

俺「…おい?」

A「ふざけてんな馬鹿、早く呼んで来い!!」

凄く大きな声だった。Aの声にビビッていると、俺が呼ぶまでもなくAの一家が駆け出して来る。

A母「どうした!?」

A「わけわかんねぇ、こいつ」

A母「……しっかり見てなかったのか、アホ!!」

A「こいつが急にやりやがったんだ!」

A母「すぐにお父さんに電話! あとはD寺にも!」

A妹「解った。何て言えばいいの?」

A母「○様って言えばわかる!」

すぐさまミニ神社の扉みたいなものを閉めるA母。

A爺「……宗家の連中にも一応、声かけておくか」

とだけ言い残してA婆と一緒に自宅へ。

B「あう~あう~あう~」

と、よく解らない声を出しているB。それを抱きかかえながら名前を連呼して背中を叩くA。

流石に酔いが冷めてきて気味が悪いし、物凄く怖くなってきてしまった。

すぐさま携帯を取り出して、

俺「……け、警察ですか!?」

A「警察なんていらねぇんだよ、黙ってろ馬鹿!!」

今までの俺の知っていたAではなかった。

暫くすると、A父が帰宅。

同じようなタイミングで、D寺から住職さんが到着(以下D住職 これも遠い血縁者らしい)。

一階の仏間に引き摺られていたBは、白目を剥いて魚のように口をパクパクさせながら、相変らず「あう~」と訳が解らない声しか出さない。

A爺、A婆、A母、A父、A、D住職がBを取り囲んでいる。俺はと言うとA妹と少し離れた場所に正座していた。

Bがどうなっているのか。それも怖かったけど、線香が漂う中、Aの一家が妙に不気味に感じて仕方がなかった。

洒落怖などを見ていて、調子に乗っていた自分が物凄く嫌になった。

目の前で友達一人が奇声を上げただけで本気でビビッてるくらいだからね。

A父「どうですかね?」

D住職「……まぁ、大丈夫だと思いますよ。当番はどこでしたっけ?」

A父「うちの当番は、○年前です。今は『○屋』さんですね」

何やら聞き慣れない屋号の名前が出てきた。

Aに後で聞いた限りでは、宗家はそれぞれの「屋号」があり、それでお互いを呼び合っているらしい。

暫くはBの様子を伺っていたけど、

D住職「なるほど」

A爺「何年ぶりくらいですかね、こういうの」

D住職「この子も運が悪かったね」

何か、淡々と事が進んで行く。

「プルルルルルルル!」

突然電話が鳴った。

これにビックリした。思わず悲鳴を上げて飛び上がったので、A妹に失笑された。

A婆が電話を出るためにその場から去った。

相変らずBは「あう~」状態だ。

そんなBの背後にD住職は移動した。そして背中に耳を当てて目を閉じる。

D住職「そろそろ、お帰りなさい」

B「あう~」

D住職「そろそろ、お帰りなさい」

B「あう~」

何度かそんなことを繰り返していたら、

A婆「神社から、大丈夫かって電話が来ましたよ」

D住職「あぁ、今回は大丈夫そうだと伝えてください」

A婆「わかりました」

そしてD住職はまた同じ作業に戻った。

D住職「そろそろ、お帰りなさい」

B「あう~」

何というか、子供をあやしているようでじれったい。

俺は『お坊さんならお経でも読んで一発で除霊でもすれば良いものを!』などと考えていた。

D住職「そろそろ、お帰りなさい」

B「……ヤダ」

その声は明らかにBの声じゃなかった。全身に鳥肌が立つ。

これには流石にAの一家も驚いたようだ。

動揺が走ったが、D住職は落ち着いていた。

D住職「そろそろ、お帰りなさい」

B「……ヤダ」

D住職「お酒を用意します。これを飲んでお帰りなさい」

B「あう~」

そうしてからD住職はA爺に用意してもらっていた日本酒をBの口元に運ぶ。

半開きのBの口にそれを流し込むと、「バン!」と大きく背中を叩いて、

D住職「さぁ、お帰りなさい」

B「……」

そのまま静かになるB、それを見てD住職も「まぁ、大丈夫でしょう」と。

ようやくA一家にも安堵の表情が浮かんだ。

その後、俺もBもA家に泊まることになった。

A一族の○屋さんがふろしき包みを持ってA家に来たり、夜中だと言うのに何度も電話が鳴ったり、色々と慌しかったけど、無事に次の日を迎えた。

土曜日の朝、Bは何食わぬ顔で目を覚ました。

俺「大丈夫?」

B「ちょ~気持ち良く寝ちまった」

俺「……あ、そう」

という感じで、少しばかりBがむかついた。でも、何事も無さそうで良かった。

何せ「……ヤダ」という声には驚いた。あれが所謂壊れたレコーダーの音みたいなやつだね。

話としては以上。

Aに聞いた話は、国際法の勉強が一段落して気持ちが乗ったら書いてみようかと思います。

長文、すみませんした

その後の投稿

国際法の勉強から戻りました(笑)。

取り敢えずAと連絡を取りながら、再確認。

取り敢えずAに報告したら、

「お前ビビリすぎだよ~。場所ばれたら殺す。逃げても無駄だから」

とのメールを絵文字なしで頂戴いたしました。

まず歴史背景から。

Aの一族は源氏に属しており、鎌倉時代に関東より北の方から恩賞として土地を与えられ、都内某所へ。

Aの名前は昔の土地でも有名で、現代でも各所に残っている。

確かに地図を見たらあった。

今の場所に移ってからも更に約800年くらい続いている一族。

これだけでも俺からするとやばい。

例のD寺が建立から600年らしく、土地問題などA一族が色々と貢献してきたらしい。

そのため、D寺からも色々と良くしてくれる。多分こういう対応も含めて、名前だけ出た神社にもA一族が色々と絡んでいるらしい。

A一族どんだけだよ!

それで、今回の「あれ」は何か。

祀られているものの名前は、公表すると判る人には一発で判るらしいのでダメ。

粗末にすると本気で祟られるらしい。

Aもこれを本気で信じ込んでいるので、一族を裏切る真似はできないと語る。

取り敢えず、Aの言葉通りに「神様」だということ。

俺「神様なら神社じゃないの?」

A「正体言ったらばれるから。取り敢えず神様っぽいものよ~」

Aの一族の中でも21宗家だけで毎年「主」を決め、その「神様」を迎えるらしい。

『コトリバコ』のように呪いを薄めるとかではないらしい、残念!

Aの家が担当だったのは4年前で、ちょうどAの大学受験の時だったらしく「主」の準備で手一杯で、家族にはとても受験に構ってもらえなかったと語っている。

A以外の宗家の人の庭にも同じミニ神社があるらしい。

この担当を回す行事にも特定の名前があるらしいけど秘密。

取り敢えず秘密が多いのは、

1. 数年前に某研究会がこれの調査に来たため、ばれる恐れあり

2. それに一部団体への対応が面倒ということ

その代わりにサービスでAはその儀式について教えてくれたよ!

初日は「主」が沢山食事を用意して置く。

そして祭っている神様の本殿がある土地があり、そこに一族の人を迎えて宴会を行う(ただし、参加は大人だけ)。

古くから本殿近くに住んでいる人には迷惑を掛けるからと招待したりするらしい。

A一族の人間は、ある程度の年齢になるとこの宴会に参加し、一族デビューするらしい。

そう言うAも成人した後、この宴会の詳細を知ったそうだ。

取り敢えず、丸一日本殿の場所で宴会みたいなことをしたら、この儀式の本番は二日目。

早朝に20宗家の代表だけが集まる。Aの家は昨年からA父に代替わりしたらしい。

そこから先は宗家代表しか知らないらしい。ここで何か特別なことをするらしいのだが、これは絶対に宗家の代表だけでやらなくてはいけないそうで、調べようもないとのこと。

他にも嫁の行事やら何やら決め事が多いそうだ。A母が面倒臭いと言っているらしい。

以上が俺の聞いた話だ。

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